竜の王
明けましておめでとうございます!
今年も乳酸菌を宜しくお願い致します!
青い竜の後に続いて白い竜の元へ向かうと、顔を床につけて横になっていた白い竜の瞼が半分だけ開いた。
白い竜がいるフロアに上がる前で青い竜は立ち止まり、その場で腰を下ろした。
「アルドガルズ様。外よりの来客をお連れしました」
青い竜がそう言うと、アルドガルズと呼ばれた白い竜は長い首を上げた。
「……外から?」
アルドガルズは低く重い掠れ声でそう反芻すると、眼を細めて俺達を見る。
「……珍しい。我も知らぬ竜種と、人間……か。幾千年ぶりだろうか。久しく見ていなかった……」
アルドガルズは俺達に話し掛けるわけでも無く、静かにそう口にした。
その態度に青い竜も特に何を言うでもなく頷く。どうやら、アルドガルズが何かを問うようなことをしてこないと、俺達は喋れないようだ。
そんな空気を感じて黙っていると、王の熟考の為に静寂に包まれる城内で、呑気な声が響き渡った。
それまでアルドガルズを見上げながら首を捻っていたサイノスである。
「殿! カラードラゴンではありませんな。何という種でしょう?」
サイノスがそう口にすると、青い竜が信じられない物を見るような眼でサイノスを振り返る。
竜の顔なのに器用に唖然とした表情を浮かべる青い竜をよそに、サイノスはアルドガルズにまた目を向けた。
「形はホワイトドラゴンですが、それにしては少し小さいし……それにホワイトドラゴンならこんなに綺麗な感じじゃないですな」
サイノスはそう言って首を傾げ、自らの顎を指で摘んだ。
「お、お、お前ら!? 何故大人しく出来んのだ!? あれだけ静かにしておけと言っただろうが!?」
青い竜はサイノスよりも明らかに大きな声を出して注意をする。そのせいで、城の中にいた竜達が顔を上げて俺達の方へ視線を向け出した。
「俺は静かにしてたぞ? こいつ一人に言ってくれ」
俺がそう言ってサイノスを指差すと、青い竜は目を鋭く細めて俺を睨んだ。
「やかましい! そんな問題では無いわ! 貴様らの死刑が決まったら私がその身体をバラバラに引き裂いてくれる!」
青い竜がそう言うと、ラグレイトが唸り声を上げて首を上げた。そして、サイノスとソアラの顔から表情が抜け落ちる。
「……我が君を殺す、と? 誰がでしょうか? 貴方が? この白いドラゴンが? それとも竜族全員で挑んで来る、と? もしその気なら、例え死んでも私は貴方達を皆殺しにします」
ソアラが底冷えする声でそう言うと、青い竜は口を何度か開閉させながらソアラを見た。
ソアラの迫力に威圧されたのか、それとも呆れ返って言葉も無いのか。何かを言おうとしつつ何も言葉を発することが出来ない青い竜に、その斜め後ろでこちらを見ていたアルドガルズが口を開いた。
「中々、大きなことを言う人間達だ……それに、そこの若い竜も、その人間の為に殺意を漲らせている……」
アルドガルズはそう口にすると、身体を起こす。
「……興味深く、面白い竜と人間達ではある。だが、王の前でその態度は看過出来ん。さて、殺しまではしないが、腕や足の一本でも置いていくか。それとも、竜の身体を覆える程の金を持ってくるか……好きな方を選ぶと良い」
アルドガルズはそう言って俺達を観察するように眺めた。その視線は言葉通り興味深そうに好奇心を湛えているように見える。
俺はそれを見返し、口の端を上げた。
「まぁ、どちらも問題は無いと言えば問題無いな。腕はまた元に戻せば良いし、金も出せばある。だが、言われるままも面白く無い」
俺はそう言って、皆の前に歩み出た。
「聞くが、相手が一国の王であったなら、竜の国ではどんな対応をとる?」
俺がそう尋ねると、アルドガルズはゆったりと長い尾を動かして目を細めてみせた。
「……ふむ。それは考えたことが無かったな。だが、その言い方だと、人間の国の王が我と同等であると聞こえる……掃いて捨てる程いる人間の王と、一万以上の時を生きた唯一の竜の王である我を、同列に扱うつもりか……」
アルドガルズがそう言うと、城内の竜達が立ち上がり始める。
そして、青い竜も鋭く眼を尖らせてこちらを睨んできた。
「撤回せよ、人間。我らの王を貴様らと比べることすらおこがましいと知れ」
青い竜にそう言われ、俺は肩を竦める。
「なんだ。竜の王は珍しいから偉いと言うつもりか? そんな面白くない判断基準で誰が偉いなどと言われても納得は出来んだろう?」
俺がそう答えると、青い竜は顔をこちらに近付けて大きな口を開けた。
「ば、馬鹿な! 面白いかどうかで優劣が決まってたまるか! だいたい、貴様に認めて貰う必要など……!」
青い竜が怒鳴り声を上げていると、突如として城内を揺らすような衝撃と腹に響く重い音が響く。
音の発生した方向を見ると、アルドガルズの長い尾が揺れていた。
「……ならば問おう。どうやって竜の王と人間の王とを比べると言うのか。力は弱く、魔力も少なく、わずか百年の知識も無い人間よ。お前が思う、王の器とは何だ?」
アルドガルズは高圧的な物言いでそんな言葉を発した。
成る程。無礼者と思ってもすぐには怒らず、相手の意見を聞く度量も持ち合わせている。
アルドガルズが尾を地面に叩きつけただけで、他の竜達は萎縮してしまったようにも見える。
そして、嘘か真か一万年を生きたという叡智を誇る。
それは間違いなく偉大な王たる資質だろう。
だが、俺は首を左右に振ってアルドガルズを見上げた。
「力と魔力に加え知識も持ち合わせた竜の王。確かに王の器に相応しいだろう。だが、肝心なのは面白さだ」
俺がそう告げると、アルドガルズは動きを止めて俺の顔をじっと見てきた。
そして、顔を上げて笑い出す。
「人間よ。お前達の誇るそれは勇気や肝の太さでは無い。愚かさと無知だ。だが、確かに面白い。それが人間にとっての王の資格となり得るのならば、我もお前を人間の王と認めよう!」
アルドガルズがそう口にして笑うと、城内の竜達がお互いの顔を見合わせてざわざわと騒いだ。すると、ソアラが豊かな胸を張って顔を上げる。
「当たり前でしょう。レン様は王などよりも遥か上におられます。そして、私のだ、だ、旦那様デス」
ソアラは耳まで真っ赤にしてそんな発言をした。
その情報は果たして必要だったのだろうか。俺は首を傾げながらもアルドガルズを見上げ、口を開いた。
「お前一人が納得しても他の竜は納得しないだろう。だから、お前が自慢するものを一つずつ比べてやろう」
俺がそう口にすると、それまで騒いでいた竜達が徐々に静まり、アルドガルズが眼を細めた。
皆が俺の言葉に耳を傾けている気配を感じながら、俺は笑う。
「アルドガルズ。俺と勝負をしようか。もし俺が負けたら、お前を誰よりも優れた王だと認めよう。だが、もし俺が勝ったら、お前の鱗を少々貰っていく」
「……鱗、だと?」
「ああ。久しぶりに初めて見る素材を見つけたんだ。是非とも欲しい」
俺が竜の王を素材よばわりすると、城内の空気が凍り付いた。まぁ、嘘を言っても仕方がないし、後悔はしていない。
感想、評価貰えたら嬉しいです!
元旦からiPhoneの前で小躍りします!




