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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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イレギュラー

「セディア、ローザは触手を回避しながら伸び切った触手の切断を試せ! サニー、イオは各属性魔術を順番に発動! 弱点が無いか探せ!」


「殿、拙者は!?」


「待機!」


「なんと!?」


 俺は皆に指示を出しながらナイアーラトテップの背後へ回り込もうと動いた。


 だが、ナイアーラトテップは常に俺を追って目玉を動かし、触手も休む事なく伸ばしてくる。


 接近戦であの量の触手を打ち込まれたら流石に回避出来ないと判断し、近接での戦闘をメインにしている奴らは待機させているのだが、どうにも面倒なことになった。


「ボス! これ切れないよ!?」


「全属性試したけど、あまり効いてない……?」


 皆から次々に報告を受けるが、良い情報は皆無なのだ。


 その状態でありながら攻撃は全て俺に集中している為、タチが悪い。


 弧を描くように走りながら、俺は自分に向かって伸びた触手を剣で斬る。


「っ!」


 まるで触れる寸前で見えない壁に弾かれた様な感覚。


 俺達が使っているものとは違う種類だが、一種の結界に違いない。


「なら、火力でいってみるか」


 俺はそう呟くと、一気にナイアーラトテップから距離を取る。


 触手は伸びてくるが、距離を取っていくごとに触手を戻す時間が掛かっている為、少しずつ時間に余裕が出来ていく。


 ナイアーラトテップから数キロは距離を取り、俺は立ち止まった。


 俺の意図を察したのか、ローレルが盾を構えて触手に衝突し、時間を稼ごうとしてくれている。


「あ、吹っ飛ばされた」


 ローレルやサイノス、ラグレイトが吹き飛ばされては向かっていく。


 俺は急いでアイテムボックスから装備を取り出し、地面に並べた。


 普段は使わない、金と銀色のフルプレートメイルである。なんと、背中には大きな黄金の羽まで付いている。


「悪趣味だよなぁ、これ」


 俺はそう呟きながら、伸びてきた触手を避けた。


 更に、身体能力向上の金色のイヤリング、腕輪、指輪を取り出して身に付ける。


 触手を避けながら、我ながら器用に手足、腰、胴の部分まで鎧を装着していく。


 まるで厚紙で作られているのかと思うほど軽いからこそ出来る芸当だ。


 更に刃物のようなデザインの肩当を付け、丸みのある兜を被る。


 手にはクーポン剣のみを持ち、俺は触手を避けながら口を開いた。


「『ラフ・ヴォルテックス』」


 魔術を行使した俺は、今避けたばかりの触手を見て剣を振り下ろした。


「『天覇喬聖珠玖猛剣』」


 同時に口にしたスキルにより、刀身が青白く発光したクーポン剣が触手を一撃で斬り落とす。


 先端を切り落とされた触手は素早く本体の元へ戻っていった。


「さぁ、反撃開始だ」


 俺はナイアーラトテップに向き直り、地を蹴った。


 羽のように軽くなった身体で、一気にナイアーラトテップ目指して走る。


 次々と触手が迫るのが見えた。


 全力で走りながら二本の触手を左右に動いて躱し、横並びに同時に迫る五本の触手を飛び上がって避ける。


 戦場を見渡せる高さに飛んだ俺目掛けて、雨霰のように触手が伸びてきた。


「『フライ』」


 俺は触手を剣の腹で弾きながら飛翔魔術を発動し、空を舞い上がるように飛んだ。


 空を舞う俺の通り過ぎた後をなぞるようにナイアーラトテップの触手が伸び、俺は身体を捻って当たりそうな触手を斬り払う。


 左右に避けながら触手を斬り、弾き、避ける。


 まるで戦闘機の空中戦のような気分で、俺はナイアーラトテップの丁度真上へと移動した。


 すでに、ナイアーラトテップの触手は十本といわず切り捨てた筈だが、まったく減っているようには見えない。


「……よし、行くぞ」


 俺は触手を回避し、浅く呼吸をしてそう呟いた。


 覚悟は決まった。


「『剣の舞』」


 俺はスキルを発動しながら、ナイアーラトテップ目掛けて落下した。


 先ほどまでの直線的な動きでは無く、円の動きを多用した複雑な動きで触手を避け、同時に目にも留まらぬ速度で剣が振るわれる。


 一撃一撃が渾身の一撃と同等の威力があり、ナイアーラトテップの触手も問題無く切断されていた。


 もうすぐナイアーラトテップの本体に剣が届く。


 そう思ったその時、ナイアーラトテップが目を丸く開いた。そして、大量の触手が自己防衛の為に本体に巻き付き始めた。


 俺は更に『剣の舞』を継続し、触手の束を切り裂いていく。


 《……不確定存在(イレギュラー)……生き物は常に間違いを犯す……だが、それらは全て管理者の手の上でのこと……全ては出ている結果に向かって収束する過程……》


 ナイアーラトテップの声が頭の中に響く。


 俺は手を止めることなく、触手を切り刻んでいく。次々と集まってくる触手を切り裂き、己が身を守ろうとする触手を切り裂く。


 《……お前たちは何故現れる……何故邪魔をする……世界は変わろうとしているのに、何故抗う……》


 ナイアーラトテップの声が大きくなり、俺は剣を振りながら口を開いた。


「勝手に決められるのが嫌いだからだよ」


 俺はそう言って、触手を数本纏めて切り飛ばした。すると、ようやく、ナイアーラトテップの目玉と再会することが出来た。


 ナイアーラトテップの眼は大きく見開かれ、俺の全身をその黄色く濁った眼に写し出す。


 《……神を超える者……秩序を破壊する者……不確定存在(イレギュラー)よ、お前はこの世界に必要無い……》


「余計なお世話だ」


 俺はナイアーラトテップにそう言い返すと、迫り来る触手を躱しながら剣を突き出す。


「『翔瞑詔突』」


 俺がそう口にした瞬間、剣は青白い光を放ちながらナイアーラトテップの瞳に突き刺さった。


 目玉を突いた筈なのに、硬い土に無理やり棒を刺していくような感触を手に感じながら、俺はナイアーラトテップの目玉に突き刺した剣を抉るように捻り、更に奥へとねじ込んだ。


 次の瞬間、剣を中心に光が粒子となって周囲に広がっていき、ナイアーラトテップは触手の先から灰となって崩れていく。


 崩れゆくナイアーラトテップは剣を生やした目玉を地面に向け、だらりと触手を下げた。


 《……面白い……この世界は神の思惑から外れた道を辿るのか……見ることの叶わない、その先を見たかった……》


 そう言い残し、ナイアーラトテップは全て灰となり、崩れて消えた。


 俺は空中に一人残されたまま、徐々に光を失っていくクーポン剣の刀身を眺める。


「……限界突破とかして更にレベル上がってたりして」


 俺がそう呟いた瞬間、地上から地鳴りのような大歓声があがった。



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