龍の国
古から生きるドラゴンが治める龍の国。その国が実在するかは定かでは無く、様々な噂はあれど実際に確認した者はいない。
そんな伝説上に存在する国。
その国を確認した者が現れたなら、それだけで勇者として扱われることだろう。
だが、俺は既に目撃者を知っていた。
「うむ。場所は北東だ。深い森を抜け、最も大きな山があるだろう。その山を越えればある」
三十メートルを超える巨大なドラゴンがそう言った。ゴツゴツとした鱗が特徴のアースドラゴンである。
アースドラゴンのイシュムガルドは顔を地面にくっ付けて俺を見ている。
「ふむ、行けば分かるか。お前も来るか、イシュムガルド」
俺がそう言うと、イシュムガルドは顔を地面にくっ付けたまま、俺から視線を外した。
「……我は母の言い付けに逆らい、独り立ちすべく国を出た。少々帰り辛い」
そう言うとイシュムガルドは溜め息を吐いて、たまたま歩いていた生産職の少女を息で吹き飛ばした。
家出少年か、お前。
と、多少ドタバタしたが、俺はようやく龍の国を目指して動き出すことが出来た。
心なしかいつもより伸び伸びと空を舞う龍の姿になったラグレイトに乗り、俺は地上の景色を眺める。
「殿! 楽しみですね!」
俺の斜め前で胡座をかくサイノスがそう言うと、俺の隣に座るソアラが微笑んだ。
「ふふ……新婚旅行……ふふふふ……」
ソアラが何かブツブツ言いながら俺にしなだれかかっているが、触れないでおこう。
ちなみに新婚旅行と称して各国周遊視察は一度行っている。俺に罪は無い。
それはさておき、龍の国である。
聖龍王が治める国、ファヴニル。それが龍の国の名前らしい。
一番高い山の頂上を超えると深い崖が広がっており、左右を囲うように山がそびえる中、龍の国はひっそりと存在しているとのこと。
まぁ、ダークエルフ達が暮らす森を抜ける形でしか行けない山でもあるし、単純に普通の人間では厳しいのだろう。
と、そんなことを考えていると、イシュムガルドが説明で口にした高い山が見えて来た。
まさに聳え立つという言葉が似合う、大きくて美しい山である。雲が無いから山頂まで見えるが、もしかしたら普段は雲で覆われて山頂まで見えないのかもしれない。
三角に尖った山の頂上は白く染まっており、どこか高潔で清廉な空気を感じさせる。名を霊峰イオルムンガルドというそうだ。
「ラグレイト、上を乗り越える感じでいこうか」
俺がそう言うと、ラグレイトは唸り声を上げて羽ばたいた。
勢いよく上昇し、山よりも高い空から山を見下ろす。
美しくも厳しい環境を見せる山頂を通り過ぎると、長く広い山脈が続く光景があった。
高い山も低い山も、それぞれが人の手が入っていない壮大な自然そのままだ。
そして、その山々に囲まれる形で不自然に開けた空間があり、その空間には大小様々なドラゴンの姿があった。
奥には山をくり貫いたような形状の大きな洞窟の入り口らしき穴もある。
「ここが、龍の国か」
俺は眼下に広がる光景を見て、自然とそう呟いていた。
なにせ、様々なドラゴンが百や二百ではきかないほどいるのだ。壮観である。
「ほほう! 拙者もこのようなドラゴンだらけの場所は初めて見ました! 素材の山ですな!」
サイノスがそう言って笑うと、ラグレイトが冷たい目をサイノスに向けた。
すると、ソアラが上機嫌でサイノスを嗜める。
「駄目ですよ? せっかく静かに暮らしているのですから、ドラゴン達に優しくしてあげましょう。そうだ、何かエサでも狩ってきてあげましょうか。綺麗なドラゴンがいたら飼ってもみたいですし」
ソアラが笑いながらそう言うと、ラグレイトが不機嫌そうに唸る。
ラグレイトが本気で怒ったら上に乗っている俺たちは放り捨てられるのだが、理解しているのだろうか。
「お、我々に気が付いて何体か飛んできましたぞ! しかし、防衛意識は緩すぎますな、殿」
「まぁ、最強の種であるドラゴン達の国が誰を警戒するんだって話なんだろうさ。しかし、そうなると龍の国ってのはここ一つってことか」
サイノスの台詞にそう返事をすると、ソアラが不思議そうに首を傾げる。
「何故でしょう? 他にも龍の国がある可能性はないのですか?」
「他にも龍の国があるなら多少は警戒もするだろうし、例え同盟国であろうと見知らぬドラゴンが来たなら、もう少し警戒心を持って複数のドラゴンを連れて要件を聞きに来るだろう」
俺がそう言うと、二人は成る程と言いながら頷いた。
だが、強大な龍達を纏める龍の国が一つなら、その国の王はそれだけのカリスマがあるということだろう。
もし、龍達が力のある者を信奉するならば、王は最強の龍だろう。そして、知を尊ぶのならば、王は古を生きる最古の龍かもしれない。
「さて、どんなドラゴンに会えるかな」
俺はそう呟き、俺達に近付いてくる三体の龍を見下ろした。
青い五メートルほどの龍や、人より大きい程度の二メートルほどの龍が二体、俺達に向かって来ている。
先頭を飛ぶ青い龍は、ふわりと軽やかに空中を旋回し、俺たちの前に来るように飛んで来た。首が長く、大きな翼があるタイプのドラゴンである。翼が大きい代わりに腕は無い。
青い龍はラグレイト見て、次に俺達に気が付いた。
「……久しぶりに外で産まれた竜種の方かと思いましたが、ただの人間のペットでしたか……国の決まりですから、こちらへ」
青い龍は低い声でそう言うと、一足先に小さな龍達を連れて地上へと戻っていった。
それを見て、サイノスがラグレイトの背中を手で叩く。
「うははは! ペット!」
サイノスが笑いながらそう言うと、ラグレイトが尻尾でサイノスの頭を思い切り叩いた。
「ぬぉ、ぉ、おお……!」
くらくらと揺れながら頭を抱えるサイノスを横目に、俺は腕を組んで嘆息する。
「さて……あいつが竜種至上主義なだけか、それともこの国ではそういう文化なのか」
俺がそう言うと、ソアラが苦笑してこちらを見た。
「どちらにせよ、人間は軽んじられている可能性が高いですね」
「ふむ、どんな扱いを受けるものやら……」
俺はそう言って、ソアラと笑い合った。
さぁ、番外編スタート!
頑張ります!
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