炎と氷のスペシャルコラボ
天まで届くような炎の竜巻が15本も燃え盛る中、俺は煌々と赤く照らされるサイクロプスと土の壁を見上げていた。
サイクロプスは目は丸く、肌もやけに人間臭いリアリティがあり、そのせいでサイクロプスの巨体が随分と幻想的であり、空恐ろしい。
俺が炎の竜巻とサイクロプスを横目にそんなことを考えていると、上空から氷の塊が降り注ぐのが見えた。
いや、氷の塊なんていう言葉では表現出来ない巨大な塊だ。まるで家がそのまま降ってきたようなその塊は、地面に轟音を鳴り響かせてめり込んだ。
「殿! そろそろ我らも動きますか!」
いや、外に逃げてくるのがいたら潰すからね。作戦を聞いてなかったのか、このサイノスめ!
「とりあえず、魔術士以外は待機だ。いいか、サイクロプスを抜いてこちら側へ来れる敵がきたら確実に殺せ。前衛は結界付与するか、精霊魔術士に精霊を召喚してもらって精霊を前に出せ」
俺はそう言うと、魔術士を集めた。
「一度上空から全体を見たい。地上に一応5人は残ってメンバーの援護を頼む。残りは俺と一緒に来い」
俺はそう言って飛翔魔術を唱えた。
上から引っ張りあげられるような浮遊感と共に俺は上空へ舞い上がった。
上空からの景色は、まるで現実味のないものだった。
数十にも及ぶ炎の竜巻が荒れ狂い、四方を囲う土の壁の内側に立つサイクロプスはその剛腕を振るって兵士達を中央へ弾き飛ばしている。
そして、炎の竜巻の隙間には巨大な氷塊が次々に降り注いでいく。
「うわー、やっべぇー」
俺は感情のない声でそう言うと、四方の壁から逃れる兵士を探した。
まるで蟻が巣から出てくるようにしか見えない距離だが、俺の目は遥か彼方にいるはずの土の壁を越える兵士を見てとっていた。
這々の体で這い出した兵士は、土壁を越えて地面に落下すると同時に召喚された精霊の餌食になっている。
炎の精霊に焼かれ、水の精霊に水流で吹き飛ばされ、風の精霊には切り裂かれ、土の精霊には押し潰される。
兵士の数が数だからサイクロプスの手を逃れ、土壁を越えて、精霊からすらも逃げ切った兵士もいるが、残りも剣士系、騎士系、侍系、忍者系などの近接戦闘職に刈り取られている。
「ふむ、多少は飛び抜けた者も出てくるかと思ったが…今のところはそんな存在は見当たらないな」
俺はそう言うと、戦争を終わらせる為の最後の仕上げに移った。
「もらいっ!」
「ぬあっ! またか、セディア!」
サイノスは刀を片手に持った格好で立ち止まると、ガラン皇国軍の兵士の首を短刀で斬り飛ばしたセディアの背中に怒鳴った。
セディアはサイノスを振り返ると口元を緩めて鼻を鳴らした。
「恨むなら雑魚ばかりのガラン皇国軍を恨みなよ。というか、アンタは開戦と同時に派手に暴れたじゃないの」
セディアはそう言って肩を竦めると、その場から音も無く姿を消した。
「ぐぬぬぬ…移動が早くなる歩法術に気配察知スキルのセットはズルいぞ、セディア!」
サイノスはそう叫ぶと周囲を見回した。
範囲がかなり広い為距離を置いて待機しているのだが、個々人の身体能力の高さのせいでサイノスはあまり戦うことが出来ていなかった。
「たまに中々良い動きをする者もいるというのに…あの首斬り女」
サイノスが不貞腐れた態度でそう言うと、サイノスの左前方十数メートル程の場所でセディアがまた兵士の首を刎ねた。
そして、無言でサイノスを数秒もの間凝視し、また姿を消した。
「き、聞こえただろうか…いや、拙者は悪くない拙者は悪くない」
サイノスは自分に言い聞かせるようにそう呟くと、また周囲を見回した。
「む」
すると、サイノスの視界に明らかに他の者とは動きの違う存在が現れた。
土の壁を余裕を持って登り切り、周囲を確認して精霊の少ない場所を選んで駆ける鎧の男だ。
黒く短い髪をなびかせ、赤い鎧に身を包んだその男は、自分に向かって歩いてくるサイノスを見て顎を引いた。
2人の視線が交錯し、サイノスは刀を構えて腰を落とす。
次の瞬間、赤い鎧の男の背後にセディアが現れて男の首を切り落とした。
「ぬぉあっ!?」
その光景にサイノスは声を裏返して絶叫した。
「ん? あ、ゴメン」
サイノスの泣きそうな顔を見て、セディアは軽い調子で謝るとまた音も無く姿を消した。
「…歩法術と気配察知、後は暗殺スキルも反則だ」
サイノスは諦観の籠った表情でそう呟いた。
空を華麗に飛翔なさるご主人様の気配を察知した私は、慌てて赤く照らされた空を見上げた。
「ご主人様の気配を感じました。弓使いの方、 誰か手の空いた方はこちらへ」
私がそう言うと、ご主人様が最後にお創りになられたハイヒューマン、ミレーニアが私の前に出て来た。
ミレーニアは私の前に来ると、何処か呆れた顔で上空を見上げた。
「どんなセンサーをしてるんですか、エレノア隊長。気配察知を最高レベルで所持しててもあの距離は無理ですよ。鷹の目スキルを持つ私ですら言われて初めてお屋形様の姿を見つけられたのに」
ミレーニアはそんな非常識なことを口にして上空を移動するご主人様の姿を追った。
ご主人様の忠実なる僕ならば、ご主人様が視界に入った瞬間にその周囲からご主人様オーラを感じ取れるだろう。
ミレーニアはどうやら忠義心とご主人様愛がまだまだ足りないらしい。
私は不機嫌になりつつミレーニアを見た。
「例え5キロ離れようが10キロ離れようがご主人様の輝きは私の心を捕らえて離さないのです。それよりも、ご主人様は何をなさろうと? 作戦はこのまま殲滅ではありませんでしたか?」
私がそう尋ねると、ミレーニアは片方の手を自らの頬に当てて肌の上を滑らせた。
「…どうやら、更に追撃なさるようです。流石はお屋形様、最近は妙に手心を加えられますので心配しておりましたが、これならば大丈夫でしょう」
ミレーニアはそんな訳のわからないことを言いながら笑みを浮かべた。
ご主人様は常に最高ですよ。何を馬鹿なことを言ってるんですか。
「あれは、風系魔術ですね。良い選択です。威力と規模にもよりますが、炎系魔術と相性が良いですから」
私がミレーニアに文句を言おうと口を開きかけたタイミングで、ミレーニアはそんなことを言った。
同時に、ご主人様の気配を感じた方向から高音と低音が入り混じった風の収束する音が聞こえてきた。
見れば、ご主人様の周囲には目に見える白と黒の回転する球体が浮いていた。
その球体が地上へと高速で撃ち出され、地上へ落下する直前に轟音と爆風が辺りを包んだ。
私の立つ位置にまで風が届く。
「…これは、最大級の風の魔術ですか? 計画よりもさらに短期決戦にする必要性が出たのでしょうか」
ミレーニアが不思議そうにそんなことを言う中、私は何か不安になるような心地で空に浮かぶご主人様を見た。




