異世界5日目
朝が来た。
少し見慣れてきた、ジーアイ城内からの景色が窓の外に見える。
そして、ベッドの上。俺がいる左右には二人の美女の姿があった。
白磁のような白い肌に流れる金色の髪が美しいハイヒューマンの美女、エレノア。
明るい茶色の髪と大きな狐の耳を揺らした蠱惑的な身体を布団で隠す狐獣人の美女、ソアラ。
結局、なし崩しに搾り取られてしまった。
「…おはようございます」
と、朝のまどろみの中にいた俺に、ソアラが朝の挨拶をしてきた。
「おはよう」
俺がソアラに顔を向けて挨拶を返すと、ソアラは布団に潜るように顔を隠し、目だけを出して俺を見返した。
「…満足いただけたでしょうか、我が君」
「…あ、ああ。大変満足致しましたが?」
俺が返事をすると、ソアラは顔を完全に隠してしまった。
布団から出ている狐の耳だけが忙しなく動いてる。
え? テレてんの?
そんなキャラじゃないでしょ、ソアラどん。
この世界で、唯一の身内であり、絶対の味方であるギルドメンバー達。
自ら作り育成した、一人一人が思い出深いキャラクター達だ。
そのギルドメンバーが悲しい思いをするくらいなら、悔しい思いをするくらいなら、この異世界を相手取って俺たちの国を興してやろう。
そんなことを、あの時の俺は思った。
「なんであんなこと言ってしまったのか…」
俺は溜息とともにそう呟き、顔を上げた。
「はっはっは! 飛翔魔術とは素晴らしいものですな! 閣下!」
「うん、そうね。気絶しなくて良かったね」
「はっはっは! それは言わんでくだされ! 今は閣下の御力を信奉しておりますからな! 大地を歩くよりも安心して楽しませていただきましたわ!」
そう言って、ボワレイは豪快に笑った。
今、俺はガラン皇国に来ていた。
覚醒せし超戦士ボワレイが、早速建国の話を進めましょう、などと言い出して俺を連れて来たのだ。
俺は辺りを見回して、改めて景色に意識を向けた。
ガラン皇国は五大国の中で言うと北西にあたる位置にある大国だ。それより北にはエルフの国、ラ・フィアーシュがある。
ガラン皇国は皇国皇という王がいる。つまりは王政の国なんだが貴族はいない。
なんと、各地方を治める代官や国の要職には一般市民から上がってきた者が就くという先進的な管理体制を取っている。
だが、勿論ヒエラルキーは存在し、上から王族、要職に就いた者と代官の一族、一般市民、下級民、奴隷となる。
結局、一般市民からしか要職には就けないので、ある意味実力主義の気が強い貴族文化といった形かもしれない。
エルフの国が近いせいか、エルフや獣人の奴隷がヒト族の奴隷よりも割合的に多い。その為エルフの国とは仲が悪いようだ。
ちなみに、服装や食べ物なども何処か民族的であり、個人的には東欧みたいで面白い国だと思っている。
街の景色も土壁や布を使った風除けなど、面白い景色が続いている。
「さて、あそこに見えるのが代官のいる屋敷ですな。私が話をつけてきますので少々お待ちくだされ」
と、街並みを見ているとボワレイがそんなことを言って先行を始めた。
その後ろ姿を見て、俺の背後から苦笑する気配があった。
「あのおじさん、気合い入ってるね。まあ、主に心から仕えるというなら僕は文句無いけど」
「まあ、やる気はあるみたいだけどな」
俺は声の主にそう返事をして背後を振り返った。
そこには中学生くらいに見える金髪赤目の美少年が立っていた。龍人のラグレイトだ。
「いくらソアラが洗脳したとしても、まだ油断するべきじゃないわ。まあ、このメンバーなら大丈夫でしょうけど」
と、ラグレイトの背後から可愛らしい女の声がした。
ひょこっと音が聞こえそうな仕草で顔を出したのはダークドワーフの美少女、ミラである。種族的な特徴として、身長は140に届かない程だ。
ミラは黒い髪を揺らし、ラグレイトを見る。
「真面目だね。気配察知スキルが優れたスカウトがそこにいるじゃないか。ねぇ、ローザ?」
「スカウトじゃなくて、忍者。しかも上忍だよ? 間違えんなよ、ラグレイト」
ラグレイトに話を振られ、こちらに背を向けて辺りを見ていた赤い髪の美女が振り返った。
ふんわりとウェーブのかかった赤い髪で顔の三分の一ほどを覆った魔族の美女、ローザは片方だけ出た黒い瞳の目でラグレイトを不満そうに見ている。
ラグレイトはミラとローザから見られ、やれやれといった様子で肩を竦めた。
「はいはい。ところで我が主。ガラン皇国はエルフや獣人もたまに見る国だと聞いたけど、なんで僕たちなんだい?
僕としてはかなり珍しい組み合わせに思えるけど?」
ラグレイトは不意に俺にそんな質問をして小首を傾げた。
「エルフや獣人がいるとはいえ、この国では大半が奴隷として存在しているらしい。仲間を奴隷と思われたら腹が立つだろう?」
俺がそう言ってラグレイトを見ると、ラグレイトは鼻を鳴らしてまた肩を竦めた。
「奴隷ね。確かに、僕を奴隷と勘違いしてくる奴がいたら蹴り飛ばすね」
「マスター。しかし、それでも私は同行して良かったんでしょうか。私は錬金術士ですし、戦闘には不向きです」
ミラは不安そうな様子で俺を見上げた。その表情と身長のせいで小学生にしか見えない。
「ああ、大丈夫だ。ちょっと気になる情報があってな。まあ、ローザがいるから奇襲は受けないだろうし、正面からラグレイトを倒せる奴も少ないだろうから安心しろ」
「へへ。アタシに任してください、ボス! 影からコソコソやる奴がいたら即暗殺するからさ!」
「捕縛しろ、捕縛! 有用な情報があるかもしれんだろうが」
俺の台詞に調子に乗ったローザが弾むような声で暗殺とか口にしている。
そんな会話のせいか、ここは街のど真ん中だというのに、俺達はかなり目立ってしまっていた。
ボワレイを追って代官の屋敷とやらに行くべきか。
俺がそんなことを思っていると、そのボワレイが屋敷から出てきてこちらへ走って来た。
「閣下! 代官であるトゥランが会えるそうです!」
くそ、会えてしまうのか。忙しいなら断ってくれて良いのに!
俺はボワレイの言葉にそんなことを思った。




