野生の聖人聖女があらわれた!
「周囲に散らばって隠れてますね」
セディアの報告を受け、俺は首肯する。
一騎当千の実力があるという自信からの布陣だろう。事実、他の国の軍を相手にするなら俺もそうする筈だ。
ただ、問題はこちらも同じように一騎当千の実力という状況だが。
俺がそんなことを考えて笑みを浮かべていると、物凄く怖い顔をしたサイノス達が俺を見て口を開いた。
「殿! 今回は、何卒我らに挽回の機会をください!」
サイノスがそう言うと、皆が頭を下げる。
「隠れている者も含め、相手の人数はわかるか?」
「十二、でしょうか」
俺の問いにローザが答えた。
百対百二ならば大した差はないが、九対十二だとかなり厳しい戦いになるかもしれない。
まぁ、千対二百でも勝ってきた我がギルドだが、今回は死ねば終わりの可能性が高いのだ。負けるわけにはいかない。
俺が他に誰か連れていこうかとリアーナ達を見ると、リアーナ達を乗せたラグレイトが唸り声をあげた。
その声を聞き、ソアラが口を開く。
「我が君……ご心配無く。ラグレイトも行くと言っておりますし、我ら八人ならば決して負けはしません。ゆったりとした気持ちで観戦なさっていてください」
え? 俺も出ないの?
ソアラのまさかの台詞に唖然としていると、サニーがメラメラと燃えるような眼で頷いた。
「任せて。ちゃんと残さず焼却処分する」
焼却処分かよ。ゴミじゃないんだから。
俺は半ば呆れながらも、皆のやる気を見て、覚悟を決めた。
「……よし。じゃあやってみせろ。相手はあの金髪を囮にして包囲してくる筈だ。あの金髪はサイノスが相手取り、周囲をローレル、ラグレイト、セディア、ローザが警戒。サニー、イオが援護、ソアラは補助だな」
俺がそう作戦を伝えると、皆は大きな声で返事をした。
「れ、レン様!? わ、私は!?」
と、そこへ今まで黙っていたカナンが割り込んできた。そういえば、カナンも封印されてたから名誉挽回のチャンスは欲しいのか。
しかし、実力が少々足りない。
「……よし。カナンはソアラの側で援護を手伝ってくれ。ソアラの護衛も兼ねてるからな。頑張れよ?」
「は、はい!」
俺の遠回しの補欠宣告に気付かず、カナンは返事を返した。
全国大会に出場した部活の顧問のような気持ちになりながら、俺は鷹揚に頷いて号令を掛ける。
「行ってこい」
【聖人・聖女視点】
随分と遅い。罠を警戒しているにしては、特に何のアクションも無い。
「まさか、こちらが動くまで動かない気かな?」
僕はそう独りごちると、周りに目を向けた。
周囲は風や氷、そして炎か雷の魔術で吹き飛ばされている。これだけ多くの魔術を放ったなら、もう罠を警戒して動かずにいるという線は無さそうだ。
相手の思惑に意識を向けていると、ようやく動きがあった。空から十人前後の人影が降ってきたのだ。
「……様子見か」
地上に降り立った人達を見て、僕はそう呟いた。
降りてきたのは僅か九人。半数以上は上空で待機しているらしい。
まあ、僕一人相手に九人で戦うと決めたのは良い決断だろう。それならば確かに勝負にはなるかもしれない。
「アイテムボックス、真・覇王の剣」
僕はアイテムボックスから、愛用のオリジナルウェポンを取り出した。
赤と金の刀身に、黒の鍔と柄。魔術刻印を刻んだオリハルコンの剣だ。その美しさは比類するものが無いと断言出来る、最高の芸術品である。
僕は剣先を九人の若い男女に向けて、口を開いた。
「僕の名前はアイゼンシュタイン。黄金の騎士なんて呼ばれ方もするけどね。単純に最強だって話さ……さあ、掛かっておいで。格の違いを見せてあげるよ」
僕がそう言うと、一番前にいた獣人の男が口の端を上げて刀を抜いた。
「面白い。拙者はサイノス。殿の部下として最強たらんとする者だ。お言葉に甘えて、拙者に格の違いを教えてもらいたい」
サイノスと名乗るその背の高い獣人は、そう言って刀の先を自分の顔の高さに上げる。まさか、一人で僕の相手をする気か?
頭がおかしいのか、ただの自信過剰なのか。
「こちらとしては楽が出来て良いけどね。じゃあ、さっさと狩らせてもらおうか……!」
僕はそう言うと同時に剣を構えて地を蹴った。
剣は真っ直ぐにサイノスの首目掛けて突き出される。
最速の踏み込み、最速の突きだ。
これで、僕は様々な敵を……
「ぬん!」
「なっ!?」
僕は手の痺れと共に思わず驚愕の声をあげてしまった。防がれるはずの無い一撃が弾かれてしまったのだ。
サイノスは僕の顔を眺めつつ、また刀の先を俺に向ける。
「さて……小手調べはいらんぞ? ほら、格の違いを見せてくれ」
サイノスの何処か愉悦を含んだ喋り方に、僕は激しい苛立ちを覚えた。
剣を構え直し、口を開く。
「『オーバーウェルム』」
僕はスキルを使って身体能力を最大にまで高めた。
「これで力も速度も一段階上になった。軽口を叩いたことを後悔するんだね」
僕がそう言うと、サイノスは何故か嬉しそうに頷いた。
「やはりまだまだ本気じゃなかったか。さあ、やろうやろう」
サイノスは尻尾を振りながら腰を僅かに落とした。
馬鹿にしやがって……!
「『閃光十連斬』……!」
僕は最強の一撃を放った。身体能力を上げて、更に僕の最速、最強の連続攻撃スキルを放ったのだ。
まさに、閃光の名に相応しい様々な斬撃がほぼ同時にサイノスへと打ち込まれる。
「ぬぬ! 中々の速さ!」
しかし、サイノスはその斬撃全てを避け、弾き、捌ききった。
「ば、馬鹿な……っ!?」
僕が振り切った剣を戻しながら驚きの声を上げた瞬間、今度はサイノスが僕の側まで一瞬で接近してきた。
速い!
僕がそう思ったと同時に、両手で持っていた剣の刀身が斜めに傾く。
しっかり構えて攻撃に備えないといけないのに、何故剣が傾くのか。
そう思った僕はふっと視線を落とし、その理由を知った。
剣の柄尻を持っていた左手の手首から先がなくなっていたのだ。
「ひ、ひぃああっ!?」
切れている!
僕の手が!
そんな馬鹿な! 僕は神に選ばれてこの世界に来た筈なのに、こんな酷い目に合うなんて……何かの間違いだ!
「あ、ああ……! ち、血が、血が止まらない……! アイテムボックス、エリクサー!」
僕は慌てて切れた左手を手首の切断面に揃えるようにしてくっ付けた。アイテムボックスから出したエリクサーをかけて、素早く治療する。
何とか手が元どおりになっていく光景を目にして、ようやく落ち着いてきた。
そこへ、まるで嫌いな虫を見た時のような冷たい声が聞こえてきた。
「……強者かと思い期待したが、ただの腰抜けであったか」
そんなサイノスの台詞に、僕はカッと頭に血を上らせる。
「ふ、ふざけんなよ!? ぼ、僕の手を切ったんだぞ!? 死ぬだけで済むと思うなよ? 指から順番に切り落として僕の痛みを分からせてやる!」
僕が怒りに任せてそう叫ぶと、サイノスは面白く無さそうな顔をして、辺りを見回した。
「こっちは気にしなくて良いよ。さっさとやっちゃいな」
そんな女の声がした。
すると、サイノスは浅く頷いて僕に目を向ける。
「どうやら囮のお主が死ぬと思ったのか、一気にお主のお仲間が攻めてきたようだ。悪いが、手早く済ませるぞ」
サイノスは、何処か申し訳無さそうにそう告げて、僕に刀を向けた。




