冒険者達、入城
中々泣き止まないSランク冒険者、黄金の魔眼。
泣きじゃくるメルディアと、その周りには同じく座り込み頭を下げる仲間達。
そして、そんな4人を見下ろす、長身の男。
いかん。
これはいかんぞ。
せっかく俺の国になる予定の街で温厚な人柄を全面に出してきたのに。
結局、今の現状ではそうは見られない。
なにせ、ランブラスから連れ出したのは俺なのだ。
そして、結果はご覧の有様。
地球なら、ちょっと裏に来いや、泣かしたる状態である。
鬼畜な竜騎士様が調子に乗っていたSランク冒険者を土下座させてたぜ!
そんな噂が間違い無く流れる。
「…ラグレイト。すまん。ちょっとドラゴンを呼んできてくれ」
「は?」
俺の発言にラグレイトが眉間に皺を寄せながら俺を見た。
急ぐんだ、ラグレイト。
俺は危険な噂が広まる前にもっと派手な噂を流すことに決めたのだ。
「こ、こここ、こんな…! こんなぁっ!?」
「すごい…本当にドラゴンに乗ってる…」
「これが、竜騎士の世界…」
「う、うわぁん…りゅ、竜騎士様ぁ…竜騎士様だぁ…」
ドラゴンの姿になったラグレイトの上で、Sランク冒険者のパーティーは大いに盛り上がっていた。
シェリーはドラゴンの上にいることが怖いのか、イオにしがみ付いている。
見た目のバランスがおかしい。
ちなみにサニーはずっと俺の背中に寄っかかって動かないでいた。
俺が皆を見回していると、ラグレイトが不満げな声で吼えた。
かなり見慣れてきたのか、ドラゴンの姿であってもラグレイトが不機嫌なのが分かる気がした。
「お、見えたな。あれが俺達の城だ」
俺がそう言うと、皆がグラード村の奥に築城したヴァル・ヴァルハラ城を視界に捉えた。
「す、凄い…白銀のお城だ…」
城を初めて目にした3人は縫い付けられたように城に視線を奪われた。
そこへ、何故か得意げな表情を浮かべたブリュンヒルトが口を開く。
「凄いわよね。まさかあの見事な城が、ミスリルで出来ているなんて…」
「ミスリルっ!?」
ブリュンヒルトの言葉に3人が同時に反応した。
そして、3人はまた城を振り返ると、食い入るように城の姿を凝視している。
「壁だけだぞ。後は内装とかがミスリルだ」
俺がブリュンヒルトの解説に補足説明を加えると、アタラッテとマリナが絶句して俺を振り返った。
「し、信じられません…神の金属とも言われるミスリルが、壁に…?」
「わ、悪かったです。本当にごめんなさい…もう絶対に失礼なことはしません…」
「神話の世界に迷い込んだみたい…」
マリナ、アタラッテ、メルディアが三者三様の驚き方を見せる中、俺たちを乗せたラグレイトは城の正面に降り立った。
俺は城を見上げて動かなくなった3人をよそに、ブリュンヒルトに顔を向けた。
「ブリュンヒルト、とりあえず今日も城に泊まれ。別に急ぎの用事は無いんだろう?」
「あ、はい。問題ありません。むしろ、大変光栄なことと存じます」
やっと少し笑顔を見せたブリュンヒルトの言葉に頷き、俺は城に足を向けた。
門や調度品を見る度に感嘆の声を漏らすメルディア達と一緒に廊下を進み、城内を歩いた。
玉座の間に行くと、玉座を挟むようにしてカルタスとローザが立っていた。
「お帰りなさいませ、殿!」
「ただいま」
俺は頭を下げているカルタスとローザに挨拶を返すと、階段を登り、ブリュンヒルト達を振り返って玉座に座った。
「さあ、我らが王国エインヘリアルへようこそ、冒険者達よ。俺がこの国の王である、レンだ。改めてよろしく頼む」
俺がそう口にすると、ブリュンヒルト達は一斉に片膝をついて頭を下げた。
静かに跪くその姿だけは立派に礼儀を学んだ人間に見えるから不思議だ。
俺は跪く4人を見下ろして口を開く。ちなみにシェリーも一緒に跪いているがそこは触れないでおこう。
「中々信じられないかもしれんが、俺がこの国を興したことくらいは信じてもらえたか?」
俺が少々意地悪な質問をして笑うと、4人は恐縮して更に深く頭を下げた。
「ほう…この者らは我が殿を疑ってこの城へ?」
「ふぅん…?」
俺の台詞にカルタスとローザから怒気が滲み出てくる。
「怒るな。どうやら、竜騎士を名乗る偽物が今までにも数多く出てきたらしい。それと間違えたのだろう」
俺がそう言うと、2人は険しい表情は崩さないまでも怒気は抑えて視線を俺に向けた。
「しかし、殿を見ればそのオーラを感じそうなものですがな」
「本当にね」
2人は俺の方を向いてそう口にしたが、どう考えてもブリュンヒルト達に対して言っていた。
そのせいで階段下に並んで跪く4人は更に身を縮こまらせる。
俺は若干気の毒になりながら4人を見て口を開いた。
「ブリュンヒルト」
「は、はい!」
俺が名を呼ぶと、ブリュンヒルトはそのままの姿勢で返事を返した。
「メルディア」
「は、はっ!」
「アタラッテ、マリナ」
「あ、は、はは、はい!」
「はい」
全員が返事をしたのを確認して、俺は一度頷いて口を開いた。
「実は、この城は我らの本拠地では無い。本当の拠点は深淵の森の奥にあるからだ」
俺がそう告げると、4人は思わず顔を上げて俺を見た。
「本当の拠点!?」
「まさか、神話のあの…」
「ちょ、ちょっと待って下さい! この城はじゃあ…」
4人が同時に反応を示す中、俺の隣に立つカルタスが鼻を鳴らした。
「この城は殿が国を興す為に築いた仮初めのものだ。殿の本当の居城はここよりも遥かに素晴らしいわい!」
カルタスはそう言うと唖然とする4人を見下ろして呵々大笑した。
設備的には課金の分だけ確かに豪華かもしれんが、この城も中々に豪華だと思う。
俺はカルタスのせいでブリュンヒルト達の期待値が高まり過ぎている気配を感じた。
「…まあいい。それで、だ。暇な時にでもお前達で深淵の森を攻略してみないか?」
「し、深淵の森を!?」
俺の提案に、ブリュンヒルトが驚きの声を上げた。
俺はブリュンヒルトに頷く。
「そうだ。なにせ、このままだと我らの拠点まで到る英雄は全く現れないだろう。そこで、Sランク冒険者のパーティーである白銀の風に非公式の依頼だ」
俺はそこで一度言葉を区切り、4人を見回してから笑みを浮かべて口を開いた。
「我らの下へ到る英雄となれ」
俺がそう口にすると、4人は呼吸を忘れたかのように口を開閉させ、目を丸くさせた。
そして、メルディアが勢い良く立ち上がり、俺を真っ直ぐに見て頷いた。
「た、辿り着いてみせます! 神話の地へ! 私が必ず!」
メルディアのその強い決意を滲ませた言葉に、他の3人も慌てて同意した。
俺は目を爛々とさせて声をあげる4人を見て、深く頷いた。
これで、良い広告塔が出来た。
ブリュンヒルト達4人とシェリーには食事と風呂に行ってもらい、俺はギルドメンバーだけになった玉座の間でゆっくり息を吐いた。
「殿。我らの拠点を明かして良かったのですかな?」
「この世界の情報を集めてきたが、どうやら問題は無いらしい。俺はそう判断したよ」
カルタスの不敵な笑みと共に口にされた問いに、俺は曖昧に答えた。
すると、人間の姿に戻ったラグレイトが溜め息混じりに頷く。
「そうだろうね、我が主。僕としては今回まで主が慎重過ぎて驚嘆したよ。強敵と殺し合う日々が懐かしいね」
「ラグレイトの言うことは置いておくとしても、やっぱりボスはアタシらのことなんて考えずにガンガン前に進むのがボスらしいと思いますよ」
なんだ、その独裁者。
「でも、あいつらじゃ無理っぽい」
俺がメンバーの中のイメージに不満を持っていると、サニーが横から口を出した。
「そうですね〜。見てる限りだと下級のドラゴンを倒せるかどうかでしょうか」
サニーの言葉にイオが同意してそう言った。
俺はそんなギルドメンバーを見て笑い、肘置きに乗せた右腕に体重を掛けて体を傾けた。
「誰も進めない深淵の森にSランクの冒険者が挑み続けている。中々良い噂のネタになるだろう? そして、その冒険者が拠点とするのは竜騎士の国…人が集まりそうな煽り文句だ。後は、深淵の森を少しでも進めた冒険者には多少の武具なんてのを発見させれば十分だろうな」
俺がそう言うと、ギルドメンバーが感嘆の声を上げた。
「流石、殿ですな! 実に悪どい!」
…ん?




