新たなる竜の国とイシュムガルド
新しい竜の国を作る前に俺はある場所へ行った。
「元気か」
俺がそう口にすると、猫のように丸くなって寝ていたイシュムガルドがゆったりと顔を上げた。
「ぬ……何用か、御方よ」
イシュムガルドはどこか眠そうにそう口にすると、こちらに向き直る。俺は苦笑しながら頷いた。
「ああ。ちょっと話があってな。イシュムガルドは竜の国から出て此処へ来たんだったよな?」
「む、その話か。御方は竜の国へ行ってきたのだったな。大方、様々なドラゴン達が平穏に暮らすあの国を何故出たのか気になっておるのだろう」
「あ、ああ。良い国だったからな……」
イシュムガルドの推測に俺は乾いた笑みを貼り付けながら曖昧な返事をする。イシュムガルドは尾を揺らすと、何度か頭を上下させ、口を開いた。
「ふむ……我が若かりし頃より、竜の国は平和で穏やかな時間の流れる地であった。だが、竜の国にドラゴンが集まり過ぎた為に、国外にはドラゴンが殆どいなくなってしまった。まぁ、我もその一体でな……竜の国に生まれ、竜の国で育ち、何も知らずに竜の国の中で死んでいくのかと思ったら、とてつもなく怖くなった」
「怖い? 退屈で飛び出したとかじゃ無いのか?」
不思議に思ってそう尋ねると、イシュムガルドは顔を背けて首を軽く回した。
「……若気の至りであろう。まるで自分の生が無意味であり、じわじわと身体が腐っていくような感覚に陥っていたのだ。だが、国を出たお陰で良い経験を多くした。空から見る様々な景色。他のドラゴンのいない湖での暮らし。そして、我であっても苦労したこの森での縄張り作り……どれもあの国に居ては出来なかった経験だろう」
そう呟くと、イシュムガルドは尾の先を揺らした。
思ったより前向きな意見が聞け、俺は顔を上げて頷く。
「そうか。なら、竜の国に対して何か思うようなことは……例えば郷愁の念なぞは無いよな?」
良く考えたら、イシュムガルドはもうずっと前に国を出て深淵の森で確固たる地位を築いたアースドラゴンなのだ。女々しいことは言うまい。
と、思って安心して尋ねたのだが、豪傑たるアースドラゴンは細い息を吐いて目を細めた。
「……いや、最近は不思議と竜の国のことを思い出す。聖竜王様は元気にしておられるだろうか? 御方のことだから直接会ったのだろう?」
「お、おう……げ、元気にしてるぞ」
「色々と思い出してくると懐かしさが込み上げてくるものだ。一度、見に行くだけでもしてみようか」
心から懐かしそうにそう呟くイシュムガルドに、俺は溜め息を吐いて首を左右に振った。
「……実はな、イシュムガルド。竜の国ファヴニルなんだが」
そう話を切り出すと、イシュムガルドはこちらを向き直った。
「噴火……いや、山が火を噴いてな。火に呑まれてしまったのだ」
「…………なに? 山が火を噴くのは何度か見たことがあるが、まさか竜の国が? 皆は無事なのか?」
取り乱すイシュムガルドに、片手を挙げて口を開く。
「落ち着け。皆は無事に避難した。今は俺が復興の手助けをしている」
そう答えると、イシュムガルドは深く息を吐いた。
「そ、そうか……いや、ありがとう。竜の国にいた者として、礼を言わせてもらおう」
イシュムガルドがそう言って深く頭を下げるのを見ながら、俺は口を引攣らせる。
「い、いや、気にするな。俺にも非がある気がするし……」
「ん? 今なにか言ったか、御方よ」
「いや、何でも無い」
「そうか」
イシュムガルドは何かを考えるように黙り込むと、やがて口を開いた。
「……我にも竜の国の復興の手助けが出来るだろうか。物を運ぶくらいならば我でも可能だろう?」
そんな健気なイシュムガルドの台詞に、俺は深く頷く。
「そうだな。じゃあ、早速行こうか。新たなる竜の国へ」
「む? 今からか?」
「ああ、すぐ着くさ」
「我はあまり速く飛ぶのは得意ではないが……」
「大丈夫、すぐ着くさ」
「そ、そうか。御方がそこまで言うのならば、今から出るとしよう」
そんなやり取りを経て、俺とイシュムガルドは城から出た。
イシュムガルドの前を先導するように空へ舞い上がり、方向を確認する。
「竜の国はあちら側であろう、御方よ」
遅れて飛んできたイシュムガルドに対して首を左右に振ると、俺は北の方角を指し示して口を開いた。
遠くには、まるで鳥か何かの群れのように空を舞う多くの竜達の姿がある。
「あれだ」
そう答えると、イシュムガルドは目を見開いて固まった。
「あそこが新しい竜の国の場所だ」
もう一度口にすると、イシュムガルドが油の切れた機械のようにギリギリと不自由に動き、俺に顔を向ける。
「……あそこ、とは……まさか山一つ二つ向こうにある広い森のあるところ、か?」
「おお、良く知ってるな。流石は元深淵の森の主だ。丁度でかい山二つ越えた先だな。あそこを改造して竜の国を作っている最中だ」
そう答えて、俺は絶句するイシュムガルドを振り返った。
「近い方が何かと手助けしやすいだろう?」
「……近すぎる」
俺のフォローの言葉に、イシュムガルドは苦々しくそう返事をした。
「おお、人間の王よ! お主達の仲間は本当に凄いな! 見る見る間に建物が出来ていく様は圧巻だぞ!」
新たなる竜の国予定地に舞い降りると、ブラックドラゴンのウルマフルルがそわそわと周りを見ながらそんなことを言ってきた。
「おお、随分と楽しそうだな」
そう答えると、ウルマフルルは尾を振りながら大きな身体を揺すって笑う。
「ああ。静かな日々も良いが、このように刺激的な光景も面白い。ドワーフ達が建物を作るところを見て器用なものだと感心したこともあるが、この光景はその比では無いな。いや、本当に面白いぞ」
そんなことを言いながらも、ウルマフルルは地下に掘り進んでいく俺のギルドメンバー達を面白そうに眺めている。こちらを見たのは地上に降り立った一瞬だけだ。
俺は咳払いを一つすると、ウルマフルルの背中に声を掛ける。
「今日は客人を連れてきたぞ」
「客人? 私にか?」
ウルマフルルは疑問符をあげながらそう口にし、こちらに顔を向けた。
そして、イシュムガルドを見て僅かに顔を上げる。
「ん? お前は……まさか、聞かん坊のイシュムガルドか?」
「そ、その名前はやめてくれ」
ウルマフルルが驚きを隠せない様子で口にした言葉に、イシュムガルドが思わず文句を言った。
居心地悪そうに視線を逸らすイシュムガルドを見て、ウルマフルルは翼を広げて身体ごとこちらに向き直る。
「なんと、生きていたのか! まだ小さい頃に飛び出し、一向に帰ってこないから死んだものと……いや、驚いたな。しかし、何故ここへ? 我らが何度も探しに出たが見つからなかったのは、まさかこんな遠くの地で暮らしていたからか?」
「う、うむ。我はこの深淵の森という地で縄張りを作り、暮らしていた」
「何が我だ、聞かん坊よ! 肩肘をはるな!」
「う、うるさい! ウルマのオヤジはそれだから若い者から面倒臭いと言われるのだ!」
「なに!? 誰だ、面倒臭いなどと言っているのは!?」
会話が盛り上がり始めたのを眺めながら、俺は静かに頷いた。
これなら大丈夫そうだ。イシュムガルドも新たなる竜の国の竜達と仲良くやっていけるだろう。
だが、どうも気になることがある。
「……ウルマのオヤジに、聞かん坊のイシュムガルド……他の奴のあだ名は何なんだ……」
俺はそう呟き、頭をひねった。
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