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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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動き出す皇国と王国

ガラン皇国皇都。


五大国の中でも一、二を争う兵力、国力、経済力を持つ強大無比なガラン皇国の首都である。


広大な土地を高い城壁が覆う城塞都市であり、通りには所狭しと露店が並び人々で溢れかえる経済都市でもある。


その地でも既に竜騎士の国の噂は広まりつつあった。


そして、ガラン皇国軍によるレンブラント王国侵攻と、その失敗についても、様々な情報網から確かな事実として人々に認識されていく。


ガラン皇国皇都の中心に聳える巨大な城。


白と灰色、茶色の煉瓦を外壁に用いた直線ばかりの無骨な外観の城であり、増改築を繰り返したのか、形は左右非対称な造形である。


その城内にすら、竜騎士の噂はひっそりと忍び込んでいた。


神話の英雄伝説が現実のものとなった。それは庶民には堪らない噂話のネタとなるが、自国の軍が壊滅した話でもある。


故に、城内では極めて密やかに、しかし確実に噂は広まっていた。


その噂を耳にした皇国の重鎮も、苦虫を噛み潰したような顰めっ面で通路を忙しなく歩いていた。


背は低いが全体的に筋肉質な分厚い体をした初老の男だ。男は白髪混じりの髪を後ろに撫でつけ、真黒のスーツに似た服装をしていた。


皇国皇都に勤める大臣の1人である。


「軍務大臣殿!」


「なんだ、将軍」


役職を呼ばれて、軍務大臣の男は斜め後ろに走り寄ってきた男を振り返り、そう返した。


将軍と呼ばれた中年の男は厳しい顔で軍務大臣の男を睨み据えながら歩く。


将軍と呼ばれた男は短い黒髪を起こしており、黒い軍服らしき服装で肩を怒らせて軍務大臣と並んだ。


将軍と呼ばれた男の背が高い為、軍務大臣は見上げるようにして将軍を睨み返している。


「噂を聞かれましたか」


「もはや赤子ですら知っておるわ」


将軍の問いに大臣は即座にそう返した。


将軍は短く息を吐くと、大臣から視線を外して通路の先を見た。


「…やはり、このような重要な戦で新参の傭兵上がりなんぞを使うべきではなかったのだ」


将軍が小さな声でそう呟くと、大臣は舌打ちをして将軍を睨み上げる。


「馬鹿者。あの者を指名なされたのは陛下だ。それに、例えお前でも勝てぬ戦であったやもしれぬ」


「はっ、はっははは」


大臣のセリフに、将軍は堪え切れないといった風に笑い出した。


「何がおかしい」


大臣が怒りの篭った目つきでそう口にすると、将軍は足を止めて笑みを絶やした。


「奴が引き連れた兵数は約8万。対して、王国軍は多くても5万。この兵力差で僅か数日で殲滅されたと聞く。このような史上最大の大敗北なんぞ、どんな馬鹿にも出来ませんな」


将軍がそう言ってまた笑い出すと、大臣は顔を顰めて立ち止まった。


「問題は多大な兵の損失だ。将軍の格付けなどしている場合か。それに、そのレンブラント王国の国境常駐軍を率いたのは噂に聞く竜騎士様らしいぞ」


大臣がそう口にすると、将軍は鼻を鳴らした。


その表情は完全に大臣の言葉を嘲笑ったものである。


「馬鹿な。神の代行者は英雄を導く者であり、国を興すような俗物ではないでしょう。大体、そんな夢物語なんぞを本当に信じる者などおりませんぞ」


将軍はそう言うと、立ち止まり将軍を振り返る大臣の横を通り抜けて通路の先へ歩き出した。


大臣は溜め息を吐くと、自信を感じさせる大股歩きの将軍の背中を見ながら同じ方向へ足を向けた。


その先には玉座の間があるのみである。


重苦しい鋼の両開き扉。


その扉を将軍がノックすると、扉は中の兵士たちによって開かれた。


将軍と大臣は並んで扉を潜り抜け、白と黒の虎柄のような毛皮の絨毯の上を革靴で歩いた。


先には2段だけの上り階段があり、高くなったフロアの奥に背凭れの高い玉座があった。


その玉座に、でっぷりと肥えた肥満体の男がいた。


年は20代後半ほどだろうか。


男は両手に宝石のついた指輪をし、赤いローブを身に纏っている。髪は灰色の髪で、真ん中から左右に分けて頬にかかるくらいに切り揃えてあった。


男は鋭い目つきで大臣と将軍を見やると、片手を2人に向けた。


「跪け」


男が一言口にすると、大臣と将軍、そして室内にいた8人の兵士達がその場に跪いた。


その様子を確認した玉座の男は、鷹揚に頷いて口を開いた。


「軍務大臣たるカリムと東方の守護神と呼ばれるトルガ将軍を呼び寄せたのは他でもない。此度のレンブラント王国侵攻についての話だ」


男がそう言うと、カリムとトルガと呼ばれた2人はピクリと反応して顔を上げた。


2人の顔を見て、男は溜め息をして自らの足に肘をおいた。


「全く、頭の痛いことだ。南西に詰めている兵士全てを足しても足りない程の兵士を失った。まあ、実際の兵士は3万で残りは傭兵と奴隷だがな」


男はそう言うと皮肉げな笑みを浮かべて笑った。


すると、トルガと呼ばれた将軍は眼光鋭く男を見上げた。


「皇国皇、ハカン様! 御心労の程、お察し致します。ハカン様の憂い、このトルガが晴らして見せましょう! 是非とも我輩にお任せください!」


「将軍、無礼が過ぎるぞ!」


トルガの突然の嘆願に、軍務大臣カリムが怒鳴った。


だが、ハカン皇国皇は不敵に笑って首を振る。


「いや、今のこの皇国を覆う暗雲を思えば、トルガの荒いくらいの気性が実に頼もしい。なにせ、西方の辺境アルダ地方を治めていた代官は、王国侵攻軍はたったの1日で1人残らず虐殺されたなどと妄言を吐く始末…もうその代官は処刑したが、そやつが言うには王国貴族を手玉にとる策は大いに成功したと言う」


ハカンがそう口にすると、トルガのコメカミに青筋が浮いた。


怒りに唇を震わせながら、トルガは床を拳で殴りつけた。


「馬鹿な! 数の優位に念入りに準備した策まで頂き、それで敗れるなど信じられません! その代官が逆に下手を打ち、折角の策を利用されてしまったのが事実でしょうぞ!」


トルガがそう吠えると、ハカンは深く頷いた。


「正しくそうだろう。全く、将軍にしてもそうだ。常勝無敗として有名だった傭兵団団長を将軍に抜擢してみたが、あの戦績はまぐれだったに違いないな。思えば、将軍になってからも数の利か地の利を得れる戦にしか打って出ておらん。少しでも不利な戦では籠城に頼る腰抜けであった」


ハカンはそう言って肩を竦めるが、カリムは眉を顰めて口を開いた。


「ハカン様、畏れながら申し上げますが、西方将軍であったレオニードは有能な人材でした。そのレオニードがなす術なく大敗を喫したことに警戒心を強め…」


「軍務大臣殿! 軍務大臣殿があの傭兵上がりを買っていたのは知っておりますが、現実は正確に見定めなければなりませんな」


カリムが苦言を呈しようとすると、言葉の途中でトルガが遮ってカリムの意見を否定した。


それに同調するように頷くハカンを見て、カリムは静かに目を伏せて頭を下げた。


次の日には、ガラン皇国は竜騎士の国エインヘリアルへの討伐軍を結成する為に動き出す。







「宰相! ビリアーズ伯爵の離脱は本当か!?」


王都の東の城門にて、低い男の声が響き渡った。


城門には200を超える兵士と豪華な二頭立の馬車、そして、馬車の前に立つ豪華なローブを着込んだ初老の男が立ち、一様に城門の外に向かって頭を下げていた。


そこへ、見事に飾られた馬に乗る30代ほどの男が駆けつける。


男は緩くウェーブをかけた金髪を肩まで下ろし、光沢のある白いマントを羽織った筋肉質の男だった。


「クレイビス国王陛下。長きに渡る遠征お疲れ様でございます」


クレイビス国王と呼ばれた男は苛立たしげに返事をすると、馬から降りて初老の男を見た。


「ユタ、今は挨拶どころではない! 東ではやっと戦況が膠着状態へ持ち込めた。だが、西の防衛の要である辺境領が独立するのでは意味がないではないか!」


クレイビスが怒りも露わにそう怒鳴ると、ユタと呼ばれた初老の男は険しい目つきでクレイビスを見上げた。


「愚問ですぞ、陛下。今までは暗躍するメーアスのせいで東の帝国が領土を取り返しにきておりましたが、西側が脆くなったと見れば皇国が喜んで西を奪いにきましょう。メーアスもまた勝算の高そうな皇国に力を貸すでしょうな」


ユタがそう答えると、クレイビスはユタの飄々とした態度にさらなる苛立ちを募らせた。


「分かっているなら、何をそんなにノンビリ構えている!」


クレイビスがまた怒鳴ると、ユタは責めるような瞳でクレイビスを見た。


「焦るのと急ぐのは違いますぞ。陛下、まずは冷静になられよ。敵は今まで左右に大きく伸びたレンブラント王国を削り取ろうと行動を起こしてきております。ならば、果たして大軍を率いて西に直走るのが正しい行動なのか」


ユタがそう言うと、クレイビスは奥歯を噛み鳴らして顎を引いた。


「…分かった、ユタ。冷静に、急ぐとしよう。それで、ユタは西に兵力を集中させるのは反対だと言うのか?」


「いいえ、陛下。私はその可能性もあると口にしたまででございます」


「えぇい! どっちだ、ユタ!」


クレイビスは曖昧なユタのセリフにまた怒鳴り、ユタは浅く息を吐いて頷いた。


「竜騎士の国の噂をどう受け取るかにもよりますな」


「あんなもの、ビリアーズ伯爵が吹聴しておるに決まっているだろう!?」


「伯爵の虚言ですかな?」


怒れるクレイビスにも動じず、ユタは確認するようにクレイビスに尋ねた。


クレイビスは鼻息も荒く頷き返し、口を開く。


「当たり前だ。今の情勢ではレンブラント王国から独立してもガラン皇国に喰われて終わりだろう? だから、竜騎士の名を騙ったのだ。ガラン皇国軍8万を殲滅などという話も嘘か脚色された話に違いない」


クレイビスがそう言うと、ユタは首を傾げる。


「さて、確かに西から伝わる話ならば全てにビリアーズ伯爵の手が入っている可能性もありますな。しかし、果たして全てが嘘と断じて良いものか」


「どういうことだ? お前は竜騎士が本当に現れたとでも?」


「いいえ、そこまで言うわけではありませんが、何かしらの、ガラン皇国でもレンブラント王国でもない何か別の力が存在する可能性は高いと見ています」


「なぜだ」


ユタの推測に幾分かは冷静になった様子のクレイビスが聞き返した。


ユタは僅かに視線を彷徨わせながら、頭の中で情報を整理するようにゆっくりと話し出した。


「先ずは時間ですな。竜騎士の名を騙る為にはガラン皇国の軍が侵攻してくることは元より、それを劇的に撃退、殲滅した今回のような大戦果が必要です。たまたま、独立を考えて準備していた時、ちょうど五千から一万前後の戦らしい戦になる皇国軍が攻めて来て、たまたま見事に殆ど兵士の損耗も無く殲滅を成功させた? 中々難しいでしょうな。それに、ガラン皇国がもしもレンブラント王国の領土を奪う気で軍を侵攻させるならば、10万は動かすでしょう。ガラン皇国の兵力ならばそれが出来ます」


「ああ、もういい! 分かった、とりあえず竜騎士の存在を仮定して行動することにする」


ユタのあまりに長々と続く推測に、クレイビスは頭を左右に振りながらそう言った。


だが、ユタは眉根を寄せて口を一文字に結ぶ。


「陛下。私は竜騎士の存在を認めろとは言っておりませんぞ。私もビリアーズ伯爵の持てる兵士の数などを考えました。すると、ガラン皇国が侵攻してきたのが確かなら、あの地はもうガラン皇国のものになっているはずなのです」


「だから、何が言いたい? 竜騎士がいるんだろう?」


クレイビスがそう聞くと、ユタは首を左右に振った。


「私の推測では、あの地にはガラン皇国軍10万に匹敵する力を持った傭兵団がおります」


「…何?」


ユタの口にしたセリフに、クレイビスは間の抜けた声を出して固まった。









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