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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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戦争後

 国際同盟の内部の結束と、外部への宣伝。そして、レンブラント王国とインメンスタット帝国の戦いの強制終了。


 色々と面倒な事態はあったが、結果的に当初の予定通りにはなった。


 ナイアーラトテップに操られていた帝国兵も、ナイアーラトテップが消滅すると同時に倒れ、残された帝国兵達も戦いを続けることは無かった。


 帝国兵の撤退を補助し、改めて国際同盟の同盟国による国際会議を開くと、新たに四つの小国が加盟していた。


 更に、インメンスタット帝国の皇帝が既に死んでおり、今回の戦争は邪神によって引き起こされたことであるという話になり、エインヘリアルが主導で帝国の立て直しを図ることになった。


 これについては意外にもトゴウなどの小国の代表達も反論せず、スムーズに決定となった。それも戦力差を加味して渋々では無く、前向きにである。


 解せぬ。


 まぁ、それはともかくとして、会議後は早速インメンスタット帝国の再建に向かったのだが、これが中々大変だった。





【インメンスタット帝国帝都】


「我らこそ、正に被害者であり、最も不利益を被った国とである」


「確かに。邪神によって食い物にされ、偉大なる皇帝を失ってしまったのだからな……」


 とりあえず、新たな皇帝をと思って帝国のトップ達を集めたのだが、何やら雲行きが怪しくなってきたな。


 俺がそんなことを思いながら大臣達を眺めていると、白い髭の大臣が俺達を睥睨して口を開いた。


「それで、国際同盟はどう責任を取ってくれるのか……お聞かせ願えますかな?」


「ん? 責任?」


 大臣の質問にメーアスの代表であるジロモーラが首を傾げる。再建するなら食料や建材を多く取り扱うジロモーラが良いということで同行したのだが、ジロモーラは予想外の展開に眉根を寄せていた。


 大臣はそんなジロモーラを睨め付けると、溜息混じりに口を開く。


「それはそうでしょう。そちらは被害国である我が帝国の皇帝を殺害し、十万を超える兵達を虐殺したのです。僅かな金や領地だけで解決出来るものではありませんな」


 その大臣がそう言うと、他の大臣も何人かが大きく頷いた。


 これは色々理由を付けて慰謝料を貰おうとしているのでは無く、条件を付けようとしているのだろう。


 だが、肝心のその部分に達する前に、ジロモーラが怒って立ち上がった。


「だから、皇帝は最初から死んでたんだよ! 兵達もお前らから攻めてきたんだから、迎え打って何が悪い!?」


 ジロモーラが鼻息も荒くそう怒鳴ると、大臣は目を細めて低い声を発した。


「皇帝が最初から亡くなっていたというのは其方の言い分。証拠も無いのにそのような話を信じろという方が無理でしょう。それに、兵達を迎え討ったと言いますが、何故そちらの被害は数百人程度なのか。これは、何か裏があるとしか考えられない」


「皇帝の近くにいた兵達は邪神の声が聞こえたというじゃないか! 兵がそっちばかり死んだのは単純に帝国軍が弱過ぎるだけだ!」


「何!? 帝国軍が弱いというのは聞き捨てなりませんな!」


 ジロモーラの台詞に、今度は大柄の大臣が怒鳴りながら立ち上がった。彼奴は軍部に関係する大臣だったか。


 ぎゃあぎゃあと怒鳴り合う不毛な会議を眺めつつ、ジロモーラはやはり芯から商人なのだろうと何と無く思った。外交をする者ならもう少し冷静でなければな。


 と、そんな様子を見て、白い髭の大臣が俺に目を向ける。


「話になりませんな。戦争の賠償については後日にしてもらうとして、帝国内のことは帝国の上層部である我らに任せて貰いましょう。折角の申し出ですが、国際同盟とかいう歴史も無い組織を信用出来ません」


 大臣はそう言って俺を威圧するように睨む。敗戦国として手を出されたくないのだろう。戦争は邪神の所為にして有耶無耶にしておき、新たな皇帝には自分に都合の良い者を立てる気だ。


 だが、この大臣は一つ勘違いをしている。


「それはそれで構わないが、その場合は国際同盟は完全に手を引くぞ。帝国は国際同盟に加盟出来ないし、空輸産業にも関われないが、それで良いな?」


 俺がそう言うと、大臣は目を丸くして固まった。


 やはり、国際同盟が帝国をどうしても加盟させたい、と勘違いしていたか。


 だが、それは手札にはならない。


 案の定、困惑した大臣が眉尻を下げて俺を見た。


「い、インメンスタット帝国は、四大国として確固たる地位を築いているのですが、その帝国を国際同盟に加盟させない、と?」


 大臣がそう言うと、椅子に座りなおしたジロモーラが腕を組んで鼻を鳴らした。


「ふん。帝国から出すとしたら海産物、農作物、木材、石材だろ。別に絶対に必要というわけじゃない。我がメーアスと獣人の国がその辺りを補ってくれるからな」


 ジロモーラがそう告げると、大臣達が顔を見合わせてざわめいた。


 それを眺めつつ、俺は咳払いを一つして口を開く。


「国際同盟としては戦争を仕掛けられた、と今回の事を捉えている」


「そ、それは邪神によって……」


「邪神が成りすました皇帝に誰も気付かず、邪神の手先だったメルカルト教にも好きなようにさせていた、と。そんな上層部では取引をするのにも不安になるというもの」


「ぬ……」


 俺の物言いにかなり立腹しているようだが、良い切り返しが思い浮かばなかったのか、大臣達は口を噤んだ。


 俺はそれを見て口の端を上げ、浅く頷く。


「だから、こちらで全ての皇帝の血族を調査し、最も邪神が手を出しづらい者を皇帝に推挙しよう」


「っ! それは内政干渉では無いか!」


 俺の発言に、大臣の一人が慌ててそう怒鳴った。俺はその大臣に片手を上げて制し、口を開く。


「では聞くが、誰も、先代皇帝が邪神に取って代わられていたのに気付かなかったのだろう? そんな状況で、新たな皇帝を選ぶ事など出来るのか?」


 俺がそう尋ねると、大臣達は苦虫を噛み潰したような表情になって押し黙る。


 俺は静かになったのを確認して、皆を順番に眺め、話を続けた。


「だからこそ、国際同盟が手助けしよう。邪神が現れない確かな国と認定出来たなら、国際同盟への加盟と空輸産業に関わることを認める。悪いが、一度邪神に支配された国というレッテルは簡単には拭えないと思え」


 俺がそう言って、事実上の決着となった。後日すり合わせは行うが、常に帝国より国際同盟の方が有利な立場で話が進む。


 ジロモーラもニッコリと笑顔である。





 後日、皇帝の血を引く息子五名、娘六名、孫一名の中から新たな皇帝を選出した。


 もちろん、選んだのは国際同盟の良いように出来る人材である。


 妾との子であり、皇帝の子達の中でも不遇の扱いを受けていた十三歳の息子を皇帝に引き上げた。若過ぎるという理由を付けて、後見人を二人付けた。


 一人は皇帝の娘の一人で、もう一人は帝国との因縁が最も薄いエインヘリアルから後見人兼護衛として俺のギルドのメンバーであるミレーニアを置いた。


 護衛としても教育者としても優秀なので問題は無いだろう。



書籍は二月刊行予定です!

よろしくお願い致します!

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