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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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聖竜王の実力

 俺が剣を構えると、アルドガルズはどこか嬉しそうに口を開け、四肢を地に付けて姿勢を低くした。


 そして、軽く開かれた口の中が薄っすらと光り始めた。


「って、おい!?」


 俺はそれを目にして、慌てて横っ跳びに動いてアルドガルズの正面から離れた。


 直後、アルドガルズの口が大きく開かれ、眩いばかりの光が視界を白く染めた。


 俺など一瞬で呑込めるほどの巨大な光の奔流だ。その光の奔流は俺の目の前の空間を大気と共に削り取り、一気に火口の端まで到達した。


 火口の周囲を壁のように覆う山肌に光は衝突し、何の抵抗も無かったかのように突き抜ける。


 まさに、レーザービームのような光のブレスだ。


 カラードラゴンのブレスなら最悪、結界無しで直撃しても死にはしないだろうが、このブレスは格が違う。当たらないように回避したほうが無難だろう。


 アルドガルズは俺が回避したことを確認すると、口からブレスの残り火のような白い炎を洩らしながら笑った。


「ふっはっはっは! 良くぞ避けた! さぁ、どんどん行くぞ!」


 アルドガルズは上機嫌にそう言うと、白い光を口の端から漏らし始めた。


「おいおい……連続で撃てるのかよ」


 俺は顔を顰めてそう独りごちると、素早くアルドガルズの背後へ回り込むように走り出す。


 アルドガルズは口を開きながらあの白い光のブレスを放った。


 俺が走ったすぐ後を白い光が輝いたと思ったら、今度はその光がこちらに向けて動く。アルドガルズがブレスを吐きながら首を回したのだ。


 白い光のブレスは弧を描き、俺を追い掛けるようにして火口の壁を削り飛ばしていく。


「連続で撃てる上に長時間の照射も可能とは畏れ入る!」


 俺は称賛混じりの文句を言いながらブレスを避ける。どうやら、アルドガルズもブレスを吐きながら正確に照準を合わせることは出来ないようだ。


 本気で動けば余裕を持って避けられる。


 ブレスを避ける為に勢い良く地を蹴り、俺は一気にアルドガルズの側面まで回り込んだ。アルドガルズの首が限界近くまで曲げられ、俺を追跡しながらブレスを放っている。


「シッ!」


 強く短く息を吐き、俺はアルドガルズの背中に接近しながら剣を振った。


 俺の剣がアルドガルズの白く美しい翼を切り裂くか、もしくは、大きな傷を背中につける……そう予測していたが、まさかの感触が返ってきた。


 巨大なガラスを割るような感覚と音。そして、空気を伝って響く高い振動音。


 その特有の音と感触を認識した瞬間、俺は地を蹴っていた。次の瞬間には、先程まで俺のいた空間を白い閃光が消し飛ばす。


「結界魔術だと……!?」


 俺は空中からアルドガルズを見下ろしながらそう口にした。


 最強クラスの竜が結界まで張るのか。


 そんなことを思いながら、俺は空中からスキルを使い、攻撃を繰り出す。


「『フレイムタン』!」


 俺が全力で放った攻撃でアルドガルズの結界が三枚破壊され、最後に発動した炎の柱がアルドガルズに辛うじて届く。


 大したダメージは与えていないようだが、アルドガルズは目を丸くしてこちらを見た。


「やるではないか……!」


 アルドガルズはそう言うと、身体を大きく回転させて尾を俺に向けて振る。


 だが、その一撃は俺の結界二枚を破壊して止まった。


「なに!?」


 予想外の事態に動揺を隠せない様子のアルドガルズに接近し、俺は剣を振る。


「『五連斬り』!」


 スキルにより超高速で振られた俺の剣はアルドガルズの翼を根元から斬り落とした。


 堪らずアルドガルズがくぐもった声で鳴く。


 俺がもう一方の翼も斬り落とそうとすると、アルドガルズの顔がこちらに向いた。口からは白い光が漏れている。


「チッ」


 舌打ちをして横っ跳びに回避すると、アルドガルズのブレスが俺のすぐ脇を通り過ぎた。


 結界が一枚、余波で壊れる。


「ノータイムは反則的だな」


 俺がそう言いながら結界を張り直していると、アルドガルズがこちらを睨みながら口を何度か開閉させた。


 何かしようとしている。


 そう思った直後、アルドガルズの身体を見慣れた淡い光が包んだ。


「……は?」


 俺が間の抜けた声を発する中、回復魔術を堂々と使った聖竜王は、その場で翼を生やし始めた。


「いやいやいや……おいおいおい……」


 あまりの出来事に呆然と翼が生える様子を見守ってしまったが、それは仕方がないと言える。


 誰がラスボス級のモンスターが回復魔術まで使うと思うだろうか。そんなのは嫌がらせでしかない。


 しかも、使ったのはたった一度しか出来ない変身などによる回復では無く、魔力のある限り使える普通の回復魔術なのだ。


 俺が唖然としていると、翼が復活したアルドガルズは一鳴きして地を蹴り、翼をはためかせる。


 なにをする気かと思えば、翼を使っての低空飛行の突進である。


 しかし、ただの突進が馬鹿みたいに速い。


 俺は地面を転がりながらそれを回避し、通り過ぎたアルドガルズを振り返ろうと身体を後方に向けた。


 そして見たのは、俺への突進の勢いを生かしてそのまま上空へ上がったアルドガルズの姿だった。


 空中からこちらを見下ろし、軽く口を開いているアルドガルズを見て、俺は飛び上がってブレスを回避しようと膝を曲げる。


「あ……」


 飛び上がる寸前、俺は視界に映る火口の様子に気がついた。


 壁は三分の一以上が吹き飛ばされているが、それは良い。問題は、地面から立ち昇る煙の量である。


 その火口へ、アルドガルズはあの凶悪なブレスを撃とうとしているのだ。


「お、おい! 止めろ!」


 俺が叫びながら空へと飛び上がると、まるでそれを合図としたかのようにアルドガルズの口から白い光が発せられた。


 目に焼き付くような眩い閃光。


 ゾッとする光景に、俺は飛翔魔術で一気に空へと舞い上がり、ブレスを吐き続けるアルドガルズの側頭部に蹴りを入れた。


 思い切り勢いをつけて行ったミサイルのようなドロップキックは、この馬鹿みたいな体格差をもってしてもアルドガルズを大きく吹き飛ばす。


 次の瞬間、俺達が戦っていた山の方から地鳴りのような音が聞こえ、それは起きた。


 連続する爆発音と地鳴りと共に、空に黒煙と紅蓮のマグマが噴き上がる。


 噴火により、空は瞬く間に赤と黒で染まっていった。


 岩が舞い飛んで来る中、俺は空からこちらを見ていたラグレイト達に向けて大声で怒鳴る。


「離れるぞ!」


 俺がそう叫びながら飛ぶと、ラグレイト達も急いで距離を取りながら更に上空へと浮上していった。


 俺に吹き飛ばされたアルドガルズも噴火の様子に一瞬硬直していたが、すぐに竜の国の民へと指示を出し始めた。


 飛べない竜を背に乗せた竜達が空を覆い尽くすほど上空へ浮かぶ中、噴火は更に勢いを増していく。


 あっという間に火口から吹き出した粉塵とマグマが竜の国のあった地を覆い尽くしていき、その様子に竜達は言葉も出せなかった。


 俺が噴火の様子を見守っていると、ラグレイト達が近付いてくる。


「……我が君、どうしましょう」


 何ともいえない顔をしたソアラにそう尋ねられ、俺は眉を顰める。


「……どうって、噴火をか? 噴火って地下のマグマが噴き出してるってことだぞ? 表面を凍らせても無理だろうしな……」


 俺はそう呟き、空へと避難したまま噴火の様子を眺める竜達に目を向けた。


 そして、溜め息を吐く。


「……やるだけやってみるか」


 後で、聖竜王の鱗やら皮やら、いろいろと貰ってやる。


 そう決意し、俺は小さく呟いた。



噴火の話を書いてる最中にテレビで噴火のニュースを見ました。自粛しようかと思いましたか、悪意はありませんのでどうかお許しを。


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