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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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結婚式の裏話②

【ソアラの証言】


 夕陽が差し込む玉座の間に続く廊下を歩いていると、玉座の間から出てきた我が君が、私に気が付きました。


「おお、ソアラ。ちょうどよかった」


 我が君にそう言われ、私は深く頭を下げます。そして、顔を上げて我が君と視線を交えました。


「はい、我が君からお話があるなんて、期待してしまいますね」


 私が冗談めかしてそう言うと、我が君は驚いたように目を丸くして私の顔を見ています。


「凄いな。女の勘ってやつか? ソアラはその辺り鋭そうだもんな」


「まぁ、それはそれは……まるで期待しても良いような物言いですが」


 私がそう言って微笑むと、我が君は困ったように笑いました。


「ああ、まぁ期待通りか分からないけどな」


 我が君はそう言って照れたように自分の頬を手で触ります。


 ……え?


  何か、いつもと雰囲気が違うような……。


 そう思うと、自然と私の胸は高鳴ります。


 そして、我が君は口を開きました。



「結婚するか、ソアラ」




 確か、そんな一言だったと思います。


 いえ、私の記憶ではそうなっていますから、そうなのでしょう。


 私はただただ、驚きと混乱で大変なことになってしまったと思います。勿論、取り乱しながらも私は我が君に返事を返し、涙で濡れながらの熱い抱擁と口づけ……はしていませんね。


 頭の中が真っ白になって完全に思考が停止してしまったのは覚えていますが、肉体的接触は無かったと思います。


 そして、ようやく意識を取り戻した私は、我が君に向かって口を開きました。


「はい……これからもよろしくお願い致します、旦那様」


 こう言ったつもりでしたが、実際には涙と鼻水でまともに喋れませんでした。


 一生の汚点です。


 しかし、この日は私の記憶から消えることはおろか、薄れることすらないでしょう。


 ああ、流石は旦那様です。


 旦那様に会いにこの廊下を通る度に、私は心臓が踊るように高鳴るに違いありません。


 私、ソアラはこの身が滅びるまで、旦那様に尽くしましょう。





【シェリーの証言】


 その日私は、お父さんやお母さんと一緒にお城で晩御飯を食べていた。


 まだそんなに日は経っていないのに、あの戦いがまるで夢であったかのように感じていた。


 たまに戦いを思い返してうわの空になり、城下町に帰って来て皆から盛大な祝福を受けたことを思い出してボーっとしてしまう。


 そんな気が抜けたような日々。


 だって、従者様の皆さんは当たり前としても、一緒に戦った未来の英雄として私やお父さんも銅像を造られたりしたのだ。


 信じられない。


 まだ魔術学院に通っていた頃の私が聞いたら何と言うだろうか。鼻で笑われるかもしれない。


 それにしても、慣れとは怖いもので、気が付いたらお城で見事な音楽を聴きながらご飯を食べて笑っている自分がいる。


 あまつさえ、この時間なら楽士隊の皆さんが演奏してくれると時間を確認し、それに合わせてご飯を食べに来る始末だ。


 獣人の国から来たリンシャンさんも、だいぶ演奏が上手くなった気がするなぁ、なんて思いながら偉そうに演奏を評価したりしている。


 そんな、どの国の貴族や王族よりも遥かに豪華絢爛で、たまらなく平和で穏やかな日々。


 そんな日々を過ごしていると、ふとした時、これが夢なんじゃないかと思う時がある。


 もしかしたら、私はあの時お父さんやお母さんを守る為に死んでいて、今は天国にいるのかもしれない。


 そんな悲しい想像も、ひどく現実味を感じることがある。


 どうか、この日々が続いてくれますよう……私は良くそんな祈りを捧げる。


 その日も、お父さんやお母さんとの会話が途切れた僅かな間で、私はそんなことを考えていた。


 そんな時、私達が座るテーブルにレン様がふらりと訪れた。


 数瞬前まで妙なことを考えていた私は、思わずレン様を凝視してしまう。


 少年のような可愛らしくも男らしい整った顔立ち。巨大な魔物を素手で圧倒するような剛力の持ち主とは思えない、スマートな体型。


 本当に、神話の英雄物語の本から抜け出してきたような人だ。


「邪魔して良いか?」


「おお、そんな断りなぞいりません。どうぞ座ってください」


 レン様の言葉にお父さんが慌てて答えた。


 ちょうど私の隣の席が空いていたので、レン様は私の隣に腰を下ろす。


 一度私は夜、レン様の下へ行き、やらかしてしまっていた。


 それからというもの、何度かリアーナ様と一緒にレン様の寝室を訪ねているが、中々自分から声を掛けることは出来ない。


 誰かを交えて話すのなら大丈夫なのだが、一対一で面と向かって声を掛けるなんてことは私には荷が重すぎる。


 そんなレン様の横顔をちらちらと盗み見ていると、レン様がお父さんとお母さんを見て、頭を下げた。


「すまん。事後報告になるが、シェリーと男女の仲になっている」


 ん?


 今、レン様は何と言ったのか。


 私はフォークを取り落としてしまい、変な声を出してしまった。


「ひゃ」


 私が慌ててフォークを拾う中、レン様はお父さんやお母さんを見て、口を開いた。


「今度、リアーナ達と婚姻しようと思う。その時、シェリーが良いと言えば、シェリーも嫁に迎えたい」


 レン様が続けてそう言うと、お父さんとお母さんもフォークを取り落としてしまった。


 何故か、混乱する頭で私は早く拾わなければと思い、二人が落としたフォークを拾って回る。


「結婚を、許してくれるだろうか」


 レン様のそんな声がテーブルの下にいる私の頭の上に届いた。


「も、も、勿論です。こちらこそ、娘をよろしくお願い致します。 ほら、あなたも……シェリー? 何してるの?」


 お母さんのそんな声がして、私は思わず立ち上がってテーブルで頭を打ち、テーブルの下から這い出した。


「大丈夫か?」


 レン様から苦笑混じりにそう言われ、私はすぐに立ち上がり、頭を下げる。


「よ、よろしくお願いします!」


 それだけ言うのが精一杯だった。


 ダメだ。顔が熱い。


 今思い出しても慌ててしまう。


 これは、流石に夢に違いない。じゃないと、嬉し過ぎて死んでしまう。





【リアーナの証言】


 結婚式の当日は王女として有り得ないほど泣いてしまいましたが、結婚式の話をされた時は良く分からないまま一日が過ぎた気がします。


 その日、レン様が私に言われました。


「結婚の挨拶にクレイビスの所に行かないとな」


 思わず、私は聞き返しました。


「え? 結婚の、ですか?」


 私が首を傾げたのが意外だったのか、レン様は私に向き直って口を開きます。


「流石に王女に手を出して責任を取らないなんてつもりは無いが……結婚する気は無かったのか?」


「……姫様?」


 レン様の発言に、私の後ろにいたキーラが低い声を発します。


 私は何故かひどく狼狽し、キーラを振り返ります。


「ちょ、ちょっと待ってください! これは違うのです!」


 思わず妙な否定の仕方をしてしまいました。混乱の真っ只中だったのです。これは仕方が無いことでしょう。


 しかし、レン様もキーラも表情を変えてしまいます。


「……言ったらマズかったか? 王女のスキャンダル……確かにヤバいネタか。フミハル砲が……」


 レン様が何か呪文のような言葉を口にしながら頭を捻り、キーラは凍て付くような瞳を私に向けてきます。


「姫様……いいえ、リアーナ王女……貴女様は、生涯の伴侶と決めた方以外とそのような……」


「い、いえ! 決してそのような軽薄な気持ちでは……! それに、レン様は私などと婚姻など……!」


 私が身振り手振りを加えて弁明しますが、キーラの眼に温度は戻りません。


「……おかしいですね。そのレン様から責任をとる、というお言葉を頂いた筈ですが?」


「え? 責任? 何のでしょう?」


「……姫様を傷物にした責任以外に何がありましょう」


 キーラがそう言うと、レン様が顔を顰めて口を開きました。


「おい、言い方……」


「失礼しました。処女を奪った責任以外に……」


 レン様に一言言われたキーラが単語を変更し、私とレン様は同時に俯きました。


 なんて言い方をするのですか。


 この場から消えてしまいたい衝動に駆られた私に、なおをキーラは責めるような口調で話を続けます。


「それで、レン様のプロポーズを、姫様は断るような話し振りでしたが……断るのですか?」


「そ、そんな滅相もありません! 結婚出来るならば勿論そうしたいに決まって……っ!?」


「それでは、そのように。レン様、明日にでも陛下の下へ報告に行きたいと思いますが、宜しいでしょうか?」


 私が反射的に口にした言葉を聞くや否や、キーラは私の喋りかけの台詞を遮ってレン様に向き直りました。


 酷い!


 そう思って口を尖らせてキーラの背中を見つめていると、今までの話の流れがようやく頭の中に染み込んできました。


 結婚?


 私が、レン様と?


 お父様に挨拶に行く?


 え、明日?


「私はレン様と結婚するのですか!?」


 私が思わずそう確認すると、キーラからまた冷たい視線が飛んできました。


「お、おお。リアーナが良ければな」


 戸惑うレン様のそんな台詞に、私は胸の前で両手の指を組み、顔を上げます。


「良いに決まっています! さぁ、それなら今日にでもお父様に! レン様のお心変わりが無いように急いで報告しましょう!」


 私が興奮してそう言うと、キーラが目を細めて私を振り返りました。


「もう夜でございます、姫様。今日はゆっくり休み、明日しっかりと準備を整えてから向かいましょう」


「あ、そ、そうですね。そうします」


 私はキーラにそう言って深呼吸をします。


 それにしても、キーラは何故あんなに冷たい態度をとったのでしょう。いつもなら私の代わりに泣いてくれるような優しい人なのですが。


 あ、そういえばキーラはレン様を……。




 ちなみに、翌日お父様に婚姻の報告に行くと、お父様は頷いて一言。


「おお! 結婚ですか! やったな、リアーナ!」


 大臣も居るのに、こんなところで持ち上げないで欲しいです。いくら嬉しいからといっても、持ち上げて回るなぞ以ての外です。



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