竜の国観光
2月25日に発売される本作。
番外編も収録されております。
更に、アニメイト様、ゲーマーズ様、とらのあな様、メロンブックス様にて、それぞれ別の特典SSが!
是非読んでみてください!
出来たばかりの竜の国を空から見下ろしたエレノアは感嘆の声を上げた。
「なんという広大な……! これがご主人様の造り上げた竜の国なのですね!」
「竜の国の民が思いの外多かったからな。かなり広い街になった」
竜の国の正面に当たる入り口前に降下を始めると、今度はサニーが何処か嬉しそうに口を開く。
「……素材がいっぱい……」
「いやいやいや、ダメだぞ。絶対に狩るなよ? 絶対にダメだからな?」
サニーの独り言に慌ててそう告げると、サニーはギラリと双眸を光らせた。
「知っている。これはフリという高等な技術。絶対にするなと何度も確認されたら実はしないといけない……!」
「違うわ! 本当に止めろ。狩り、駄目。分かったか?」
「……ここは、頷いておくところ?」
「頷いておくって何だ、頷いておくってのは……」
危険な気配を撒き散らすサニーを警戒しつつ、俺は竜の国の地上部分に目を向ける。
最強の生物といえるドラゴンに襲い掛かるようなモンスターなどまずいない為城壁などは無く、周囲を開けた土地が百から二百メートル分ほど取り囲み、その先には深い森が広がっていた。
その開けた土地の数カ所で、大きな竜が寄り集まり、真っ赤な炎を口から吐いている。
よく見ると、そこには巨大なイノシシのようなモンスターが串に刺されて鎮座されており、竜はそれに向かって炎を吐いているようだ。
「試しに作った肉焼き場だが、案外好評のようだな」
「え? 自分で調理しているのですか?」
エレノアは驚いてドラゴンが肉を焼くシーンを凝視した。それにサニーが不敵な笑みを浮かべ、一人頷く。
「弱い炎。私なら消し炭に出来る」
「料理してんだよ。消し炭にしたら意味ないだろ」
久しぶりに同行出来てテンションが上がっているのか、サニーがボケ倒しで困る。
俺がそんなことを思っていると、エレノアが「あっ」と声を上げた。
「小さいドラゴンが樽みたいなのを持って飛び跳ねてます!」
面白そうにそう言って小さなドラゴンの様子を目で追うエレノアに、俺は軽く頷いて答える。
「塩を振ってるんだよ。一部器用なドラゴンがいるからな。試しに塩を詰めた樽を作ってみた」
「え!? 味付けまでしてるのですか!?」
「やり方は確かに教えたが、もう実践してるとはな。あ、他のとこでも塩を振りだしたぞ」
肉焼き場のいたる所で小さなドラゴン達が肉に味付けするのを見て、エレノアは目を丸くして驚く。
竜の国の入り口前に立つ頃には、俺たちの下にまで焼けた肉の美味しそうな香りが漂ってきた。
サニーが焼けた肉を食い入るように見つめる中で、一体の大きな竜が腹の部分を噛み千切った。
骨ごと噛み砕く豪快な食事に暫し立ち止まっていると、その竜が目を細めて息を吐く。
「……うむ、旨い。まさかこれほど味が変わるとは……」
そう言って、竜はまた肉に噛み付いた。その様子にエレノアと笑い合い、俺達は竜の国へと足を踏み入れる。
螺旋状に下へと続くなだらかな坂道を下りながら、エレノアとサニーは左右に広がる景色に夢中になった。
地下に向かって水が流れる水路に、クリスタルの中を通って各階層を照らす光。奥には竜のサイズに合わせた巨大な住居もある。
「美しい都市ですね。地下にあるとは思えません」
「植物までいる」
サニーは壁際に生えた葉の大きな木々や草花を見て目を瞬かせた。
「ああ。僅かな太陽光で育つ植物を集めてきた。一部は食べられる植物もあるぞ」
そんな会話をしながら地下へ地下へと降りていく。聞こえるのは風や水の流れる音、そして竜の鳴き声。
暫く進み、ようやく螺旋階段の中心にある穴の底に城の屋根が見え始める。
頭上を見上げると、空が遥か遠くに感じられた。
「む? おお、人間の王よ。何か用事か?」
と、空を見上げていた俺の視界に黒い影が横から顔を出した。
「ウルマフルル」
俺は黒い影の名を呼ぶと、視線を下げる。
もう下から二番目の階層にまで来ていたらしい。この階層には各種カラードラゴンが住んでいて、ブラックドラゴンであるウルマフルルも此処に住居を構えていた。
「まぁ、ブラックドラゴンではありませんか。ご主人様の新しい装備に……むぐぐぐぐ」
恐ろしいことを口走ろうとしたエレノアの口を両手で塞ぎ、俺は乾いた笑い声を上げてウルマフルルを見た。
そして、俺は両手をエレノアの口に使ってしまうという失策に気が付いた時には、既にサニーが口を開いてしまっていた。
「マスターのお気に入りの素材……! 私が献上する!」
「献上せんでいい! まだ在庫はたくさん……ハッ!?」
思わず口が滑ってしまい、俺は硬直する。
せっかく良い関係を築けてきたのに、これで竜の国とは敵対関係に……。
そんなことを思いながらウルマフルルを振り返ると、ウルマフルルは目を糸のように細めてこちらを見据えていた。
「……人間の王よ。それだけの数の同胞を打ち倒してきたというのか」
「あ、ああ。まぁ、なんだ……悪かったな」
ゲームの時の話なのであまり素直になれずに軽く謝ると、ウルマフルルは口を大きく広げて顔を上げる。
「ふ……はっはっは! まさか、そのような小さな身で我らの同胞を圧倒してきたとは! 確かに、その身に着けた物は我らの仲間のもの! 聖竜王様とまともに戦っていた時にも思ったが、尋常ならざる力だな!」
そう言って笑うウルマフルルに、俺は眉根を寄せた。
「……怒らないのか」
そう尋ねると、ウルマフルルは鼻を鳴らす。
「戦って負けたのなら勝った相手に従う。生も死も勝者に委ねよう……私ならばそう思うだろう」
「そ、そうか。今度旨い酒と肉を持ってこようか?」
「なに? それは是非戴きたい!」
「ああ、楽しみにしておいてくれ」
「うむ、今から楽しみだ」
何となく謝罪を込めて言ったセリフに、ウルマフルルはかなり乗り気だった。尾を揺らし、鼻歌を歌いそうな雰囲気で地面に寝そべっている。
ご機嫌になったウルマフルルに別れを告げると、俺達は更に下へと向かった。
坂を下りきり、最下層に聳え立つ美しい城を見上げる。
「これが竜の王の城ですか」
「さすがはディグニティとミラ、カムリだな。見事な城だ」
俺とエレノアがそんなやり取りをしていると、サニーが草や木が生えた地面や小川が流れていく様子を見て背伸びをした。
「……深い森にある湖のほとりみたいで落ち着く」
「ふぅん……確かに、これだけしか緑が無いのに空気が濃い気がするな」
サニーの言葉に俺は首を傾げながらも頷き、城の門へと向き直った。大きな両開きの門だ。グランドドラゴンが通る可能性を考慮して、門の高さは丁度五十メートルある。
その巨大な門に近付き、手のひらを当てて力を込める。扉の表面に青白い光の線が無数に奔り、門は音も立てずにゆっくりと左右に開いていった。
こちら側に開いてくる扉の向こう側には、地上よりも明るく感じるような白い光が溢れている。単純に、地下に降りるほど少しずつ薄暗くなっていたから、その差で明るく見えるだけなのだが。
そして、その光の中心には光を反射する見事な鱗を持つ白い竜がいた。
聖竜王、アルドガルズである。
アルドガルズは眠そうにゆっくりと顔を上げ、こちらを見た。
「おお、人間の王よ。この城は素晴らしいな。ついつい二、三日寝てしまう。肉や酒は旨いし、皆満足しておるようだ。代表して感謝を伝えさせてもらう」
アルドガルズが謝辞を述べると、エレノアが眉を吊り上げて一歩前に出た。
「当たり前です。ご主人様の手掛けたお城ですよ? それよりも、こちらに下りてきて同じ目線で話をしなさい。ご主人様はお優しいので何も言われませんが、私は絶対に許しません」
エレノアがそう言うと、アルドガルズは一瞬目を瞬かせ、エレノアを見下ろした。
そして、笑いながらこちらへ降りてくる。
「肝の座った人間の雌だ。嫁か?」
「よ、よ……っ!?」
アルドガルズの台詞にエレノアが耳まで真っ赤にして狼狽する。
背筋を伸ばして固まるエレノアに苦笑しながら、俺は腕を組んで頷いた。
「ああ、嫁だ。このエレノアと、こっちのサニーもな」
「ひょえ!?」
「ふふん」
エレノアとサニーがそれぞれ反応をする中、アルドガルズは面白そうに二人を見比べる。
「この前に見た獣人の雌もそうでは無かったか? 人間が数を増やすわけだな。我等も見習わねばならん」
そう言って笑うアルドガルズに、サニーが胸を張った体勢のまま口を開く。
「見たことないドラゴン。なんて名前の種族? 素材が欲しい」
サニーがそう言うと、アルドガルズは目を細めてサニーを見る。
「我は永遠にも似た長い時を生きたホワイトドラゴン……いや、エンシェントドラゴンとでも呼ぶべきか。我と同種の者には会ったことが無い。素材は鱗くらいならばやっても良いが、牙やツノは生え替わるまで勘弁してもらえないか」
「仕方ない。鱗だけで許す」
「ふ、わっはっは! それは有り難い。感謝しよう」
サニーとアルドガルズはそんな会話をして笑い合った。
仲良いな、お前ら。
俺は口の端を上げてその様子を眺める。
竜の国との関係も大丈夫そうだ。
そろそろ、新しい場所へ足を伸ばしてみても良いかもしれないな。
俺は新たな旅に思いを馳せ、笑みを深める。
特典SS情報
アニメイト様では、危ないスキーの話。
ゲーマーズ様では、危険な節分の話。
とらのあな様では、のんびり釣りの話。
メロンブックス様では、ロマンチックに灯篭の話が特典に付いてきます!




