エレノアはお母さん
俺は玉座に座り、階段の下に並ぶ3人を眺めている。3人は階段の下に片膝をついた形で頭を下げていた。
他には俺の護衛であるサイノスとセディアが残り、他のギルドメンバーは城の建材作りの為に席を外している。
ちなみに、隣にはエレノアが立っているが怖くて見れないでいる。
「さて、3人には一部の仲間達との顔合わせと、やってもらうことに関連することを学んでもらおうか」
俺がそう言うと、ダンが顔を上げた。
「はい。出来たらレン様の護衛をしたいのですが…」
ダンはそう言うと、玉座の間に残ったサイノスとセディア、そして俺の隣に立つエレノアを見た。
「レン様を守る盾の代わりとしてでも良いので置いて貰えませんか」
「ふむ…ならば、暫くは使用人として雇うが、もしこのサイノスの一撃を防げたら護衛の1人に加えても良いぞ」
俺がそう言うと、サイノスは不敵に笑って俺を見上げた。
「殿、容赦はしませんよ?」
「手は抜かなくて良いが、全て実際には当てるなよ」
サイノスの確認に俺がそう返すと、俺達のやり取りを聞いていたダンが頭を下げた。
「よろしく頼みます」
ダンの返事に鷹揚に頷き、俺はミエラとシェリーを見た。
「ミエラは厨房で働いてもらいたい。詳しくはメイド達に聞いてくれ。シェリーはうちの魔術士の1人であるウィルビーに魔術を教わりつつ、メイド達と一緒に城の保全をしてもらおうか」
「は、はい!」
「よろしくお願いします」
2人は俺の言葉に良い返事をして頭を下げた。
「グラード村に作っている城が完成したら向こうの城に移動するからな。このジーアイ城は諸国には場所を知られないように内密にしておく」
俺はそう告げると、玉座から腰を上げた。
「さて、昨日は風呂に入れなかったからな。風呂に入るとしよう。サイノス、ダンを大浴場に案内してやれ。セディアはミエラとシェリーを露天風呂に」
「お、俺達も風呂に入れるのですか?」
俺が指示を出すとダンが慌てた様子で俺にそう聞いてきた。
「汗をかいてたら気持ち悪いだろ?」
俺がそう言うとダン親子は絶句して固まった。
良く動かなくなるもの達である。
苦笑しながら3人を見ていると、エレノアが一歩前に出て口を開いた。
「さあ、サイノス、セディア。3人を連れて行ってください。私はご主人様のお世話をさせていただきます」
綺麗なのに、底冷えするような声がエレノアの口から出て、サイノスとセディアは素早い動きでダン親子を立たせて連れ去ってしまった。
おい、何故お前らは1度もこちらを振り返らずに…。
「ご主人様」
「…はい」
2人きりになった玉座の間に、エレノアの俺を呼ぶ声が響き、俺は素直に返事をした。
そっとエレノアの顔を盗み見ると、エレノアは瞳に涙を湛えて俺を睨んでいた。
「…心配致しました」
「…はい」
「次からは、お泊りになる際は誰かに連絡を」
「…はい」
「後、誰かを連れて来るならそれも連絡を」
「…はい」
「ご主人様がいない夜は、少し寂しいです」
「…はい?」
「連絡を入れない場合は夜8時までには必ずお帰り下さい」
「門限制!?」
俺が吃驚して声を上げると、エレノアは悪戯めいた顔でくすくす笑っていた。
ホッとしたが、まるで母親に怒られている気分だった。
一つだけ恋人のような拗ね方があった気がしたが。
「な、なな、なんですか此処は!?」
空に少女の絶叫が響き渡った。シェリーである。
いつもは結っている紺色の髪を解いてふわりと下ろしたシェリーは、衣服を全て脱いで裸の状態になっている。
決してシェリーが特殊な性癖というわけではなく、シェリーの立つ場所がジーアイ城の屋上西側に造られた展望露天風呂だからだ。
シェリーは細身ながらそれなりに出た胸から太ももの部分までを白いタオルで隠して立っている。
「…す、凄いわねぇ。常識が崩れていくわ」
その後ろからミエラが現れてシェリーよりも詳しい感想を述べた。
ミエラもシェリーと同じようにタオルで身体を隠しながら歩いてくる。
「大将が本気で創った浴場だからね。他にも室内大浴場と地下リゾート型浴場なんてのもあるよ。気になったら浴場の入り口前に立て札置いてから入りな」
そこへ、少し浅黒い肌をした長身の美女が現れた。ダークエルフのセディアだ。
セディアは身体を隠そうという素振りもなく、大きな胸を揺らして仁王立ちしている。
「ほら、身体にお湯を掛けて。しっかり全身流してから湯に浸かるんだよ。昨日身体を拭いたりしてないなら身体を洗ってから入らないと、今日の風呂掃除当番が可哀想だからな。どうする? 身体洗う?」
「え、あ、えぇっと…あ、洗っておきます」
セディアに浴場の作法を一気に捲し立てられたシェリーは目を白黒させながら頷いた。それに苦笑しながら、ミエラも頷く。
「ほら、此処で身体を洗うんだ。あのタンクに水が入ってるから蛇口を捻れば水が出るよ。反対側のタンクにはお湯があるからね。こっちの蛇口がお湯だよ」
セディアは20人分の鏡付き洗い場に2人を案内して、2人を振り返りながらそう説明した。
「ま、まあ…なんて綺麗な鏡…こんな鏡は王都にいた時も見たことが無いわ」
ミエラが鏡に驚愕する中、シェリーはセディアが口にしたタンクに目を向けていた。
シェリーの向く先には露天風呂の周りに設置された岩や木の中に目立たないように、人1人がすっぽり入りそうな銀色の円柱があった。
「あのタンク、というものからお湯が出るんですか? どういう仕組みで…」
「さあ、知らないね。大将が城をお創りなった時もそうだけど、露天風呂も気が付いたら出来てたからさ。たまに大将に全く会えない日があったから、その時にでも創ったりしてるんだろうね」
シェリーの質問にセディアは洗い場の一つに座りながら答えた。
すると、シェリーは目を見開いて驚き、露天風呂を見回した。
「こ、こんなものを1人で、ですか? そんなことが…」
「大将だからね。この城を創る時くらいからやたらとカラードラゴンを狩り続けてたから、もしかしたらドラゴンの素材が必要だったりするのかもね」
「ど、ドラゴンを? 狩るなんて、そんな簡単に…」
「大将と、さっきいた金髪のエレノアって奴だったら2人でどんなドラゴンでも狩ってたけどね。私は、あんまり大型は得意じゃないからね。私の場合だとあと1人誰か連れて行くかも」
セディアが世間話のような雰囲気でそう口にすると、シェリーは乾いた笑いを浮かべて立ち尽くした。
「は、はは…本当に、神の代行者様だったんだ…」




