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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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ラスボスはお前かい

敵の反撃を許さない前後からの魔術による絨毯爆撃。これだけで全て終わると踏んでいた。


なにせ、神の使徒達は事前に殲滅しているのだ。もう脅威は存在しない。


そう思いながら戦場を眺めていると、明らかな異変が生じていた。帝国軍の北と南は前後を挟むような形で攻撃されている為、予定通り崩壊が早い。


しかし、主力である中央の俺達が叩いている帝国軍の中央部分は数の減りが遅いのだ。


いや、寧ろ、後から後から補充されているようにすら見える。


「……何かあるな」


俺はそう呟くと、クレイビスを振り返った。


「ちょっと出てくるぞ」


「は、はい、わ、わかりました……?」


俺が一言告げると、クレイビスは不思議そうな顔で返事を返した。


「俺がいなくてもまず突破される事は無いから安心しろ」


俺はそう言い残して、帝国軍の方へと足を運んだ。


途中、ソアラが俺に気が付いて声を掛けてきた。


「我が君、どちらへ?」


「ちょっと気になることがあってな。 同行するか?」


「良いのですか? では、ご一緒させていただきます」


ということでソアラが付いてくることになった。途中でシェリーにも見つかったが、声は掛けられなかったので置いて行く。


最前線まで行くとサイノスが剣を振るっていた。


「殿! どちらへ!?」


剣を振るってテンションの上がったサイノスに声を掛けられたので、軽く手を挙げておく。


「あの、サイノスが付いて来ようとしてますけど……」


「無理矢理戦線を上げる気か? まあ、一人だけ突出すると防衛ラインを突破されやすくなるが、あのメンバーなら大丈夫か」


俺は一人でそう納得すると、帝国軍のど真ん中に目を向ける。


既に戦意を喪失しつつある兵士が大半なのか。それとも一人で向かって来る俺に何かを感じたのか。帝国軍の兵達の列が割れるようにして左右に別れた。


とはいえ、人数が多過ぎる為、左右に別れるといっても一メートルから二メートルずつといった程度だが、俺とソアラが歩くには問題ない幅の通路となる。


時折、やる気のある帝国兵が俺に斬りかかってくるが、見せしめのように火柱に包まれて倒れた。


帝国軍の中を百メートル以上進み、俺は立ち止まる。すると、後方で控えていたソアラが辺りを見回しながら口を開いた。


「我が君、兵の様子が……」


「……ふむ。聖人軍と同じ、だな」


俺はそう呟き、剣を肩に乗せるように構えた。


視線の先では、こちらを驚愕したように見てくる兵士達に混じり、全く表情を変えない人形のような兵士達が現れだした。


近くにいるのは数人程度だが、遥か奥にある大きな馬車らしきものが見える辺りには、明らかに聖人軍を彷彿とさせる静かな兵達の姿がある。


「死にたくない奴は離れていろ」


俺がそう言って剣を担いだまま足を前後に広げると、一部の兵達は慌てて距離を取った。


そして、人形のように無表情の兵士達は無言で俺に向かって剣を構えて走り寄ってくる。


「分かりやすい限りだな」


俺は笑いながらそう呟くと、肩に担いだ剣を真っ直ぐに振り下ろし、スキルを発動した。


「『大丞峯刃(たいじょうほうしん)』」


俺がそう口にすると、振り下ろした剣の軌道に沿って白い光を伴う真空の刃が打ち出された。


人よりも大きな巨大な光の刃は人形のような兵などの障害物を斬り裂き、吹き飛ばしながら突き進む。


そして、光の刃は百メートル以上突き進んで霧散した。


それを何度か繰り返しながら進むと、俺とソアラはあっさりと目的地へと辿り着いた。


距離を置いて取り囲むようにして立つ人形のような兵士達を横目に、俺は馬車のような乗り物を見た。


屋根付きの馬車のようでもあるし、洋風な神輿にも見えるが少し大き過ぎる。横に広く、十人は入れるような大きさで、それを八頭の馬が引いているようだ。


その特殊な形状の馬車の前に立ち、俺は剣を構える。


「『フレイムタン』」


スキル名を口にして、剣を振るった。


馬車の先端に触れた程度だが、剣が馬車に触れた瞬間赤い光が明滅し、紅蓮の焔が火柱となって噴き上がった。


馬車全てを覆う程の火柱が発生し、辺りに猛烈な熱波が広がる。


「へ、陛下っ!」


周囲から悲鳴にも似た絶叫が響き、馬車の後方から帯状の火炎がいくつも飛んできたが、全てソアラの張った結界に防がれている。


そんな中、火柱が徐々に収まっていくと、まるで最初からそうであったかのように前面を丸く焼失した馬車の姿があった。


そして、機能を失った馬車の前には、黒い影が音も無く存在していた。


何の形という形容をし辛い、ただ歪な黒い塊である。それを見た帝国兵達は一様に息を呑み、俺達を狙った攻撃の手も止まった。


黒い影。それ自体は見た事の無い姿だったが、その存在に類似するモノは記憶にある。


「……何故、まだナイアーラトテップが生きている?」


俺がそう呟くと、側に控えていたソアラがハッとした表情で黒い影を見た。


すると、黒い影は一人でに蠢き始め、高さ二メートル程だった大きさが倍近くにまで巨大化した。


その巨大な黒い物体の真ん中が、丸く開いた。


現れたのは一つ眼である。


黒く光を反射しない瞳らしき部分と、普通ならば赤い筈の黒い動静脈。そして、黄色く濁った白目の部分。


その不気味で大き過ぎる単眼に、其処彼処で悲鳴が上がった。


黒い物体の眼は俺の姿を捉えると、身を揺するように動かし始め、身体から細い紐状の触手を無数に伸ばす。


その触手は周囲にいる兵達の身体を突き刺し、周囲の者達を巻き込むようにして振り回された。


一瞬で黒い物体の周囲には広い空間が開け、黒い物体以外で残ったのは俺とソアラだけとなる。


俺は黒い物体の中心にある眼を見据えた。


目の前にいる黒い物体は、俺の知るゲームで見たナイアーラトテップとは明らかに違うのだ。


形も、サイズも、行動パターンも違う上に、まるで帝国軍を皇帝の代わりに率いていたかのような状況に激しい違和感を感じる。


では、この黒い物体は何なのか。


解らないから、直接聞くことにした。


「……お前は何者だ?」


半ば返答は無いものと覚悟して質問をしたのだが、黒い物体は眼を何度か瞬きさせ、引き絞るように細くする。


《……我は闇に潜む無貌の神……ナイアーラトテップである……》


狭い洞窟で声を発したような反響を含んだ低く重い声が頭に響いた。


その声は何処までの範囲まで聞こえているのかは分からないが、及び腰ながら周辺で武器を構える兵達もお互い顔を見合わせて混乱している。


「つまり、俺が倒したナイアーラトテップは偽物というわけか」


俺がそう口にすると、ナイアーラトテップを名乗る黒い物体は触手を蠢かす。


《……我に眷属は無く……故に……アレは我の一面を模して変容させた……皇帝の死骸である……》


「皇帝かい……」


俺はナイアーラトテップの言葉を聞き、脱力感と共にそう呟いた。周囲は騒然としているが、俺は呆れ半分で溜め息を吐く。


なにせ、実質的に帝国はもう敗戦していたのだ。トップは既に死んでおり、恐らく、ナイアーラトテップに踊らされた兵士達は死んだ者から順番に聖人軍のような、人形のような兵に変えられてしまったのだろう。


タイミングを考えると聖人軍が動き出す前には皇帝は死んでいたということか。


だが、そうなると疑問が一つ発生する。


「……ナイアーラトテップ。お前が皇帝に化けてまで戦争をした理由は何だ?」



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