異世界6日目
朝が来た。
俺は隣で眠る金髪の美少女、エレノアを確認してから上半身を起こした。
そして、俺とエレノアの間に眠るダークドワーフのミラと反対側に眠るハイエルフのサニーを出来るだけ見ないようにベッドから這い出した。
やっちまった…。
年齢的には大丈夫なはずなのに、あの小柄過ぎる二人の裸身を思い出すと犯罪の香りが芳醇に香り漂う気がする。
音を立てないように俺が着替えていると、布の擦れる音が響いた。
「マスター、わ、わたし…」
背後から掛けられた寝惚け混じりの甘ったるい声に、俺は慌てて部屋から出た。
三十六計逃げるに如かず!
朝から罪悪感で一杯の俺はその足で伯爵の居城へ乗り込んだ。
御付きにはサイノスとセディアが来ている。
「なんだ、お前達は」
だが、城の敷地に入る前に門番に足止めをされてしまった。
これは、お約束のイベントの予感。そう思ったのだが、門番に名乗るとすぐ様敬礼をされてしまった。
「あ、貴方様がレン様ですか! 未来のSランク冒険者とお聞きしております! お会いできてこ、光栄です!」
「あ、ああ。楽にしてくれ」
結局、俺は王族並みの待遇を受けつつ伯爵の執務室に案内された。
執務室のソファーに身を沈めると、俺の反応を訝しんでいた伯爵に対して口を開く。
「昨日のボワレイ男爵相手に比べると雲泥の差だったぞ」
俺が端的にそう伯爵に伝えると、伯爵は軽く首を振って口を開いた。
「当たり前だ。わざわざこれから格上になる相手が来るというのに、部下にその対応を徹底させずにどうする。ただ、ボワレイ男爵の場合は我が家臣や使用人に嫌われておるでな。自然と当たりが強くなる」
伯爵はそう言うと笑って俺を見た。
「そういえば、男爵は?」
俺がそう聞くと、伯爵は口の端を上げて顎を引いた。
「今は、各領主に独立の為に用意していた作戦の実行を早馬で報せて回っている。あやつは家が由緒ある名家なだけに様々な伝を持つからな。馬一つにしても良い馬を自領にて育てておる」
「ふぅん。なら話を詰めようか。そちらは確実に独立出来るだけの準備をしてあるんだろう? こちらはガラン皇国の侵略を防ぐだけで終わりか?」
伯爵に俺がそう言うと、伯爵は目を丸くして俺をマジマジと見た。
「ずいぶんと自信があるようだが、本当に大丈夫なのか? 私が言ったガラン皇国の戦力十万は推測でしかないぞ。とはいえ、ガラン皇国全体の兵力を考えるなら最も妥当な数ではあると思うが」
「まあ、何とでもなるさ」
伯爵の危惧に俺がそう答えると、伯爵は引き攣った顔で俺と、背後に立つサイノスとセディアを見た。
「…恐ろしいな。レン殿を敵に回さないよう、こちらも必ず成功させるとしよう。まあ、ガラン皇国の認可も無いからもしかしたらあと1手押しの策が必要かもしれんが…」
伯爵はそう言うと自分の顎を摩りながら独り言を呟き始めた。
「よし、ならば俺たちも行くとするか」
「む。そうか…何としても5日はもたせてくれ。私もこんなことを頼むことになるとは思わなかったが、今や私達の命運は貴殿にかかっていると言っても過言では無い」
「任せろ」
俺は伯爵に一言そう返事をすると、伯爵の執務室を後にした。
今は俺の飛翔魔術でセディアとサイノスも合わせて3人でガラン皇国の方向へ向かっている。
現在のガラン皇国の軍がどこまで来ているか様子を見に行くところだ。ちなみにローザとラグレイトが二人で日も昇らぬ内から確認に向かっているが、まだ連絡が無いので相手は国境付近まで来てないのだろう。
ガラン皇国が国境を越えたところで打ち倒さなければ、こちらから攻めてきたと後で文句を言われたら困るからな。
俺がそんなことを考えていると、サイノスが真面目な顔で俺を見て口を開いた。
「殿。拙者はビリアーズ伯爵が信用できません。もし、我らがガラン皇国と戦っている間に背後から攻めてきたら…」
「メリットが無いだろ? ガラン皇国に攻められているのは独立を狙う伯爵だ。それに、そもそも伯爵が頑張って数万の兵を集めてくる頃には情勢は決している」
俺がそう言うとサイノスは唸りながら思案顔で口を閉じた。
そこに今度はセディアが顔を出した。
「でも、大将。正直、この世界で強い奴は見たこと無いから戦争もあんまり心配してないけどね。問題は大将の国が出来た後に彼奴らが裏切らないか、だね」
「それも大丈夫だ。誰もが認めるような派手な建国にするつもりだからな。伯爵達にも伝わるように、そして逆らう気も湧かないように俺達の力の一端を見せつけるとしよう」
俺がそう言うと、サイノスとセディアは顔を見合わせて笑みを浮かべた。
「なんだ?」
「いえ、何でもありません。ただ、あの頃の殿がまた戻られたようで」
サイノスは俺を見てそんなことを言った。そのサイノスにセディアも台詞を引き継ぐように口を開いた。
「そうだね。大将はやっぱり強気でガンガンいかないとね。昔の大将なら間違いなくどんどん周囲の国に挑んで、この世界で何処までいけるか試してるだろうから」
そんなことを言う二人に、俺は乾いた笑いをして視線を外した。
ゲームのノリなら確かにやりそうだ。
俺がそんな自己分析をしていると、俺たちに接近してくる影があった。
「ボス! ちょうど良かった!」
赤い髪と黒い衣装の美女、ローザだ。ローザは黒い龍になったラグレイトの上に乗っていた。
「動きがあったか?」
俺が合流してきたローザに尋ねると、ローザは怪訝な表情で首を捻りながら報告を始めた。
「それが、ガラン皇国の軍が一直線にレンブラント王国の国境に辿り着いたんだけど、レンブラント王国の国境防衛軍らしき常駐軍をそのまま併合してレンブラント王国に入りました」
「ん? 併合?」
俺はローザの報告に生返事を返した。
「そうです。それまで7、8万くらいの軍だったんだけど、多分10万位には膨らんだと思います」
ローザはいつもの少し怪しい敬語でそう報告すると黙って俺の言葉を待った。
まだこちらがガラン皇国の思惑に気がついていなかったタイミングならば当たり前の行動かもしれない。
だが、伯爵がそんな連絡を忘れるわけがない。1日でも良いから時間を稼げとでも命令を送っているはずだ。
「ローザ、レンブラント王国の軍はどの辺りに編入された? 最前列か?」
「あ、はい。そうですね。確かに最前列でした」
俺が聞くと、ローザは肯定して首を傾げた。
つまり、軍を預かる将が裏切っているか。
もしくは、伯爵が向かわせた伝令が途中で潰されたか。
「…多分、後者だろうなぁ」
伯爵陣営に気が付かれない内に複数の間者を潜り込ませるくらい、楽にやるだろう。
俺の勝手なガラン皇国の印象だが。
最悪、味方を案内していると思って伯爵の兵の一部がこちらに向かってきているわけだ。
完全に盾として使うつもりだろう。
混乱する味方同士で殺し合いをさせて、士気が落ちたタイミングでガラン皇国軍が突撃してくる手筈だったのかもしれない。
もしそうなら普通に防衛に出ていたら、伯爵は負けていただろうな。
だが、今回はガラン皇国側が不運だった。
なにせ、伯爵の前に俺達を倒さないといけなくなったからな。




