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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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圧倒

 僅か数度剣を合わせただけで、アイゼンシュタインは既に血塗れの状態だった。


「た、助けてくれ! 皆、早く……っ!」


 アイゼンシュタインが顔面蒼白で叫び、必死にサイノスの攻撃から身を守る中、他の聖人・聖女達は全力でアイゼンシュタインの下へ向かっていた。


 ピンク色の髪の女が槍を構えて地を蹴り、飛ぶように疾走する。


 その女に向けてサニーが魔術を行使し、女の正面に立ち塞がるように炎の壁が出現した。


 女は一瞬だけ逡巡したが、素早く進行方向を変えて炎の壁を迂回するように避ける。


 しかし、炎の壁を避けた瞬間、女の体が見えない車にはねられたように吹き飛んだ。


 地面を十数メートル転がり、草むらに顔から突っ込む。


「……ぅ」


 まともな声も上げられずに、女は地面に寝転がったまま呻いた。


 暫く身体の痛みと戦って漸く身を起こした女の視線の先で、矢が雨のようにサイノス達に向けて降り注ぐ光景が広がった。


「な、何を……っ!? あ、アイゼンシュタインが……!」


 女は目を見開いて矢の降り注ぐ先、サイノスと相対しているだろうアイゼンシュタインの姿を探す。


 しかし、アイゼンシュタインの姿は無く、先程までアイゼンシュタインを斬り刻んでいたサイノスは刀を片手に辺りを見回していた。


 女は凍り付いたようにその場で動けなくなり、降り注ぐ矢を全て結界で弾いたサニーが、自分に顔を向けて杖を掲げる姿をただ呆然と眺めることしか出来なかった。


 目に意思の光が戻る頃には、女の眼前には直径数メートルはありそうな火の玉が迫っていた。


 ピンク色の髪の女が生きながらに業火に焼き尽くされる頃、サニーやイオ、カナンから魔術による攻撃を受けなかった者はかなりの距離を詰めることに成功する。


 身の丈を超える程の大剣を持つ黒い重装備の鎧騎士もその一人である。


 だが、鎧騎士がサイノス達まで残り十メートルの距離を越えた瞬間、その身体目掛けてセディアとローザの投げナイフが閃いた。


 それを見ても鎧騎士は前進を止めず、冷静に大剣を身体の前に置いて盾代わりに使う。


 本来なら重装備の鎧騎士の選択は間違いでは無かっただろう。


 そんな風に高を括っていた為か、セディアとローザの投げナイフが鎧騎士の鎧を貫通して突き刺さり、動きの鈍くなった鎧騎士にローレルが接近するまで、鎧騎士は大きな反応を見せなかった。


 ゆったりとローレルが鎧騎士に近付き、明らかに混乱している鎧騎士を躊躇い無く斬り捨てる。


 たった一撃で、上半身と下半身が別れた鎧騎士の死体が地面に転がった。


 そのように、上空から見ればサイノス達が多方向から攻められているといった状態だが、攻めているはずの聖人や聖女達の方が一人、また一人と倒れていく。


 それを眺め、レンレンは不思議そうに首を傾げるのだった。






【レンレン視点】


「弱いな」


 俺は無感情にそう呟き、頭を捻った。


 サイノスと戦っていた囮役の騎士は一分も持たずにサイノスに斬り殺されている。


 なまじ防御力があったので、片腕を失い、身体中をなます切りにされ、最後には首を刎ねられて死ぬという壮絶な殺され方である。


 レベルでいうなら七十から八十程度だろうか。ナイアーラトテップを倒せるということでかなり警戒していたが、まさかの弱さだった。


 ティアモエらしき姿もあったが、イオの魔術により氷の塊を雨霰のように受けて吹き飛んでいた。恐らく即死だろう。


「す、凄い……!」


「これが、サイノス殿達の本当の力か……」


リアーナやブリュンヒルト達は素直に驚愕の声を口にしているが、俺は何とも言えない気持ちで肩を竦める。


なにしろ、あの好戦的なラグレイトすら面白くなさそうに突っ立っているのだ。戦う相手として、何かが決定的に足りない奴らなのだろう。


 残りは六人。これで終わりか。俺がそう思ったその時、空からこちらへ接近する何者かの気配を感じた。


風を切る音と結界に衝突する金属の音。


その音を耳にしながら、俺は顔を上げる。


そこには垂れた黒く長い髪の隙間から、静かにこちらを見据える双眸があった。俺はその二つの眼を見返して片方の眉を上げる。


「……確か、ナヴァロだったか。こんな一か八かの勝負に出るタイプには思えないが、この状況で勝算があるということか?」


俺がそう尋ねると、ナヴァロは険しい顔で小太刀を握り直した。


そして、唸るような低い声を発する。


「勝算など、ある訳がない。ただ、これまで共に歩んだ仲間が無駄死にするのを眺めているのが嫌だっただけだ……彼奴らを止めることが出来なかった以上、俺が一人で出来ることは限られている」


ナヴァロはそう呟き、小太刀を振った。俺の張った結界に刃を打ち付け、再度口を開く。


「俺達は確実に全滅するが、お前一人を殺すことが出来たなら、それだけで俺達の死は無駄では無くなる……!」


ナヴァロはそう言うと、声を殆どを発さずに口を素早く動かし、速度向上のスキルを発動した。


銀色のオーラを纏い、ナヴァロは空中を目にも留まらぬ速度で駆け巡る。


慌てふためくリアーナ達を横目に、俺は剣を構えて口を開いた。


「策が破綻したのはさぞかし無念だろうな。本当は俺をあの場で始末する予定だったんだしな」


俺が挑発の意味も込めてそう告げると、俺の背中にナヴァロの重い声が返ってくる。


「……一方的に被害を受けたままの帝国を焚き付け、あえて戦争を再開させる。今まで歩み寄らなかった各国が協力関係を築く……その為の格好の餌としての帝国を演出する。全て、神の代行者一人を誘き出す為の布石だった」


ナヴァロのその言葉に、俺は口の端を上げる。


「つまり、俺に聖人軍やハスターの存在を知らしめて、違和感が無いように帝国領内へと撤退する予定だったということか。そうすれば、罠だと分かっていても俺が自ら向かうしかなくなる。そこを聖人・聖女全員とナイアーラトテップの総戦力で叩き潰すわけか」


俺がナヴァロの言葉の先をそう予測すると、ナヴァロは鼻を鳴らした。


眼下では、最後の一人をサイノスが斬り伏せたところだ。


「……負け犬の遠吠えだ。結局、どんな戦略を練ろうと失敗すれば意味は無い。俺の兵法が甘かったという結果が出ただけだ」


地上で全ての仲間を失ったナヴァロは、どこか哀しそうにそう答え、スキルを発動する。


多彩で速度のある様々な攻撃スキルを防ぎながら、俺は剣を振った。他にも仲間がいれば連携次第では中々の脅威となっただろう。


そんなことを思いながら、俺はナヴァロの剣を弾き、一瞬硬直したナヴァロの身体目掛けて剣を振る。


「『五段斬り』」


ナヴァロは全力で俺の剣の一撃目を小太刀で逸らし、二撃目を脚で受けて防ごうとした。


だが、三撃目は無防備に腹部で受けてしまい、深く腹を斬り裂かれる。


そして、残りの二回の斬撃で、ナヴァロは完全に命の火を消された。



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