最速攻略
異世界転移後、一週間で建国してしまいました…
というタイトルで小説家になろう様にて初投稿させていただき、今日で丸一年!
皆様のお陰で二作品の書籍化にまで至りました!
本当にありがとうございます!
大地を揺らす衝撃と轟音が断続的に鳴り響き、俺は埃っぽいダンジョンを進む。
砕けた壁の一部を乗り越え、死屍累々といった様相のモンスターの死体を避けてダンジョンの奥深くを目指した。
「……ダンジョン攻略ってこんな感じだっただろうか」
そんな疑問を口にしつつ、下層へと続く階段を降りる。途中で槍が突き出してきたり、矢が飛んできたりするが、全て結界に弾かれるので気にしない。
地下二階でも変わらずに響く破壊音とモンスターの断末魔の叫び。
むむむ。これはいかん。
まったくダンジョン攻略をしている実感が湧かんでは無いか。
そう思った俺は歩く速度を上げた。
あ、右側の方で階段を降りる音がする。誰かは知らないが、右へ向かった者が正解だったようだ。
壁を乗り越えていくと走るラグレイトに遭遇した。
「サイノスに先を越された!」
「そうか。まぁ、まだ先は長いから、ゆっくり行きな」
「うん、そうする!」
そんな返事をしながら、ラグレイトは走り去って行った。暫く後を付いていくと、また下層へ続く階段に辿り着く。
そういったことを繰り返して地下へ地下へと進んでいき、気が付けば迷宮のスケールとモンスターの大きさがどんどん大きくなっていく。
が、あまり皆には関係が無かった。
「もう一体!」
エレノアの可憐な声が響き、小型のドラゴンの首が飛んだ。
「お見事」
俺がそう言うと、エレノアが照れ笑いを浮かべて頷いた。
「えへへ。絶対に一番になりますから、見ていてください」
そう言って、エレノアは奥へと走って行く。
後を追ってまた階段を降りていくと、広い一本道があり、真ん中に川が流れていた。
「面白いな……川を死体が流れていなければもっと良い景色だったが……」
まるでスーパーボール掬いのようにモンスターが次々流れていく不思議な川を、上流に向かって緩やかに登っていく。
もしかして次は階段を上がるのかと思ったが、奥は滝があるだけで行き止まりだった。
滝壺が丸く池のように広がっているが、それ以外に変化は無い。上を見上げても水の流れる狭い穴があるだけで、人が上がれるようなスペースは無かった。
「こういうのは滝の裏が正解ってのが相場なんだよな」
そう言って池の周囲をグルリと回ると、予想通り滝の裏に洞穴があった。
ゴツゴツとした岩肌の雰囲気のある洞窟だ。
その中を進むと、今度は奥がかなり急な傾斜の下り坂になった。ツルツルの岩肌の地面は濡れており、どう考えてもウォータースライダーである。
「……これが一番怖いぞ」
俺は魔術による照明を二つに増やし、ウォータースライダーに身を滑らせた。
「お、お、おぉ、おぉおおっ!」
思わず声が出る。
狭い急な下り坂なだけに速度はグングン上がっていくし、遠心力で身体が浮くようなカーブまである。ただ真っ直ぐというわけでは無いので、光も足先を照らす程度でかなり怖い。
景色が見えないボブスレーみたいだ。
何かに衝突しても良いように気が付いたら結界魔術を最大にまで増やしていた。
そして、ついに視界は開ける。凄い速度で水面を滑り、やがて身体が水に囚われた。
「地底湖、か?」
突然視界一杯にまで開けた空間には光があり、俺は四肢を使って水に浮かびながら周囲を見回す。
広い。
天井も高く、地下の空間も随分と広かった。そして、その床部分は全て水面である。
ラグレイト達は何処なんだ?
そう思って見回していると、水の色が変わった気がした。澄んだ青色が急に深く濃くなったように見える。
いや、違う。
「っ!」
俺は水面に両手の手の平を付けて風の魔術を発動する。水飛沫を上がり、身体が勢い良く持ち上がった。
一気に空中にまで飛び上がり、顔を下に向ける。
水面には、無数の白い牙が並んでいた。巨大な楕円を描くその牙は、大きなモンスターが限界まで口を開いているのだと分かった。
口が水面から上に迫り上がり、そのモンスターが姿を見せる。
ナマズに似た、魚系のモンスターだ。ツノと牙が不規則に並ぶ醜悪な外見をしており、ビルすら丸呑みにしそうな巨大な身体である。
その大きなモンスターが、まるで水面に立つように思い切り空中へと身を躍らせた。
尋常では無い迫力だが、自ら空中に出てきてくれたのなら有難い限りである。
「シッ!」
炎の魔術を巨大ナマズの口の中に放ち、背中を反って鳴き声を上げた所を剣で斬り刻んだ。
あっという間にバラバラにし、剣を肩に担く。
周りを改めて見渡すと、奥の方に水中洞窟の入り口のような穴があった。他に目立つ物も見当たらないし、行ってみるか。
そう思って向かってみると、穴の奥は完全に水中に沈んでしまっていた。
……なんてことは無く、トゥームレイダーさながらに洞窟型プールのような景色が延々と続いていた。
水面の上をふよふよと飛んでいくと、徐々に激しい音が聞こえてくる。
「また滝かよ」
思わず、俺はそう呟いていた。
滝の側まで行くと、音は一気に大きくなり、滝壺に落ちていく水に吸い込まれそうな感覚になる。
今度の滝はかなり高く、滝の落ちた先はまた広い地下空間が続いていた。
なんだ、この広さは。
俺は滝の上を飛んだまま通過し、ゆっくりと下降していく。地下空間は天井や壁が光を放っているらしく、それなりに明るい。
真ん中を川が流れていたり、チラホラと魔物らしき存在も散見される。
不思議な空間である。
辺りを眺めていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「殿ー!」
サイノスだ。
見れば、奥の草原エリアのような空間で三人が立っている。真ん中にキャンプファイヤーのような大きな焚き木がされているのを見るに、皆ずぶ濡れなのだろう。
というか、あいつらは俺を護衛するという基本的な仕事を覚えているのだろうか。
「拙者はドラゴン16体でした!」
「僕は15だね」
「私が18体で一番です!」
三人の下に着くやいなや、口癖にドラゴン狩りの成果を発表する三人。
「釣果を競ってるんじゃないんだから」
俺は苦笑しながらそう呟いた。
少しずつ更新していきます!
良かったらまた読んでください!




