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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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獣人とエルフの狂想曲

【同盟軍第一軍】


 地鳴りを鳴り響かせながら迫り来る帝国軍を見て、王国軍の兵士達が歯を嚙み鳴らして震えている様子に目を向ける。


 情けないとは言うまい。


 我らとて武者震いが止まらないのだから。


「……フウテン殿、三十万の兵は怖いか?」


 と、そんな質問が隣から聞こえてきた。


 隣を見下ろすと、隻眼の人相の悪い御仁が帝国軍を睨んで立っていた。小国の代表であるトゴウその男は、背も小さく細身で力もあるようには見えないのだが、私の巨体を前にしても全く怯まない堂々とした男である。


「さて、怖いのかどうか、私にも分かりませんね。ただ気持ちが昂ぶっているのは確かでしょうが」


 私がそう告げると、トゴウは浅く頷いて腰に下げた得物に手を添えた。


「……その気持ちは解る。だが、こちらに来た獲物は渡さぬぞ」


「ふ、ははは! お互い、他人の獲物は取らぬように気をつけましょう」


 私はトゴウの見た目に削ぐわぬ子供のような物言いに思わず笑い、帝国軍へと視線を戻した。まさか、玩具の取り合いのような扱いになるとは思わなかった。


 私が笑っている内に、帝国軍はもう目の前に迫っている。


 北側にある同盟軍の一軍を指揮するのは私だが、気を付けないと闘いに夢中になってしまいそうだ。


 私は口の端を上げて、口を開いた。


「さあ、兵達よ! 思い切り当たれ! 後衛は手筈通り、充分に引き付けて後方を叩け!」


 私が号令を発すると、兵達から大気を震わせる程の返事が返って来る。


 身体の奥底から熱くなるような高揚感だ。


 剣と剣が打ち合う音。怒鳴り合い、鎧を着た者同士が身体ごとぶつかり合う音が響き、私は無意識の内に咆哮を上げて地を蹴っていた。






【同盟軍第二軍】


 どうやら僅かに先に北側の方が戦闘に入ったらしい。


 戦場の空気が変わったのが分かる。届く筈の無い熱気が伝わってくるかのようだ。


「サハロセテリ様! こちらももう激突します!」


 仲間にそう言われ、私は顔を上げた。


 皆が私の言葉を待っている気配が伝わってくる。このようなことは百年ぶりくらいだろうか。


 私は程よい緊張感に、笑みを浮かべて口を開いた。


「さあ、まずは前列の皆さん! 防御を固めて相手の突進を受け止めてください! 引き付けて貰えれば我々が援護を致します! 魔術士、弓隊はすぐに攻撃出来るように準備して下さい!」


 私が指示を出すと、二万にもなる兵達から大声が返ってきた。


 身も竦むような大音量だが、決して不快ではない。この味方の怒鳴り声が、弱気になりそうな心を奮い立たせるのだろう。


 私がそんなことを思っていると、私と同じく後方に待機している小国の王、カイシェック王が薄ら笑いを浮かべて口を開いた。


「いや、中々気持ちの良い号令でございました。今日はエルフの皆様の魔術をこの目に出来ると聞き、年甲斐も無くはしゃいでおります次第でして……本来ならこんな戦さ場には王自ら出たりしないのですがね」


 そう言って笑うカイシェックに、私は曖昧に笑みを返しておく。


 胡散臭い男だが、レン様の作られた国際同盟という組織は清濁併せ呑む器も必要だろう。


 様々な意見が出つつ、それらを皆で吟味して取捨選択していく。難しいことのように思えるが、レン様は間違いなく可能だと仰られた。


 ならば、可能なのだろう。


「おっと、最前列はもうぶつかりますね。我々も魔術を?」


「あ、いえ。完全に前列の兵達が交戦し始めてからです」


 充分に引き付けてから叩く。それがレン様の指示である。


 帝国軍の戦術は物量にものを言わせた単なる突撃。本来ならこんな広大な戦場でこれをやられると、数が圧倒的に少ない同盟軍が間違いなく敗戦する筈だ。


 しかし、あのレン様が中央で僅かな手勢を率いて陣取っている。何かしらの策があるに違いない。


 と、そんなことを考えている内に怒声と金属音が次々と響き渡り始めた。


 味方の陣営の向こう側は帝国軍兵士達の姿で一杯である。その帝国軍の兵士達が同盟軍の作る壁に当たり、兵と兵の間隔が急速に短くなっていく。


 ここだ。今こそ、範囲のある魔術が最大限に効果を発揮する時。


「後衛部隊! 攻撃開始!」


 私が指示を出すと空に向かって無数の矢が飛んだ。そして、矢の後を追うように炎の塊や岩が舞う。


「『ストーンショット』」


 隣ではカイシェックも魔術を放ち始めている。下位の魔術を行使するところを見ると、速さと量で勝負する気なのだろう。


「私もゆっくりしてられませんね……『へディロン・フロンド』!」


 私が魔術を発動すると、空中に白い岩の塊が出現し、弧を描いて帝国軍の下へと飛んでいった。


 私が無詠唱で中位の魔術を行使したことに気が付いたカイシェックは目を見開いて私の顔を見てくる。


「さぁ、どんどんいきましょう」


 帝国軍の方から地響きが聞こえ、爆発音が後から響いてくる中、私は笑顔でカイシェックにそう言った。カイシェックは引き攣りながらも何とか笑みを浮かべて首肯してみせる。


 先程のレン様の魔術を見た後では恥ずかしいくらいですが、何とかカイシェックを驚かせることくらいは出来たようですね。






【同盟軍本営】


 一部の同盟国首脳陣と、サイノスやリアーナ達や行商人達がいる同盟軍の本営。


 普通の兵はクレイビスの近衛兵くらいだろうか。


 そんな少数過ぎるくらい少数な俺達に向かって、帝国軍の大軍勢が迫ってきている。


「おお、大迫力だな」


 俺はそう呟いて剣を手にした。


 実際に自分に向かって殺到しているだけに、映画など目では無い迫力がある。


「殿! 拙者がまずは斬り込みますゆえ!」


「サイノス。作戦は?」


 尻尾を振りながらこちらを振り向くサイノスにセディアが目を釣り上げて首を傾げた。


 サイノスは不服そうにセディアを見ている。


「まあ、作戦通りにしないとな。この人数だ、突破されたら補給部隊が全滅する」


 俺がそう告げると、サイノスはガックリと肩を落とした。俺はそれを見て笑い、軽くフォローしておく。


「サイノスには中央を任せるから、思い切りやってくれて良いぞ」


「しょ、承知致しました!」


 俺の指示を聞き、サイノスは刀を抜いて帝国軍に向き直った。


 やる気に満ち溢れたサイノスを横目に、ローレルが呆れたような表情を浮かべながら肩を竦める。


「そんじゃ、俺も配置に付くとしますか。旦那、行ってきます」


 ローレルはそう言うと、本営から離れるように南に向かって歩き出した。


 それを見て、セディアやローザも北へと歩き出す。


 前衛が出来るサイノスやローレル達を点々と離れて配置し、その後方にサニーやイオ達を援護要員として等間隔に立たせる。


 ちなみに、その更に後方にはリアーナやダン達が並び、その中央には俺が立って全体を見つつ指示を出す作戦である。


 一人一人が百人以上の兵を一度に相手にするという馬鹿みたいな計算で立てられた作戦だ。


 だが、各々が本気を出すならばこれくらいが一番やりやすいだろう。


「……来た! ぶつかるぞ!」


 俺がもう目前にまで迫った帝国軍を眺めていると、フィンクルが鋭い声でそう叫んだ。


 こちらが嘘みたいな極少数であるが故か、それとも司令官の指示が一番早い中央だからか、帝国軍の大軍勢は恐ろしいまでの勢いで突っ込んでくる。


 一人一人の兵が声を張り上げ、剣を高々と掲げ、突貫してくる。


「一番乗りは拙者だ!」


 そんな中、やけに楽しそうなサイノスの声が聞こえ、次の瞬間には大型ダンプが建物に激突したような破壊音が響いた。


 いったい彼奴は何をしているんだ。


 俺がそんなことを考えていると、今度は俺から見て左側で巨大な炎の竜巻が巻き起こり、帝国軍の真っ只中を削り取るように進んで行った。


「な、ななな……!?」


 行商人達が慌てふためく声が後方から聞こえてきたが、今度は右側で光の帯が空から舞い降りて帝国軍の方へと雨のように降り注いでいく。


 その光景を目にした行商人達は驚き過ぎて逆に静かになってしまっていた。


 ローレルはスキルを発動して巨大な光の十字架を作り出すし、ラグレイトは兵士を殴ったり蹴ったりしているだけなのに何十人と纏めて吹き飛ばしている。


 セディアやローザ達の場合は姿が見えなくなったと思ったら十人二十人と首無し死体が増えていく。


 ちなみにリアーナ、シェリー達も魔術を次々と撃ち放っているが、サニーとイオの魔術の桁が違う為活躍が霞んでしまっていた。


 まあ、それでも津波やら竜巻やらが発生しているのだが。


「帝国軍の隊列が乱れてきましたね」


 俺が戦況を眺めていると、クレイビスが冷静な一言をくれた。確かにこちらの攻撃で帝国軍の進行は殆ど止まってしまっている。


「よし。それじゃあ次の手に打って出るか」


 俺はそう言って、合図の火の魔術を上空に向けて放った。



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