複雑な気分の聖竜王
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アルドガルズはどうしているかと思いウルマフルルに尋ねると、最も近くにある山の頂上にいると教えてもらった。
イシュムガルドを連れて頂上へ行くと、そこには崖の上で黄昏れる白い竜の姿があった。
切り立った崖の縁に寝そべるように身体を横たえた白い竜は、尾を不機嫌そうに揺らしながら眼下に広がる景色に目を向けている。
「アルドガルズ」
名を呼びながら崖の上に登ると、アルドガルズは顔をあげてこちらを見た。竜なので表情から胸の内が読み辛いが、なんとなく何を考えているのか分かる気がする。
「……何か用か。我は……ん? そこにいる竜は……」
アルドガルズが上体を起こして俺の後ろを見ると、イシュムガルドは身体を小さくして顔を下げ、上目遣いに見返した。
「……まさか、イシュムガルドか? そうであろう? 我が見間違える筈が無い。しかし、どうして此処にいる?」
アルドガルズが矢継ぎ早に質問すると、イシュムガルドはこれまでの経緯を説明した。
そして、頭を下げて目を伏せる。
「故郷が焼け落ちたと聞きました。そのような大事に、私は何も知らずただぬくぬくと怠惰な日々を過ごしていたなどと……情けない」
イシュムガルドがそう口にすると、アルドガルズがウッと息を呑んで固まった。こちらを見てくるが、俺はその視線から逃げるように目を逸らす。
俺とアルドガルズの無言のやり取りに気付いていない様子のイシュムガルドは、やがて目を開けてから顔を上げた。
「故郷を去った身でありながら、恥ずかしながら私も何か出来ないかと思って参りました。どのような雑事でもお言い付けください」
そう言ってアルドガルズを見るイシュムガルドに、俺は首を傾げる。
「……流石に王相手には口調が変わるとしても、何故一人称が私になるんだ?」
「な、何を言う。私はいつも自分のことを私と……」
動揺しながら明らかな嘘を吐くイシュムガルドに、俺はピンときた。
「お前、さては普段の口調はアルドガルズの真似をしてたんだな?」
俺がそう言って笑うと、イシュムガルドはピクリと身体を跳ねさせてアルドガルズを仰ぎ見た。
アルドガルズは不思議そうに首を傾ける。
「我の真似を? 何故だ?」
「あ、い、いや……そ、それはともかく、竜の国再建には何をすれば良い? 先程も言ったが、何か物を運ぶくらいなら我……いや、私にも……」
しどろもどろになりながら話を逸らすイシュムガルドに、俺は崖から地上の景色を見下ろして口を開いた。
「ああ、大丈夫。もうそんなに掛からないからな」
「なに?」
不思議そうにこちらを見るイシュムガルドに笑みを返すと、イシュムガルドは崖に近付いて地上を見た。
山々に囲まれた地。長く伸びた川から僅かに離れた場所にある、木々が伐採された広い空間。
そこにあるのは茶色い砂や土の地面では無く、深くすり鉢状に掘られた地下へと続く穴である。
複数の街を纏めて飲み込むほどの巨大な穴には、竜の国建設の為に集まったギルドメンバーや、協力してくれているダークエルフ達や獣人達が動き回っている。
恐らく、竜の国はすぐに再建することになるだろう。
【ミラ視点】
私は出来た城を眺めながら、口を開く。
「……よし。これで大丈夫。ミスは無い?」
そう聞くと、カムリが鼻ひげの先を指で弄りながら鼻で笑った。
「はっ! ワシがミスなどするか! ドラゴンが酔っ払って体当たりしても問題ないわい!」
「聞いただけよ。あれ? ディグニティは?」
「最終チェックに回っておる。問題が無ければ港町建設に向かうと言っておったな」
「ああ、例の水の都ね」
そんな他愛も無い会話をして、顔を上げる。完成したばかりの城を見上げると、自然と口元が緩むのを感じた。
マスターの白銀の城ほどでは無いが、要所要所にオリハルコンを使用した頑丈な城だ。形は中に竜が入ることを想定して背の高い塔のような見た目となっている。
「中々ね」
「まぁまぁだな」
カムリとそんな会話をして笑い合い、踵を返した。螺旋状に降る緩やかな坂の終着点が、最下層にあるこの城の正面に来るように作られている。
坂を登った先にはグルリと穴を囲むように背の高い階層があり、フロアを支える柱代わりでもある壁が無数にある。
ぱっと見では迷路のようにも見えるが、身体の大きな竜達が寝泊まりすることが出来る快適空間となっているのだ。なんと、ベッドがわりの巨大な木と岩の台座なども設置されている。
私は地上へ続く坂を登りながら、各階層の様子を確認していく。
四方に伸びる通路や壁の一部などには、大きなクリスタルが埋め込まれており、明るい光を放っていた。
地上から最下層まで突き刺さるように存在する複雑なカットが施されたクリスタルを見上げ、私は感嘆の溜息を吐く。
「不思議よね、このクリスタル。面の数を増やして光が中で反射するようにしてるんだって」
「分からん。ぜんっぜん分からん。だが、仕組みは分からんが使い道なら思いつくぞ。これを使えばヴァル・ヴァルハラ城を更に改善出来る」
「ジーアイ城は?」
「ボスが造り上げた至高の城を改造なんか出来るか……って、分かってて言ってるだろ」
「あはは」
それからも私はカムリと雑談しながら坂を登っていき、地上に出た。
周囲には様々な形の山々が立ち並び、地上や空を埋め尽くすほどの無数の竜達が生活している。その光景は雄大な自然と合わさり、まさに神話の中の光景といった神々しさを感じさせる。
竜の国も広くて迫力のあるものが出来たが、やはりまだ誰も住んでいない国になる予定の地だ。残念ながら、この光景には勝てないだろう。
でも、この竜達が新たな竜の国に移り住み、活気が生まれたら……。
もうすぐ見られるであろうその光景に、私は静かに胸を高鳴らせた。
「さ、あのドラゴン達を移住させましょ」
そう言うと、カムリは眉根を寄せてこちらを見た。
「待て待て待て。まだ色々と足りない部分があるだろ。下水の通り道は出来てるがまだ川から水を引いてないし、ドラゴンでも使える肉焼き場も一度試してみないとな」
カムリにそう注意され、私は頬を膨らませて無言の抗議をする。すると、カムリは眉を上げて呆れたような顔をこちらに向けた。
「おいおい、何だその顔は。不細工だな、へちゃむくれ」
「へちゃ……っ!? なんてこと言うのよ! ヒゲおやじ!」
私がカムリに文句をぶつけていると、近くにいる竜達が不思議そうにこちらを見ていた。
【お引越し】
アルドガルズは皆が新たな竜の国に移住する様子を確認し、最後に地下へと続く縦穴に赴いた。
上空から竜の国を見下ろし、翼を広げてゆっくりと降下を開始する。
各階層には既に大小関わらず様々な竜達が歩き回っており、アルドガルズに気がついた者は揃って身体の正面を向け、頭を下げていく。
深く深く降りても、クリスタルから発せられる光で竜の国の中は明るい。
程無くして最下層へと辿り着くと、アルドガルズは自らが住まう予定の城を見上げて動きを止めた。
目を丸くし、じっと城を眺める。
「……見事だ。これほどの城は他に二つとあるまい」
アルドガルズがそう口にすると、後から降りてきたイシュムガルドも城を見た。
そして、何か言いたそうな顔でアルドガルズと城を交互に見比べ、最終的に何も言わずに口を噤んだ。
まさか、聖竜王の城が自分の城より小さいとは口が裂けても言えないだろう。
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