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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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竜の価値観

 竜の国に降り立つと、大小様々な竜がラグレイトと俺達を珍しそうに見てきた。


 顔を上げてこちらを振り向いたり、寝っ転がったまた眼だけを動かしてこちらを見ているだけなのだが、何故かこちらを不思議そうに見ているのが分かる。


 はっきりと表情が分かるわけでは無いのだが。


「ふむ。色んなタイプのドラゴンがいますな! ワイバーンやレッサードラゴンもいますし、カラードラゴンも見かけます」


 こちらを見る竜達に負けじと、何故かサイノスも物珍しそうに竜の国を眺めて声をあげた。


 それを見て、俺達を先導してくれた青い竜がサイノスに顔を向ける。


「……人間よ。死にたくなければ目立たぬようにしておくことだ。中には人間を嫌う者も多い。騒いでいたら羽虫と間違えて尾が振られる可能性もあるぞ」


 そんな警告を受けて、サイノスは頷いて口を開いた。


「なるほど。確かに周りにブンブンと煩い虫がいると腹立たしいものだ。ドラゴン程の大きさになると人間も虫も変わらんか!」


 サイノスはそう言って大笑いする。


 いや、多分嫌味交じりに言ったんだと思うが。


 サイノスの大らかな程の鈍感さに半ば呆れていると、青い竜も同じような気持ちだったのか、溜め息を吐いて先を歩き出した。


 向かう先は山肌にポッカリと空いた巨大な穴である。


 巨大な山だから違和感は無いかもしれないが、近付けばその穴の大きさが分かった。


 高い洞窟の天井を見上げて、俺は次に入り口の入ってすぐの所に座る竜を見た。


 洞窟の入り口が大き過ぎて感覚がおかしくなるが、その竜もかなり大きかった。


 恐らく、うちのイシュムガルドと同じく三十メートル近くあるだろう。黒くてツルツルと光沢のある鱗に、折り畳んでも尚、体長と同じほどの大きな翼があった。


「お、ブラックドラゴンか」


 俺がそう呟くと、ブラックドラゴンが静かにこちらに視線を向けてきた。


 それを見て、青い竜が慌てて俺を振り向く。


「ば、馬鹿な……人間如きが声を掛けられるような方では無いんだぞ。死にたくなければ口を開くな」


 青い竜が声を顰めてそう口にすると、ブラックドラゴンが顔をこちらに向けた。


 そして、低い声で青い竜に話し掛ける。


「……珍しい。この地に人間が来るなど、何百年ぶりか」


 ブラックドラゴンがそう呟くと、青い竜が慌ててブラックドラゴンに向き直った。


「は、はい。外から来たドラゴンを迎えに行きましたら、この人間達が背中に乗っておりまして……」


 青い竜がこれまでの態度とは打って変わって身を小さくし、ブラックドラゴンに頭を下げる。


 すると、ブラックドラゴンは顔をぐっと近付けて俺達を間近で見た。


「ふむ……まさか、我らの仲間を従えたというのか? いや、それにしても知らぬ種族だが……」


 ブラックドラゴンがそう言うと、青い竜が首を左右に振って尾を下げた。


「い、いえ、見た事が無いドラゴンですが、恐らく人語を解するまでに成長したばかりのレッサードラゴンでしょう」


 青い竜がそう言うと、ブラックドラゴンは首を傾げて顔を上げる。


「そうは見えないが……まぁ、敵意は無いようだ。通るが良い」


 ブラックドラゴンはそう言って俺達を見た。


「門番か」


 俺がそう言うと青い竜が天を仰いだ。


「も、門番……この国の最強の一体に数えられるウルマフルル様を門番扱い……」


 青い竜がそう言うと、ウルマフルルと呼ばれたブラックドラゴンが大きく口を開いて笑った。


「ふっはっはっは! 面白い人間だ! 帰りにまた寄るが良い。外の話を聞かせてくれ」


 ウルマフルルはそう言って身体を揺する。


「ほう。なんなら案内してやろうか? こんな山奥にずっと篭ってるのも暇だろうからな」


 俺が冗談半分でそう応えると、ウルマフルルは咳き込むほど笑って尾で地面を叩いた。地響きがする中、青い竜は翼で俺達を押し、ウルマフルルに頭を下げる。


「そ、それでは、また……ほら、早く行け!」


 青い竜がそう言って俺達を追いやるようにして洞窟の奥へと向かった。


「全く……私がいなかったらお前達はもう踏み潰されていたんだぞ。別にそれはそれで構わないが、国を訪ねて来た者がいたら王の場所まで案内するのが私の仕事だと言うのに……」


 ぶつぶつと文句を言いながら先を進む青い竜を眺めながら、サイノスが笑いながら俺を見た。


「殿。それにしても、先程のドラゴンは面白い奴でしたね」


 サイノスの台詞に俺は軽く頷く。


「ああ。後でまた話をしに行こう」


 俺達がそんな会話をしていると、洞窟の先の方から光が差し込んでいるのが見えた。


 松明などの火による赤みのある光ではない。白く柔らかい光だ。


 そして、その光を背に浮かび上がるように建つ、人工の建造物らしきものがあった。


 近付いていくと、元から広かった洞窟が奥で更に広がり、天井に至ってはすっぽりと丸い穴が開いていた。山の頂上付近に穴があるのだろう。そこからは陽の光が降り注いでおり、洞窟に光を与えていた。


 そして、その光に包まれるように、黒く巨大な城が聳え立っている。


 無骨な、まるで四角い塔のような形状の城である。だが、その壁面や門には、信じられないほど見事な彫刻が施されていた。そして、上部には四体の竜の像も置かれている。


「壁面にある彫刻は、歴史か?」


 俺がそう呟くと、青い竜は顔を上げてこちらを見た。


「ほう。よく分かったな。やはり、人間達は頭が良いのか」


 青い竜にそう言われ、俺は顔を上げて再度壁面の彫刻を眺める。


 竜の飛ぶ姿、巨人らしき何かと戦う姿、山か何かの頂上で竜が吠える姿。


 そんな、何かの場面が切り取られたような彫刻がいくつも施されていた。


「そりゃ分かるだろ」


 俺は心から青い竜にそう答えた。


 青い竜は何故か俺の回答に感心したように唸り、あのブラックドラゴンも余裕で通れそうな巨大な門の前に立った。


 そして、一鳴きする。すると、その巨大な門が一人でに外に向けて開かれていく。


 重々しい金属製の両開きの門だが、誰が開けているといった様子も無かった。


 その扉が開かれると、広間が目の前に広がった。壁には多くの窓が開いており、城の中をボンヤリと照らしている。


 少し薄暗い城の中は奥のフロアが上がっており、内壁や天井にも装飾が施されている。


 手前のフロアには二十メートル以下の中ぐらいの竜が数体おり、奥のフロアには目を惹く真っ白な竜が横になっていた。


 僅かな光の中で、自ら光を発しているような白いその竜は、門が開いたことによりゆっくりと顔を持ち上げる。


 二十メートルほどに見える、それほど大きくない竜だったが、その竜がカラードラゴンよりも強大だろうと理解出来た。


 というか、この城は一ルームかよ。



ご指摘がありましたので、龍と竜が混在していたのを竜に統一しました!


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