ブラックドラゴンとの戦い
空からラグレイトがゆったりと降りてくる中、俺の後ろに黒い影が姿を見せた。
「……驚いたぞ。あの小さな子が、リントヴルムをあのように圧倒するとは」
「ウルマフルルか」
俺は声の主を振り返って名を呼んだ。すると、ウルマフルルはラグレイトを見上げながら小さく唸る。
「興味が湧いた。私も力比べといこうか」
「ん? ラグレイトとやる気か?」
ウルマフルルに俺がそう言うと、ウルマフルルは大口を開けて吠え、翼を広げた。
光を遮る黒い巨竜の影が地面に広がる。
ブラックドラゴンはゲーム中でも強敵だったが、ラグレイトならば何とかなるか。
俺はそう判断すると、軽く頷いてこちらへ降りて来ようとしていたラグレイトに対して口を開いた。
「ウルマフルルが戦うみたいだぞー!」
俺がそう言うとラグレイトが返事をする様に一鳴きしたが、周りで見ていた竜達が騒ぎ出す。
気が付けばどんどん何処からか竜が集まってきているようだ。どうやら国の一大イベントになりつつある気がする。
と、ウルマフルルは翼を大きくはためかせて空へと舞い上がった。
先程と似たような形で対峙する二体の竜に、徐々に騒がしかった竜達の声が静まっていく。
「さぁ、いくぞ」
ウルマフルルはそう宣言すると、ツノの生えた頭をラグレイトに向けて突き出した。
ラグレイトはその頭突きを踏むような形で回避し、更に上空へと舞い上がる。
「グォオオッ!」
ウルマフルルは咆哮を上げて翼を振り、ラグレイトに翼、そして長い尾での追撃に出た。
それら全てをラグレイトは器用に回避し、空中で大きく旋回して反撃に出ようと動く。
それを見て、ウルマフルルは口を軽く開いて唸った。
直後、ウルマフルルの口から黒い火のようなものが揺らめきながら溢れた。
そして、ウルマフルルは大空を舞うラグレイトに顔を向けて口を開く。
大気を揺らす轟音と共に、ウルマフルルの口から凝縮された黒い炎が光線のように撃たれる。
ブラックドラゴンのブレスによる攻撃だ。かなりの高威力だが、予備動作とその直線的な攻撃の為、避けるのは楽な技だ。
しかし、今の一撃はゲームの時のような単発での攻撃では無く、連続攻撃後の駄目押しの追撃といったタイミングで放たれていた。
その上、予備動作とブレスを放つ前の溜め時間も半分以下である。
恐らく、それはゲーム内の敵として現れるブラックドラゴンと、目の前の自分で考えて戦闘経験を蓄積したウルマフルルとの差異に他ならない。
カラードラゴンを死ぬ程狩ってきた俺としては、事故が起きてもおかしくない程の大きな差だ。
その危険な一撃を、ラグレイトは真っ向から迎え撃っていた。
ラグレイトはウルマフルルと同じ黒い色のブレスを吐いて正面から撃ちあったのである。
ウルマフルルとの違いは、ウルマフルルの黒い炎に対して、ラグレイトのブレスは黒い雷ということ。
ブレスの太さはラグレイトの方が細いが、黒い雷のブレスは放電の激しい音を立てながら黒い炎を突き破った。
爆発と破裂の轟音を鳴り響かせ、ウルマフルルは黒い落雷を受けて悲鳴をあげる。
数秒のブレスを受けたウルマフルルは、ブレスが止むと同時にフラリと身体を傾けた。
かろうじて空に身を残した状態で、ウルマフルルは低く唸りながらラグレイトを見上げる。
「な、何という威力、だ……まさか、私のブレスを正面から打ち破るとは……」
ウルマフルルがそう告げると、ラグレイトはウルマフルルと同じ高さまで降りてきて、口を開いた。
「ぎゃう」
ラグレイトがそんな声で一鳴きすると、ウルマフルルは目を丸くして固まり、数秒後に笑い出した。
「ふ、ふっはっはっは……! わ、笑わせるでないわ! か、身体が痛いぞ!」
ウルマフルルがそう言って笑うと、ラグレイトがまた一つ鳴き声を上げてウルマフルルが笑う。
「ちゃんと解説せねば分からんわー!」
話の内容が気になったのだろう。サイノスが両手を振り上げてそう怒鳴った。
すると、ウルマフルルがゆっくりと降下してきて、地面に足をつけた。翼を休めるように畳むと、ウルマフルルは軽く頭を振って口を開く。
「うむ……あの若い竜は、まさに童のように自慢してきたのだ」
ウルマフルルはそう言って、空から自分を見下ろすラグレイトを眩しそうに見上げた。
「『どうだ、僕の方が強いだろう』と、そして『僕の主はもっと強いんだ。優しい僕に挑戦して命拾いしたね』だと。全く、その強大な力にそぐわぬ子供らしさに思わず吹き出してしまったわ」
ウルマフルルはまるで父親が子供の自慢でもするように上機嫌で笑い、そんなことを言っていた。
いやいや、ハードルを上げるんじゃないよ。カラードラゴンは真正面から相手するのは面倒なんだぞ。
俺がそんなことを思いながら苦笑いしていると、空から黒い影が三つ降りてきた。
その巨大な影は翼を広げると、風を巻き起こして近付いてくる。
「笑っている場合か、ウルマフルル。我らの国が軽んじられているのだぞ」
そう口にしてこちらを見下ろしているのは大きな赤い竜だった。他にも緑の竜と暗い紫の竜が空から見下ろしている。
火、風、雷の属性を持つカラードラゴン達だ。
俺がブラックドラゴンも合わせて同時四体の最上位の竜種の登場に驚いていると、洞窟の方からその竜達の王であるアルドガルズまでもが姿を見せる。
「……ウルマフルルまでも倒すとは、恐るべき子である。我もお前達の力に興味が湧いた」
アルドガルズがそう口にすると、ウルマフルル以外のカラードラゴン達が唸り声を上げて威嚇し始めた。
「……四体か。なら、俺たちも加わるとしよう」
俺はそう言って剣を手にする。
少年漫画的な展開に…!(笑)
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