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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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帝国での戦い・前哨戦

風を切る音を聴きながら青い空を舞う。


つい先ほどまで、視界が狭まって感じる程の焦りがあったが、今は何処までも穏やかな心地である。


長年連れ添った戦友と共に戦う。この事実が俺を安心させるのだろう。


俺はそんなことを思いながら、下方を飛ぶ仲間達を見下ろした。


リアーナ達にはラグレイトの背に乗ってもらい、俺を含むギルドメンバーには飛翔魔術で飛行してもらっている。


セディアやローザ、サイノスが周囲を警戒し、イオやサニーがいつでも魔術を発動出来るように杖を構えて飛んでいた。


真ん中ではローレルがぼんやりした顔をしつつ、皆の様子を確かめるように順に眺めている。


ソアラは挙動不審気味に見えるほど緊張しているカナンに話し掛け、リラックスさせようとしている。


リアーナ達に不足があるわけでは無いが、やはり、ギルドメンバーの顔が近くにあると落ち着くのは仕方がないことだろう。


と、そんなことを考えていると、ローザが顔を横に向けて俺を振り返った。


「お、ボス! あそこに帝国軍らしき軍団を発見したよ!」


ローザから報告が入り、俺は思考を切り換えて地上に目を向ける。既に帝国領土内に入って暫く経ったが、ようやくお目見えらしい。


見れば、地上にはまさに隊列を整えている最中のような、歪な四角形が見えた。街道に接する、比較的障害物の少ない草原で兵達が身を寄せ合っている。


だが、人数は少なく、明らかに戦争の準備は出来ていない。


「全然間に合ってないじゃない。やっぱり大将の迅速な行動のお陰だね」


セディアがそう口にすると、サニーが俺を見上げて口を開いた。


「やる? マスター」


サニーは杖を持つ手をソワソワと動かしながらそう尋ねる。そして、サニーの台詞に皆が適度な緊張感を持って眼下に意識を向けた。


しかし、俺は軽く首を振って地上を指差す。


「報告にあった、聖人軍を含む第一陣の後に続いている筈のレンブラント王国への侵攻軍は確認出来なかった。既に占領している街に向けて進軍するなら最短距離を進む筈なのに、だ。迂回した場所にある制圧した砦や他の町に移動する利点は無いように思う……かと言って、あれが急いで行軍してきた軍には到底思えない」


俺がそう言うと、ソアラが眉根を寄せて顔を上げた。


「つまり、罠、ということですか」


「そういやぁ、行軍中に飯休憩って感じの道具も出ちゃいませんね。なるほど、こちらが攻めたくなるようにわざと陣形を整えているわけですかい」


ソアラに続き、ローレルも俺の言葉の先を読む。


既に、俺の頭はイベントボス戦からギルド対抗戦に思考がシフトしているのだ。


ならば、拠点を守る手法など全て熟知している。


俺は地上に集まっている兵士達の方に指を向けて、解説をした。


「よく見ると、動いている兵は十人程度だろう? あの兵士達は即席の土人形だ。もしかしたら安物の鎧くらいは付けているかもしれないが、唯の囮に違いは無い」


「え!? あれが人形!?」


俺の台詞に、思わずといった様子でアタラッテがそう叫んだ。


その大声に皆の責めるような視線が集まり、アタラッテは慌てて口を閉じる。それを横目に見ながら、俺は苦笑しつつ話を続けた。


「ああ、人形だ。そして、あの人形に向けて攻め込むと罠が発動する。最も多いのは攻撃を跳ね返すタイプか、もしくは足止めだ。攻撃を跳ね返すタイプは一度発動すると十秒という短い時間だが、最大級の魔術すら跳ね返す」


俺がそう告げると、ギルド対抗戦を経験している者はそうでも無いが、リアーナ達の表情は目に見えて強張った。


「あのタイプの罠は様々なバリエーションがある。人形を迂回しようとすると発動する罠を仕掛ける場合もあるし、素通りしたと思ったら、人形の中に本物が紛れており、拠点にいる勢力と合わせて挟み撃ちにする場合もある」


俺はそう言ってから、空中で静止した。


俺が止まったのを見て、皆も速度を落としてこちらを振り返る。


「と、いうことで、どの罠にも対処出来る攻略法を披露するとしよう」


俺はそう言って、地上に向けて手を伸ばした。


雲ほどでは無いが、それなりの高さを飛んでいるということもあり、罠らしき帝国軍の陣までは二キロ以上離れている。


丁度良い距離だ。


「イオ、サニー。反射した場合は相殺しろ。やり過ぎると二度手間になるからな。きっちり相殺だ」


俺がそう指示を出すと、二人は返事を返した。


そして、俺は魔術を放つ。


「『ボレアス・トルメンタ』」


俺がそう呟いた瞬間、魔術は発動した。


風の収束により周囲の雲の形が変わり、空は暗く色を変える。


雷鳴が鳴り響き、周囲には雪が舞うように白い結晶が空中に漂いだした。


その結晶が大きく成長し妙に白い、氷の塊となると、それを合図にしたかのような風が吹き荒れた。


破壊力を持った暴風、降り注ぐ氷の塊、太い光の帯にも見える落雷の雨。


その範囲は広く、目標を中心とした半径数キロに渡って影響を与えた。


その、極大の自然災害と見紛うような大魔術に、リアーナ達は目を丸くして絶句する。


「この魔術は威力も範囲も最大級だが、発動まで十秒近く掛かるのが難点だな」


俺がそう呟くと、信じられないものを見るような目でメルディアがこちらを振り返ったが、とりあえず放置した。


と、氷と雷の大嵐によって蹂躙される景色を眺めていると、まるで丸いガラスが光を反射するように地上の一部が煌めいた。


「イオ、サニー」


それを確認して俺が名を呼ぶと、呼ばれた二人は軽く頷いて杖を構える。


「『ゲイル・エウロス』」


「『デフュール・フレイム』」


二人は即座に魔術を発動し、こちらに返ってくる氷の嵐に放射状に広がる炎と風を放った。


俺がやれば相殺でなくやり過ぎてしまいそうだが、二人は見事に魔術の威力と範囲を調節し、氷の嵐を消し飛ばす。


魔術と魔術の相殺により名残のように白い霧が立ち込めたが、自然の風に流されて、数秒ほどで視界が晴れていった。


「……な、なんと」


誰かがそんな言葉を呟く。


まあ、仕方がないだろう。


なにせ、街道は周囲の草原や森と共に吹き飛ばされ、一部の地面が捲れてしまっているほどなのだから。


映画に出るハリケーンが通り過ぎた後のような惨状を眺め、俺はセディアとローザに指示を出す。


「罠が通じなかったことで相手は警戒している筈だ。奇襲し辛い空から気配を探れ」


「はい!」


二人は返事をすると、周囲の様子を探る。


リトライを前提にしたゲームでは無く、実際に命を落とす可能性のある現実である。


恐らく、真っ向からぶつかり合うような危険は冒さず、俺達が通り過ぎた後を後ろから奇襲する筈だ。


ならば、周囲の物陰で息を潜めて身を隠している可能性が高い。


俺がそんなことを思いながら油断なく地上を見下ろしていると、不意に、先程まで土人形の罠があった地点で動きがあった。


「あ」


セディアの間の抜けた声がする中、地面が盛り上がり、蓋のように四角い板状のものが持ち上がる。


そして、地中から金色の髪を揺らす白い鎧の男が姿を見せた。


それを見て、頑張って隠れている者を探し出そうとしていたセディア達が不満げな顔でその男を見下ろす。


「虫が出てきたぞ」


「ああ、虫だな。踏み潰さないとな」


二人はそんな黒いやり取りをして笑みを浮かべていた。



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