竜達の驚愕
「……その言葉、もはや無かったことには出来ぬぞ」
アルドガルズがそう口にすると、城の中で地響きが響いた。
見れば、城の壁際に座りこちらを睨む巨大な赤黒い竜が地面を尾で叩いている。
「……グランドドラゴンか」
俺はそう呟いてその竜を見上げた。ゲームのイベント動画にも登場する最大の大きさを誇る竜である。
この大きな城の天井にまで届く全長五十メートルという大きさのその竜が、俺に顔を近づけてきた。俺達などまとめて丸呑みに出来そうな大きな口が目の前で開かれる。
「その大口、俺を前にしても叩けるのか?」
その巨大な姿に似合った空気が震えるような低い声で、グランドドラゴンはそう言った。
俺は苦笑しながら顔を上げ、首を左右に振る。
「口の大きさじゃお前には勝てないな。負けを認めよう」
俺がそう言って笑うと、グランドドラゴンは唸り声を発して顔を上げた。
「……アルドガルズ様が出るまでも無い。貴様らは俺が踏み潰してくれる」
グランドドラゴンはそう言い残し、城の外へと向かっていった。
「仕方ない。面倒だが相手をしてやるか」
俺がそう言って城の外へ向かおうとすると、ドラゴンの姿のラグレイトが翼を広げて俺の行く手を遮る。
唸るラグレイトを見て、俺は肩を竦めた。
「殺すなよ?」
俺がそう言うと、ラグレイトは一鳴きして城の外へと出て行った。
「殿! 見学に行きましょう!」
サイノスが無邪気にそう言って尻尾を振り、俺は笑いながら頷いた。
「ちょっと行ってくるぞ」
俺はアルドガルズにそう言い残し、皆を連れて城の外へと向かう。マイペースに城から出て行く俺達に、アルドガルズは目を瞬かせながらこちらを見ていたのが印象に残った。
外に出ると、翼を広げたグランドドラゴンがラグレイトを見下ろしている光景が広がっていた。
「貴様のような子竜が、俺に挑むと言うのか?」
グランドドラゴンがそう言うと、ラグレイトは尾を地面に叩きつけて唸った。
グランドドラゴンとラグレイトは大人と子供というか、大人と幼児ほどの体格差がある。
その図に、竜の国の竜達が徐々に興味を持ち始める。
「良いだろう。容赦無く叩き潰してくれる!」
グランドドラゴンはそう言うと、巨大な翼を広げて空へと舞い上がる。
「何度か羽ばたいただけで何であの巨体が浮かび上がるんだ?」
俺は強風に顔を顰めながら、そんなどうでも良いことを呟いた。
グランドドラゴンが空に飛び上がると、ラグレイトもそれに続く。空に舞い上がった両者は空中で対峙し、開始の合図のように同時に吠える。
「思いっきりやれよー!」
サイノスが余計な一言を叫ぶと、グランドドラゴンが翼を大きく広げて体を捻った。空を覆うほど巨大な竜が空中で回転し、木々をヘシ折るほどの暴風を巻き起こす。
そして、その風を巻き起こした勢いをそのままに、遠心力を効かせた長い尾を鞭のようにラグレイトに向かってしならせた。
空中で風に耐えるように身を硬くしていたラグレイトをグランドドラゴンの巨大な尾が強かに打ち抜く。
吹き飛ばされたラグレイトは空中を弾丸のように飛んで行き、隣の山の斜面に突っ込んだ。
粉塵が巻き起こり、山の斜面を砕けた岩の破片が転がる。
それを見て、グランドドラゴンが威嚇するような唸り声を上げた。
直後、まだ粉塵が巻き起こっている山からラグレイトがフワリと翼を広げて浮かび上がってきた。
それを見て、グランドドラゴンは眼を細める。
「これで分かっただろう。尾の一つすら避けられない貴様に勝ち目は無い」
グランドドラゴンがそう言うと、ラグレイトはゆったりと相手に向かって飛んで行った。
そして、グランドドラゴンの目の前で吠える。
「……なに?」
グランドドラゴンがそんな返事をすると、ラグレイトはそのまま相手の腹めがけて頭から突っ込んだ。
「ぐっ!?」
空中で身体をくの字に折ったグランドドラゴンが呻くと、今度は顎目掛けてラグレイトが飛ぶ。
下から弾き飛ばされ、グランドドラゴンはアッパーカットを喰らったボクサーのように背中から地面へと落下する。
あの巨体が落ちてきたら流石に小さな竜だと死にそうだな。
そんなことを考えながらグランドドラゴンを受け止める結界を張ろうとすると、ラグレイトが素早くグランドドラゴンの腰の辺りに飛んで行った。
そして、グランドドラゴンの巨体をラグレイトが下から支え、空中で動きを止める。
と、思いきや、ラグレイトはそのままグランドドラゴンを持ち上げていく。
「ぐ……!?」
グランドドラゴンがそんな声を上げて身動ぎすると、ラグレイトはグランドドラゴンの後頭部を下から尾で叩いた。
「がはっ」
反動で無理やり空中に立たされるように動いたグランドドラゴンから距離をとり、ラグレイトはグランドドラゴンを振り向く。
多少フラつきながらも、グランドドラゴンは己の翼で何とか空中で静止してみせる。
「そ、その小さな身体の何処にそんな力が……」
グランドドラゴンがひび割れた声でそう漏らすと、ラグレイトがまた一度吠えた。
「な、なんだと……!?」
その咆哮にグランドドラゴンは慌てたようにバタバタと空中で動き、自分の身体を守るように翼に包まった。
次の瞬間、ラグレイトが空気の破裂するような音を残して飛び出し、目にも止まらぬ勢いでグランドドラゴンの腹めがけて突っ込んだ。
轟音が響き渡り、グランドドラゴンの身体は嘘のように吹き飛ばされた。
それを見て、近くに来ていた青い竜が喉を鳴らして呟く。
「ば、馬鹿な……」
眼を丸くしてそう口にする青い竜を見て、俺は口の端を上げた。
「何かおかしなことがあったか?」
今回もあまり長くなりませんが、新しい話を書いています!かなり賛否両論ある作品となりますが、読めそうなら是非読んでみてください!
危険人物の異世界転移です!(笑)




