二体の竜を圧倒するラグレイトとソアラ
ソアラがレッドドラゴンを治療してこちらに来ると、ラグレイトもこちらへと降りてきた。
ざわざわと驚きの声を上げている竜達の中を素知らぬ顔で歩み寄ってきた二人は、俺の前に立って残ったカラードラゴンを見上げた。
「ぎゃう」
ドラゴンの姿のラグレイトが一鳴きすると、ソアラが頷く。
「ええ。引きずり降ろしてやりましょう。我が君を下に見た愚かな行いを後悔させてさしあげます」
ソアラはそう言うと、無詠唱で魔術を行使する。ソアラとラグレイトの体を白い光が包んだと思った瞬間、さらに青い光が二人を包み、その光が消える前に次の光と、連続して二人が光を放った。
僅かな間に五回もの補助魔術を行使したソアラに、周りの竜達が絶句する。
そして二人の相手をするカラードラゴン達ですら目を丸くしていた。
「む、無詠唱の連続魔術だと……?」
「あの獣人、昔此処に来たエルフと同等の力を持つということか……?」
二体の竜の会話を聞きながら、ソアラが薄く笑みを浮かべてラグレイトの背中を叩く。
「さぁ、お行きなさい!」
ソアラがそう言った途端、ラグレイトが不機嫌そうな唸り声を上げて翼を広げた。その様子に空に浮かぶカラードラゴン達も思わず身構える。
臨戦態勢を整えた二体の竜を見上げ、ラグレイトは空へと飛び上がった。
地上に砂塵が舞い上がるほどの勢いで飛び出したラグレイトは、さながら弾丸のような速度で二体の竜へと迫る。
その余りの速さに身を固めることしか出来なかった一体の竜の胸部を蹴りつけ、もう一体の竜へと尾を振った。
打撃音が山々を震わせるほど大きく鳴り、尾で顔面を打たれた竜が空中でふらつく。
一瞬の隙を見せた竜に、ラグレイトが頭から突進し、三倍は大きな竜を相手に弾き飛ばしてしまった。
その間に、胸部を蹴られて仰け反っていた竜がラグレイトの背後に回り込むように飛び、ラグレイトの翼に牙を突き立てる。
ラグレイトの速さを見て、機動力を奪おうとしたのだろう。
しかし、竜の牙はラグレイトの翼を食い破ることは出来ず、僅かに傷を付けて止まった。
その光景に目を見開いて固まる竜を振り返り、ラグレイトは口を開いた。次の瞬間、激しい明滅と放電の音を立て、黒い雷のブレスがカラードラゴンに直撃する。
爆発音にも似た感電の音と共に、ブレスを受けた竜は全身を仰け反らせて痙攣した。
ラグレイトがブレスを放っている背後では、先ほど弾き飛ばされたもう一体が動き出し、今度はソアラを狙って空から襲い掛かった。
先に補助魔術を行使しているソアラを倒そうとしたのだろうが、カラードラゴンの突進はソアラが張った結界数枚を破壊して停止してしまう。
血走った眼の竜が残った結界を見て牙を剥き、ブレスを放とうと口を開いた時、ソアラはゆっくりと扇子を広げた。
淡い紫の閃光が迸る。
竜が放った至近距離からのブレスに、ソアラの結界はものの一秒も耐えることが出来なかった。
そして、瞬く間にソアラへとブレスが迫る。
本来ならば生を諦めるその光景に、ソアラは悠然と微笑んだ。
「御返しします」
そう言いながらソアラが扇子を振るうと、黒い大きな扇子は大気に溶け込むように空中に弧を描きながら黒く広がり、ソアラの前に半円状の膜を作った。
ブレスはその膜に当たり、呑み込まれるように吸収される。
「な、なんだと……!?」
その光景にブレスを放った本人が目を限界まで見開いて驚愕する中、ソアラの前に展開した黒い半円は白い光を放ち始めた。
そして、瞬く間に黒い半円が白く染まり、ブレスを放った竜へと巨大な雷が放出される。閃光に呑み込まれた竜は激しい放電の音と共に動きを止めた。
竜はその一撃で煙を吐きながら白眼を向き、そのまま地上へと落下する。
「あれ? 一撃で終わりか?」
俺は地面に倒れたまま動かなくなった竜を眺めてそう呟く。
カラードラゴンはボスの中でもかなり強い方であり、一対一ならそれなりに苦労する相手なのだが、もしかしたらボスのレベルまで育っていないなどの理由があるのだろうか。
俺がそんなことを考えていると、ラグレイトの相手をしていた緑の竜も地面へと落下し、動かなくなった。
「ソアラ! 治療してやれ!」
「はい!」
俺の指示にすぐさまそう答えたソアラは、倒れた二体のカラードラゴンを治療しに掛かる。
俺はそれを確認し、唖然とした様子で固まったままのアルドガルズを見上げた。
「さぁ、大将戦といこうか」
俺がそう告げると、アルドガルズは目を細めて俺を見下ろす。
「……何者だ、お前達は」
アルドガルズのその言葉に、俺は剣を地面に突き刺して笑う。
「人間の国の王だ」
俺がそう告げると、アルドガルズは顎を引いてラグレイト達を見た。
「……人の王と、その配下達か……確かに、侮っていたのは我らだったようだな」
アルドガルズはそう口にすると、白く美しい翼を広げ、咆哮を上げる。その美しくも雄々しい咆哮は、山々を震わせるように長く響いた。
竜達の空気が変わり、落ち着きを取り戻していく。
そして、アルドガルズは俺に顔を向けた。
「……今度はこちらが竜の王の力をみせてやろう」
アルドガルズはそう口にすると、翼を上下に動かし、空へと舞い上がっていった。
俺は飛翔魔術を無詠唱で使い、アルドガルズの後を追う。
「こちらに来るが良い」
アルドガルズはそう言って、二番目に高い山の頂に向かって飛んでいく。付いていくと、山の山頂の真ん中が窪んだ火口であることが分かった。
迷う事無く火口に降りて行くアルドガルズを眺めて、火口と周囲の山々を見比べる。
「なんでこの高さで此処だけ地面が白くなってないんだ? まさか、噴火前の活火山じゃあるまいな」
俺が不審感を抱きながらそう呟き、アルドガルズの後に続くと、アルドガルズは地上で尾を振りながら待っていた。
「さぁ、やろうではないか」
「いや、おい。何で此処だけこんなに暖かいんだよ。変だろ」
俺がそう口にすると、アルドガルズは頷いた。
「この山は生きている。この氷の世界で尚生き続ける強い山だ」
アルドガルズは訳知り顔でそう口にしたが、俺は顔を顰めて地面に目を向ける。
地面がやけに暖かいのだ。それに所々で煙まで上がっているところもある。最早、嫌な予感しかしない。
「……最近地震とかあったか? 地面が揺れるやつ」
「うむ、ここ一カ月ほど頻繁に揺れている」
「駄目じゃねぇか」
俺がそう返答すると、アルドガルズは頷いた。
「そうか、山が火を吐く事を心配しているのだな。安心するが良い。この山は我々が此の地に来て一度も火を吐いていない」
「……活火山なのに何千年も噴火しないとかあるのか? いや、噴火の周期なんぞ知らんから判断つかんが……」
アルドガルズの答えた内容に俺が頭を捻っていると、アルドガルズが上半身を持ち上げて吠えた。
「さぁ、やるぞ。我は久しく全力で戦っていない。悪いが、思い切りやらせてもらう」
アルドガルズはそう宣言して翼を開閉させる。見れば、尾がゆったりと左右に揺れていた。
「……犬みたいだな、聖竜王」
俺は苦笑しながらそう呟くと、剣を構える。
「仕方ない! さっさと終わらせて避難するぞ!」
俺は自分でも良く分からない台詞で気合いを入れた。
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