冒険者パーティー白銀の風、大敗?
キレた茶髪の女と、傍観する金髪と青い髪の女。
そして、その仲間でありリーダーのはずの赤い髪の女が怒りに我を忘れつつある。
なに、このカオスな空間。
俺はギルドから逃げ出す冒険者達を尻目に、最高位に位置するであろう冒険者パーティーを眺めた。
本当にSランクの冒険者達か、こいつら。
俺がそんなことを考えていると、イオがトコトコと足音を立てて俺の隣に来た。
「マスター。あいつら五月蝿いから、ちょっと拘束して良いですか? 僕も我慢の限界がありますし」
イオは頬をピクピクと痙攣させながら幼い顔を笑みの形にしていた。
「ああ、そうだな。痛くないようにしてやれ」
俺がそう言うと、イオは俺に頷きながら右手をブリュンヒルト達へ向けた。
そして、4人に向き直りながら口を開く。
「パラライズ・リストレイン」
イオが一言そう呟くと、細く青白い光の粒子がブリュンヒルト達の周囲に舞った。
更に、その光の粒子が残った状態のまま、イオは右手を下ろした。
「フロスト・ジェイル」
直後、青白い光の粒子が舞う中、4人の頭上から氷の柱が無数に伸び、ブリュンヒルト達を囲う氷の牢獄が出来上がった。
時間にして2、3秒のほんの僅かな間の出来事である。
「麻痺と氷の檻。痛くはないですよね?」
イオはそう言うと俺を満面の笑みで見上げた。
「まあ、寒いだろうがな」
俺はそう言ってイオに笑い返すと、イオは羽根をパタパタ動かして喜んだ。
「よ、妖精族…? 伝説の種族じゃない」
イオの透明な羽根を見て、氷の牢獄に囚われた金髪の女がそう口にした。
俺は金髪の女の眼が金色であることを確認し、口を開く。
「さあ、ようやく落ち着いて会話出来るか? ところで、お前が黄金の瞳とかいう…ん? いや、違ったか? 何だったかな、シェリー」
昨日聞いたばかりのことなのにど忘れしてしまった俺は、目立たないようにずっと俺たちの後ろに隠れていたシェリーに尋ねることにした。
だが、シェリーは俺が声を掛けると肩を跳ねさせて悲鳴をあげる。
「ひぇ!? こ、こんなタイミングで聞かないでください…お、黄金の魔眼、メルディア様です」
シェリーは恐る恐るそう答えると、そっと氷の牢獄の中を盗み見た。
「そうだったな。で、お前がメルディアだな? 他の2人は?」
俺が改めて茶髪の女と青い髪の女を見てそう言うと、ブリュンヒルトが代わりに口を開いた。
「斥候のアタラッテと聖職者のマリナです」
ブリュンヒルトは麻痺によるものか、それとも寒さによるものか、唇を細かく震わせながら2人の名を口にした。
「さ、ささ、寒い! か、身体も、うご、動かない、ぞ!?」
俺が2人の名前を頭に入れていると、アタラッテが激しく震えながら怒鳴った。
よくこの状況でそんな反抗的な口を叩けるものだ。
俺は逆に感心しながら近くにあった椅子に座り、4人を眺めた。
「麻痺と氷の牢獄だ。痺れるし寒い。当たり前だろう?」
「…マジックアイテムですか? それでも伝説級ですが…」
マリナが震えながらも冷静に俺に質問をしてきた。俺は軽く首を振ると、イオを指差す。
「魔術の行使によるものだ。見ていなかったのか?」
俺がそう言うと、メルディアが刺すような視線を向けてきた。
「そんなことありえない。魔術師としての知識と経験から断言出来るわ…例え、世界最強の魔術師が同じことをしたとしても、これだけの魔術に数分はかかるもの」
「そうは言われてもな…ああ、そうだ。最初からSランクの冒険者パーティーに興味があって来たんだから、実験して見れば分かりやすいな」
「じ、実験…?」
俺の台詞の中から不穏な空気の単語を感じ取ったのか、メルディアが小さな声でそう呟いた。
ランブラスから出ておよそ1キロ程度離れた草原。
俺達は飛翔魔術で此処まで飛んできた。
勿論、飛翔魔術を使ったのは俺達だ。
「ありえない…飛翔魔術を無詠唱…それも複数なんて…」
着いてからずっとメルディアが青い顔で何か呟いているが、俺は半ば放置してブリュンヒルトを見た。
「さて、実験だ。ちょっと得意な技を見せて貰いたいが…お前から頼んでくれるか?」
俺がそう言うと、ブリュンヒルトは躊躇いがちに頷いてからアタラッテとマリナを見た。
「あ、アタシは嫌だよ? なんで手の内を見せないといけないんだ」
アタラッテは俺とブリュンヒルトのやり取りにすぐに拒絶の反応を示した。
しかし、マリナは自分の腹の前で指を組むと軽く会釈をした。
「それでは私から…私は回復、補助が担当ですので、結界魔術を…」
マリナは控えめな態度でそんなことを口にして詠唱を始めた。
「あ、おい! マリナ!?」
アタラッテはマリナが俺達に協力するのが意外だったらしく、声を荒げたが、マリナは完全に無視していた。
不貞腐れるアタラッテを尻目に暫く詠唱をしていたマリナだったが、ようやく詠唱が終わりに至ったのか、最後の言葉を切ると顔を上げた。
「ルーセント・フォート!」
マリナがそう叫ぶと、光の幕が降りるように俺たちの周囲白い光が覆った。
半円となった白い光の中で、マリナは額から汗を一筋垂らして俺を見る。
「どうでしょうか」
マリナの、此方を様子を窺うような表情と言葉を受けて、俺は一度頷いてイオを見た。
「どう思う?」
「僕はこの魔術は知りません。けど、見るからに光属性の結界ですから、コピーはすぐ出来ますね。後は強度を見たいです」
イオはそう言って俺を見上げた。魔術バカという設定にしていた為か、眼がキラキラ輝いている。
「マリナ、この魔術は物理と魔力に対するものか? 他の機能…例えば結界内の者を回復するとか、相手の攻撃を反射するとか」
俺がそう言うとマリナは力無く肩を落とした。
「…いえ、防御型の結界で耐久力を超えると崩壊します。力不足を恥じ入るばかりですわ」
落ち込むマリナに、ブリュンヒルトが慰めるように肩に手を置いた。
「相手は神の代行者と言われる竜騎士様よ。どの英雄であろうとも力不足なのかもしれないわ」
ブリュンヒルトがそう言うと、アタラッテが奥歯を嚙み鳴らした。
「じょ、冗談じゃない! アタシ達は最強のパーティーで、ブリュンヒルトとメルディアにいたってはSランクだよ!? 例え、代行者に選ばれた英雄であろうと遜色は無いさ!」
アタラッテはブリュンヒルト達にそう叫ぶと、俺を見た。
「文句を言いたければ、この結界を壊してみな! 竜騎士様ならさぞ簡単だろうね? 本当に竜騎士様ならだけどさ」
「俺は別に文句なぞ言ってないし、信じろとも言ってないだろうに…まあいいか」
挑発的な態度をとるアタラッテに俺は溜め息を吐くと、片手をあげて口を開いた。
「マジックボックス」
俺はマジックボックスを開き、誰にも聞こえないように口の中でだけクーポン剣と唱えた。
次の瞬間、俺の手に愛剣であるオリハルコンの剣が現れる。
そして、俺は無造作にその剣を振った。
「…え?」
その一振り。
その一撃だけで、マリナの張った結界は脆くも崩れ去る。
呆然とするアタラッテと、悔しそうに顔を俯かせるマリナ。
ブリュンヒルトはそんな2人を見て表情を微かに曇らせた。
俺は3人の様子を見て視線を外し、メルディアへと顔を向ける。
メルディアは、身体を小刻みに震わせて俺を見上げていた。
「そ、そんな…本当に…?」
メルディアは怯えたようにそう口にすると、その場でへたり込んでしまった。
そして、目に大粒の涙を溜めていく。
「も、申し訳ありません…申し訳ありません、申し訳ありませんでした…神の代行者様に、私はなんてことを…」
そう口にしたのを最後にメルディアは声をあげて泣き出した。
え? 俺がいじめっ子的な流れ?
ここ、ランブラスのすぐ近くなんですけど。




