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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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神話の光景

書籍化決定しました!

読んでくださった皆様のお陰です!本当にありがとうございます!

【同盟軍兵士の視点】


 天変地異のような魔術の数々を見て、俺達は一時戦争中であることを忘れて呆けてしまっていた。


「盾を上げろ、馬鹿者共!」


 腹に響くような怒鳴り声が後方から聞こえ、呆然としていた俺達は条件反射で盾を持ち上げ、腰を落とす。


 遠くから近くに視線を戻すと、そこには既に槍を構えた帝国兵達が迫っていた。


「うわぁああっ!」


 悲鳴と聞き間違えそうな程必死な声を上げて、帝国兵達は俺達に向かって襲いかかって来る。


 ぶつかり合い、盾で弾き、剣で斬りつける。


 一般の兵士が帝国兵一人を相手にしてる間に、獣人の国の兵達が倍の数を相手取っていた。


 気を抜けば一瞬で殺されそうな緊迫感に耐えていると、頭上をまた驚くような魔術が飛んで行き、帝国兵達を吹き飛ばしていく。


 ただ必死で守り、必死で斬った。


 どれだけ戦ったのか。


 そんな疑問が浮かんだ時、不意に帝国兵の前進が止まった。


 俺のいる場所だけじゃない。横を向けば、皆が揃って立ち止まっていた。


「な、なんだ!?」


 俺が混乱しながらそう叫びながら辺りを眺めると、同盟軍も帝国軍も揃って同じ方向を見ていることに気がつく。


 視線の先を追うと、遥か遠くに、空に浮かぶ長い髪の生首のようなものが見えた。


 思わず息を呑み、よく分からない不安感で胸が満たされた。


 影のように黒いその生首のようなものは、髪を振り乱し、髪と髪の間から異常に大きな目玉を覗かせていた。


 何だ、あれは。


 あんな不気味なものは見たことが無い。


 俺は情けなくもその悍ましい姿に、盾と剣をぶら下げたまま動けなくなってしまった。


 巨大な目玉の化け物は空を覆い尽くす火に包まれても、目も眩むような雷を受けても平然としていた。


 神話にも出てこないような化け物だ。あんなものを、誰が倒せると言うのか。


 情けない事に、俺は戦ってもいないのに恐怖と絶望に心が折れそうになった。


 だが、その時、西の空で異変が起きた。


 化け物の髪が西に向けて伸びていくと、その髪を避ける人影があった。


 輝く黄金の光を放ち、見たこともない美しくも荘厳な鎧を纏うその人は、蜘蛛の糸のように無数に伸びる黒い髪を斬り払い、化け物へと立ち向かった。


 皆が固唾を飲んで見守る中、黄金の光は化け物に衝突し、弾かれるように空へ舞い上がる。


「あ、ああっ!」


 誰かが悲鳴をあげた。


 駄目か。


 俺はその光景に奥歯を噛んだ。


 だが、黄金の光は散った訳ではなかった。空高く舞い上がったその人は、一際大きく光を放ったかと思うと、怪物目掛けて弓から放たれた矢の如く飛び出した。


 怪物の絡み付くような髪の攻撃を物ともせず、黄金の矢が怪物の中心に突き刺さる。


 一秒、二秒もの拮抗の末、矢は見事に怪物を突き抜けた。


 怪物から青い光を放つ血液のようなものが霧のようにふわりと広がり、怪物は消えていく。


 怪物が消えていく光景に声も出せずにいた。


 何か言えば、また怪物が現れそうだった。


 だが、怪物の影が無くなり、空に黄金の戦士が一人残ったのを見て、俺は思わず感情が爆発したような叫びを上げた。


 その叫びは方々から同時に上がり、やがて全ての人が割れんばかりの大歓声を上げるに至る。


 間違い無く、俺は神話の戦いをこの目で見たのだ。






【トゴウ視点】


 もはや、戦争などという空気では無かった。


 いや、戦争をしていることすら忘れていたのかもしれぬ。


 ただ呆然と空に浮かぶ金色の鎧を着た者を見ていると、すすり泣くような声が聞こえた。


 泣いているのは、獣人の者達であった。自分の想像を遥かに超える身体能力を有した屈強な獣人の戦士達が、人目も憚らずに落涙しておるのだ。


「……何故、泣いている」


 思わず、最も近くにいた獣人の者にそう尋ねた。


 すると、その獣人の者は金色の鎧を着た者を見つめたまま、口を開いた。


「……我らは神の代行者様の従者の子孫だ。レン様がどう言われても、我らはレン様の忠実なる従者という気持ちを何処かに持っている」


「……あの黄金の鎧を着た者は、やはりエインヘリアル国の王か……それで、その姿を見て、涙が止まらぬと?」


 そう聞くと、獣人は泣きながら頷いた。


「我らの主人の真の姿を見る事が出来たのだ。そして、片隅であれ、レン様と共に本当の従者のように、邪神と戦うことが出来た……これ以上の喜びは無い」


「ふむ……神の代行者と邪神の戦い、か」


 そう呟いた時、獣人はこちらを見て、泣きながら笑った。


「なんだ……お前も泣いているではないか」


 獣人にそう言われ、初めて自分の頬を流れる一筋の温かい涙に気付く。


 その涙を指ですくい、眺めた。


「……私の国は、神の代行者が最後の時を過ごした地であると言い伝えられている。もしかしたら、我らタキの民達も、神の代行者の従者の血を引いているのかもしれんな」


 私はそう答えて、空に浮かぶ金色の鎧を着た者を改めて見た。





【サハロセテリ視点】


 空に浮かぶレン様の神々しい御姿を眼に刻み込みたいのに、涙が滝のように溢れて止まらない。


 視界が歪んでしっかりと見えない。


「さ、サハロセテリ様……な、涙が止まりません!」


「わ、私もだ」


 部下の台詞に鼻をすすりながら答える。


 その時、風の魔術の気配とレン様の麗しい御声が聞こえてきた。


 《同盟の者達よ。そして、インメンスタット帝国の者達よ。戦争は終わりだ。皇帝に化けて帝国を操っていた邪神、ナイアーラトテップは滅した。もう踊らされる必要もないだろう》


「ナイアーラトテップ……」


 誰かが邪神の名を畏怖の念を込めて呟く。


 《邪神に操られていた帝国も被害者だ。だからこそ、国際同盟が協力して帝国を本来の形に戻そうと思う》


 本来の形?


 その言葉の意味を理解出来ず、私はレン様の言葉を待った。


 レン様は少しの間を空けて、話を続ける。


 《……そう。本来の、帝国の人間による統治だ。いつから帝国は邪神に操られていたのか分からない以上、新たな皇帝を選ぶには確実に邪神の手が及んでいない第三者の目が必要になるだろう。だから、国際同盟が率先して協力し、帝国が再び立ち上がる為の手助けをしよう》


 レン様がそう告げると、同盟軍も帝国軍も関係なく、盛大な歓声が上がった。


 素晴らしい。


 なんと御優しい御心か。


 敵対した者とて救済しようという正に神の如き美しき精神。


 私の視界はさらなる大量の涙により、完全に何も見えなくなってしまった。


「……帰ったら皆にこの話を……いや、書として書き遺さねば……!」




影から帝国を支配出来る口実を作るレン様…!

書籍化報告の日に更新した話がこんなに腹黒い主人公で良いのだろうか…!


書籍化のお話については、詳しくは活動報告をご覧下さい!

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