噴火を止める
一週間建国記のカバーイラストを画面下部にて公開します!
嬉し過ぎて活動報告でも公開しています!
それにしても、あの轟々と噴き上がるマグマは人の手でどうにかなるものなのか。
俺はそんなことを考えながら、仲間達を見た。
ラグレイト、サイノスとソアラ。
今更ながらにサニーやイオを連れてくれば良かったと後悔する。
「申し訳ありません、我が君。ですが、せめて我が君が気兼ねなく全力を出せるようにサポートはさせていただきます」
俺の視線を受けてソアラが申し訳なさそうにそう言った。俺はそれに苦笑し、頷く。
「いや、このメンバーなら大丈夫だろう。別に不満なんてないぞ」
俺がそうフォローすると、ソアラは困ったように笑って皆に補助魔術を掛けていく。
結界と魔力向上、炎耐性向上の三種だ。
「よし。それじゃ、ラグレイトに乗って上空からいこうか」
俺がそう言うとラグレイトが一鳴きして翼を広げた。
「拙者も行きますぞ!」
「サイノスも? 一緒に来て何をするんだ?」
俺がサイノスの台詞に首を傾げると、サイノスは刀を手に不敵な笑みを見せた。
「飛んでくる物は全て切り捨てましょう」
え? マグマも?
俺は思わずサイノスにそう聞きそうになったが、サイノスの笑顔を見て諦めた。
「……よし。じゃあ全員でいこうか」
「いやっほーい!」
サイノスは飛び上がって喜んだ。
上空に上がると、火口から噴き出すマグマの迫力に言葉を失った。
ちょっとテレビで観るのとは印象が違うな。
そんなことを考えながら噴き上がる赤いマグマと黒い粉塵を眺めていると、後方に黒い影が舞い上がって来た。
ブラックドラゴンのウルマフルルだ。
「……この状況をどうにか出来るのか?」
ウルマフルルが硬い声でそう口にすると、ラグレイトが軽く鳴く。
それを聞き、ウルマフルルは目を丸くして俺の顔を見た。
「なんて言ってた?」
俺がそう聞くと、ウルマフルルは笑いながら口を開く。
「まぁ見てなよ、すぐ終わるさ……だそうだ」
ウルマフルル越しに伝えられたラグレイトの台詞に吹き出すように笑うと、俺はアイテムボックスから杖を取り出して火口に向き直った。
「その通り。すぐに終わらせてやる」
俺はそう言うと、魔術を行使する。
最初は試しに氷の魔術を使ってみたが、噴き上がるマグマの表面を凍らせたところで次のマグマが噴き上がる為あまり効果は無かった。
ならばと、風の魔術を行使しながらタイミングを窺い、火口がしっかりと見えた時に氷の魔術を使う。
それでもやはり火口の表面を一瞬凍らせただけで終わった。
いや、恐らく千度を超えるような大量のマグマを少しの間でも凍らせるだけ凄いことなのだが、噴火を止めるには至らない。
俺が色々と手を考えているその間にも、噴石が俺たちの下へと飛来し、それをサイノスが切り捨てていく。
「えぇい! 面倒な!」
ふと、激しい粉塵に視界が覆われるのを嫌ったサイノスが怒鳴りながら刀を振った。
風を纏う剣技スキルだ。それによる突風が粉塵を一時的に吹き飛ばし、火口までの視界をクリアにした。
俺はそれを見て口を開く。
「おお! それだ、サイノス! マグマも纏めて切り裂け! 火口までの道を作るんだ!」
「はい! 分かりました!」
サイノスは二つ返事で刀を構え直し、火口に目を向けた。
「ぬぅ! 気影斬!」
「おい、そんなスキル無いだろうが!?」
謎の技名を叫びながら刀を振るサイノスに、俺は条件反射で突っ込みを入れる。
しかし、サイノスの刀は金色に光り輝き、どこかで見たような丸ノコに似た波動を刀の刃から飛ばした。
「出るのかよ!」
俺は思わずまた突っ込みを入れてしまった。サイノスの刀から放たれた波動はやたらとデカくて鋭く高速回転している。
というか、デカ過ぎる。間違えたらウルマフルルの胴すら両断出来そうな幅の波動がマグマに向けて飛んでいった。
波動はマグマを何の抵抗も感じさせずに切り裂きながら進むが、切り裂いたところでマグマは左右に少し広がっただけで終わった。
「ぬぅ! 手強い!」
「いや、切れ味良過ぎなんだって。もっとこう、吹き飛ばすような技使えよ」
俺はサイノスの新技に感心しながらも呆れるという器用なことをしつつ、足下を向いてラグレイトに声をかける。
「仕方がない。ラグレイトにブレスを頼むとするか」
「ラグレイトのブレスでは火山が活発になってしまうのでは?」
俺の台詞にソアラが不思議そうにこちらを振り向いてそう聞いてきた。俺は肩を竦め、絶え間無くマグマを噴き出す火口を指差す。
「どうせどっかのドラゴンキングのせいで馬鹿みたいに活発になってるんだ。もう気にしても仕方がない」
俺がそう言うと、上空から白い竜が降りてきた。
「それは我のことか……」
「お前以外に誰がいる、アルドガルズ。早く国民に謝ってこい」
「……むむ、申し訳ない限りだ……」
「いつから俺が竜の国の民になったんだ」
しょげ返るように肩を落とし項垂れるアルドガルズを横目に、俺は溜め息交じりにそう返す。
すると、ウルマフルルが恐る恐る口を開いた。
「我が国の王を責めないでくれ。とりあえず、ブレスを必要としているのならば私が手を貸そう」
「む、わ、我も……」
ウルマフルルの提案に釣られてアルドガルズが口を開いたが、俺は首を左右に振って二人の意見を却下した。
「ダメだ。 ってか、お前らのブレスなんか足したら火口が広がるだろ。大人しく見ていてくれたら良い」
俺がそう答えると、二人は揃ってガックリと項垂れた。
「無駄な時間を食ったな。そんじゃ、サイノスとラグレイトで協力して表面に噴き出たマグマを吹き飛ばしてくれ。俺は火口に蓋をする」
「分かりました!」
「ぎゃう」
サイノスとラグレイトはそれぞれ俺の指示に応え、構えた。
「では、補助します」
ソアラが補助魔術を使い、更に身体能力が向上する。
「ぬぉおお! 力が湧いてきたー! 『真・奏気斬』!」
補助を受けた瞬間、サイノスは刀を振り被って技を放った。サイノスが上段から振り下ろした刀の刃から幅の広い波動が飛んだ。
「また新しい技か」
俺が驚く中、サイノスの技を見てラグレイトが口を開き、身体を小刻みに震わせ、ブレスを放つ。
サイノスの放った波動が噴き出したマグマを弾き飛ばし、ラグレイトのブレスが火口までの道を作り出した。
それを確認して、俺は氷の魔術を放つ。
大気をも凍て付かせる冷気はまるで光線のように一直線に火口へと向かう。周囲に散ったマグマや粉塵を凍らせ、氷の魔術は火口へと辿り着いた。
火口の中心部から白く染まっていき、マグマがまるで氷山のように見る見る間に固まっていく。
「我が君、マジックポーションです」
「お、ありがとう」
ソアラから青い液体の入ったガラス瓶を受け取り、一息に飲み干す。
杖を握り直し、魔術の終わりに合わせて更に氷の魔術を連続で放った。二発、三発と魔術を行使していく内に、火口だけでなく山の山頂から徐々に全体が白く染まっていった。
数分後、あれだけマグマを噴き出していた火口は真っ白になり、まるでエベレストと見紛うような姿となった。
黒い粉塵舞う白い山を見下ろし、俺は頷く。
「意外と何とかなったな……まぁ、どれくらい保つか分からないけど」
俺がそう言うと、アルドガルズが困ったように目を細めてこちらを見つめてきた。




