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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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前門のレンレン、後門のエルフ

【カナン視点】


 空に昇っていく見事な炎を見て、私は立ち上がった。


「合図だ……! 行くぞ!」


 私がそう叫ぶと、私と同じ様に身を潜めていたダークエルフの仲間達が一斉に返事を返した。


 帝国軍の突撃が始まる前から平野の外側を回り込む様に移動していた我等は、帝国軍の斜め後方に陣取っていた。


 北と南。


 どちらかがバレても良いように、二方向から同時に帝国軍の後ろに回り込んでいる。


 私は北の部隊、ダークエルフ二千人を指揮しており、南ではハイエルフのアリスキテラが同じく二千人を指揮している。


「こちらからはどうせ敵にしか当たらん! 接近してから火と土の広範囲魔術を放て! 魔術を行使しながら南下するぞ!」


 私がそう言って木々の間から出て、同盟軍に攻め込む帝国軍の兵士達の背を見据える。


 今まさに部隊を率いて攻め込もうとしたその時、上空から火山の噴火のような爆発音が響き渡った。


 風の魔術による攻撃の余波でも受けたのかと思うような衝撃に思わず顔を上げると、遥か上空に新たな太陽が産まれたのかと言わんばかりの炎の球が轟々と燃えていた。


 どうやら、先程の合図である火の魔術が上空で爆発したらしい。


 この爆発して広がった炎の球が本当の合図だったのか。


「合図が派手過ぎます、レン様……っ!」


 仲間にまで動揺が広がる合図とはいったい何なのか。






【アリスキテラ視点】


「きゃっ!?」


 大気を震わせる程の爆発音に、私は思わず身を竦めて悲鳴を上げてしまった。


 顔を上げると、レン様の合図が大きくなっている。


「あ、あの合図の魔術を使えば帝国軍は全滅したんじゃないのかしら」


 私はそんなことを言いながら、ダークエルフ達を振り返った。


 木々の隙間から顔だけ出して、目と口をまん丸にしているダークエルフ達を不覚にも可愛いと思ってしまったが、今は眺めている暇も無い。


「皆さん! さぁ、攻撃を開始しますよ!」


 私がそう言うと、ダークエルフ達は慌てて木々の間から姿を現した。


 皆がレン様から装備やアイテムを戴いているとはいえ、三十万の兵士達の一部でもこちらに向いてしまったら、いくら精鋭のダークエルフ達をもってしても耐えられない。


 つまり、反撃されない距離から完全な不意を突いて移動する作戦だ。帝国軍の後方には魔術士も多く配置されているようだし、レン様としては早めに叩いておきたいのだろう。


「さあ、ダークエルフの皆にハイエルフの力も見せないとね」


 私はそう小さく呟くと、魔術を行使すべく口を開いた。







【ソレアム代表ヨシフ視点】


 補給部隊の行商人達が連続して響く轟音に一々動きを止めてしまい、中々手筈通りに動けていない。


 とはいえ、馬が立ち竦んでしまうのだから仕方がないのだが。


 私は視線を行商人達から外し、同盟軍の向こう側へと向けた。


 空を巨大な炎や岩が舞い飛ぶその光景を眺めて、背中を伝う冷たい汗に私は身を震わせる。


「……まさか、これ程とは思わなかった」


 確かに様々な情報は得ていたが、どれも眉唾と言えるような大袈裟なものばかりであった。


 まさか、それらが全て本当のことであったなど、誰が思うだろうか。


「……国際同盟か」


 これ程の力があるならば、世界を制することなど造作も無いことのように思える。


 だが、作り上げたのは既存の国や文化を存続させることになる、国同士が協力する国際同盟という組織である。


 大国が何かする度に様々な対策を練って忙しなく動いてきた小国から見れば、素晴らしい組織となるだろう。


 利用できるだけ利用させてもらい、国力を高めてやろう。


「最も手に入れることが難しかった、時間という材料を手に出来るのだからな」


 私はそう口にすると、視線を戻した。


 情けないことに行商人達だけでなく、我が国の精鋭達まで魔術が作り上げる恐ろしい空の光景に目を奪われてしまっている。


「さあ、早く動かねば……」


 私は自身に言い聞かせるようにそう呟き、指示を出した。





【とある帝国兵の視点】


 名誉あるインメンスタット帝国の王国征伐軍に加わることが出来て、ずっと浮かれていた。


 あの憎らしい王国にようやく目に物を見せてやれるのか、と。


 王国の兵は三万。帝国の兵は三十万と聞き、然もありなんと思った。人面獣心たる王国の悪王には、その程度の人望しかないのだから。


 そして、実際に戦場に辿り着いた時、同じ釜の飯を食ってきた仲間達と王国を嘲笑った。


 広々とした、高低差の少ない地形。こんな場所でどうやって三万の兵で迎え討つというのか。


 それに、帝国の大軍勢に対して、あの王国軍の情け無さよ。なけなしの戦力を左右に分けていく所を見ると、せめて真正面からはぶつかられないようにと考えたのか。


「おい! 見ろよ、真ん中にどっちに行けば良いのかも分からない奴らが取り残されてるぜ!」


 誰かの声が聞こえ、周囲の者達が腹を抱えて笑った。兵の練度も足りないのか。俺が子供の頃とはいえ、あんな程度の低い者達に帝国が押し負けていたなど信じられない。


 俺達が笑っていると、後方から皇帝の発した御言葉を持ち帰る伝令兵が馬を走らせてきた。


「リュシアス様の御言葉である!」


 伝令兵のその一言で、場が静まり返る。それを確認した伝令兵は、大きく息を吸ってから口を開いた。


「『帝国に仇なす者共に死を与える!ただ勝つのでは無く、帝国の力を見せ付け、圧勝する!目の前の敵を斬り付け、弾き飛ばし、踏み潰せ!一兵残さず皆殺しにせよ!』」


 伝令兵が皇帝の御言葉を発すると、其処彼処から爆発したかのような勢いで掛け声が上がった。


「うぉおおっ!」


 かく言う俺もそうだった。肺の中の空気が無くなるまで叫び、息を吸ってまた叫んだ。


 走り出したくなるような高揚感に背を押され、皆が前のめりに王国軍に顔を向ける。


「進めっ!」


 号令が発され、待ちきれなくなっていた俺達は最前列の者達から順番に歩き出した。


 剣を握り締め、盾を掲げて足を前に出す。獰猛な気持ちになっているのは自覚しているが、それを抑えつける必要は無いのだ。


 誰かが剣と盾を打ち合わせて音を鳴らしている。


 さぁ、皆殺しだ。


「お、おい……!」


 俺が剣の刃に視線を落とした時、隣にいた仲間が驚いたような声を上げた。


 まさか、向こうから打って出てきたのか?


 慌てて盾を構えて顔を上げた俺の目に、火柱が映った。


 いや、空から炎が尾を引いて落ちて来ているのだ。


 嘘みたいに馬鹿でかい炎の塊が、俺達から数百メートル以上離れた場所で地面に落下した。


 轟音と共に動けないほどに地面が揺れ、風や土煙が痛いほどに吹き付けてくる。


 離れているのに、まるで間近で火に炙られているように熱い。衝撃で閉じていた目を開くと、そこには燃え盛る巨大な岩があった。


 なんだ、あれは?


 最前列の兵達など、完全に腰を抜かしてしまっている。


 皆が呆然とする中、王国軍の方から鬨の声が聞こえて来た。


 昂ぶっていた気持ちが水を打たれたように冷たく冷めていく。


 この戦いは、本当に圧勝出来るのだろうか。


 そんな疑問が頭の隅に影のように拡がっていった。



やたらと色んな視点を入れてしまったので本日二回投稿です。

次回はちゃんと主人公視点の予定です。

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