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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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ハスター討伐

《ブリュンヒルト視点》


「…助かった」


メルディアがそう口にすると、マリナが同意するように頷いた。


「正直、回避で一杯一杯でしたね。あの連続して放たれた魔術の間で手の攻撃も加わっていたら危なかったですよ」


「こっちもギリギリよ。今までの装備ならもう三回は死んでそうね…レン様から頂いた装備が尋常じゃ無いお陰で辛うじて戦えてるわね」


私がそう答えると、アタラッテがナイフを一投し、こちらへ駆けてきた。


「まずいぞ。リアーナ様達も徐々に回避が怪しくなってる」


「最初よりも動きが良くなったと思ったが、やはり厳しいか」


私はアタラッテの台詞に頷いて剣を構えなおした。


今は半々に分ける形でハスターの注意を引いていたのだが、やはり六割か七割をこちらが受け持った方が良いかもしれない。


これは個人の力量もあるが、何よりパーティーとして連携してきた経験値の違いが大きい為、仕方の無いことである。


「私が斬り込むわ! メルディアは一発デカイのをお願い!」


私がそう言って駆け出すと、アタラッテが並走するように横に並んできた。


「真っ直ぐに行くなよ!? 倍以上速くなったアタシでも至近距離じゃ回避出来ないんだから!」


「分かったわよ! それより、毒ナイフは本当に効いてるの!?」


「知らないよ! もう五回は打ち込んだのに!」


私とアタラッテがそんなやり取りをしながら、ハスターの背中目掛けて接近していくと、ハスターはこちらを振り向きながら触手の生えた腕を振ってきた。


無数の触手は鞭のように上下に広がりながら伸びてくる。


視界を覆うほどの大量の触手が高速で迫り、私は何とか盾と剣を構えて防御の態勢を作った。


まるで、トロールの棍棒を受けた時のような、どうしようもない衝撃が嵐のように盾と剣を打ち据える。


「ぐっ!? あっ、ああっ!」


十か二十かも分からない。


瞬きをするような一瞬で全身の骨が折れるような衝撃を受け、吹き飛ばされた私は地面を勢いよく転がっていた。


地面のゴツゴツした石が露出した肌の部分に刺さり、長く伸びた草が私の頬をチクチクと刺す。


そんな小さな痛みに意識を向けないと耐えられないような、腕が無くなったような激しい痛みだ。


攻撃を受けたのは初めてだったが、あのダンという男性はこの攻撃を二度、三度と受けていた筈だ。


いったいどうやって耐えていたのか。


重装備では無いが、それでも信じられない衝撃だった。


「だ、大丈夫かい!?」


アタラッテが私の隣に走り寄り、そう聞いてきた。


私は上半身を起こしながら辺りを確認し、ハスターがメルディア達に向けて魔術を放つ光景を目にする。


「…大丈夫。一撃で思い切り吹き飛ばされちゃったわね。次は、こちらが必ず一撃いれるわ」


私がそう言うと、アタラッテが心配そうに眉根を寄せた。


「アタシでも回避はギリギリだったからね。やっぱり、近付かずに攻撃した方が良い」


「大丈夫。今度は上手くやるわ」


私がアタラッテにそう返事をすると、アタラッテは不満そうに口を尖らせ、引き下がった。


心配ではあるが、私が言いたい事も分かってしまい何も言えなくなったのだろう。


今、メルディアとアタラッテ、リアーナ様とシェリーの四人が順番にハスターに攻撃を加えている。


攻撃をして回避、攻撃をして回避という流れが出来つつあり、かなり良い形で戦えていると思ったのだが、ハスターの連続攻撃が始まると、回避に必死になりまともに戦えなくなってしまう。


だから、ハスターが動いたらすぐに次の者が攻撃をして注意を引かなくてはならないのだが、四人でそれをやっていても徐々にハスターの攻撃回数の方が上回ってきたのだ。


「あまり得意では無いけど、走りながら斬るくらいの気持ちで…」


私がそう言って立ち上がっていると、アタラッテが投げナイフを投げている最中、ダンがハスターの背中目掛けて走った。


ハスターは長く伸ばした触手をアタラッテ目掛けて振り回しながら、もう片方の手を自分に向かってくるダンの方へ向ける。


危ない!


そう思った次の瞬間、ダン目掛けて放たれた黒い波動のような魔術の光を、ダンは地面を斜めに転がるようにして避け、ハスターのすぐ間近まで接近することに成功した。


吹き飛ばされて離れた場所にいる私の耳にまで、ダンの裂帛の気合いが伝わってくる。


「ぬん!」


ダンが唸るような声を発すると共に、手に持つミスリルのロングソードをハスターの右腕目掛けて振った。


白い光の線が空中に残ったように錯覚するほど、ダンの剣の振りは速い。


そして、ハスターの右腕はあっさりと肘の辺りから切断されて宙を舞った。


「…凄い」


私はその一連の動きを見て、素直にそんな感想を口にする。


ハスターの一撃に立ったまま耐えた場面を見て、私はてっきりオグマと同じ重戦士であると思い込んでいた。


しかし、今見せたダンの動きは私よりも速いくらいの速度である。


レン様から頂いた装備なのだから、装備の違いではない筈だ。


ならば、いったい何が違うのか。


「…負けられない」


仮にもSランク冒険者である私が、簡単に負けるわけにはいかない。


私は失った右腕から触手を生やしていくハスターの背中を睨み、足を踏み出した。


ダンはまたもハスターの触手の一撃を耐えて見せ、一足飛びに後方へと下がっていく。


ハスターが引き下がるダンを追撃しようとする所を、メルディアの風の魔術が炸裂する。


大木を切り倒すメルディアの風の魔術にハスターも身体を傾け、顔をメルディアの方へ向けた。


今だ。


私は絶好の機会を目に、一気にハスター目掛けて走り出した。


今度は、しっかりと大回りに回り込むように斜めに走り、ハスターの背面を狙う。


ハスターが無言で振り返り、左腕の触手を私目掛けて振った。


「ふっ!」


私は地面に滑り込むようにしてハスターの触手の束を掻い潜り、再度ハスター目掛けて走る。


攻撃の直後ならば、邪神であっても隙が生じる筈だ。


私は走りながら剣を水平に構え、魔力を込めた。


「喰らえ!」


私はハスターの腹部を狙い、ただ渾身の力を込めて剣を振る。


瞬間、私の持つ剣が青白い光を放ち、空気が震えるような音が鳴り響いた。


剣はハスターの腹部を捉え、私の手に確かな手応えを残す。


「斬った!」


私がそう言った直後、空気の震えるような音は二重三重に重なり合うように増していき、首筋にピリピリとした痛みを感じさせる。


嫌な予感がした私はすぐに地面を蹴り、横っ跳びにハスターから距離をとった。


次の瞬間、目の前に雷が落ちたような物凄い音を立て、ハスターの姿が光に包まれる。


いや、雷のような、ではない。あれは完全に雷であろう。


明滅する青白い光と地鳴りのような低い音を発し、ハスターは雷に呑み込まれたのだ。


その眩い光に呆然としていると、すぐに雷は消滅し、中から上半身を失ったハスターが現れた。


「…か、勝った」


私が思わずそう口にしたと同時に、ハスターの下半身が痙攣するように動く。


そして、腰の断面辺りから無数の、百はくだらない触手が生えてきた。


触手の一本一本が複雑に動き回り、まるで先端に目があるかのように私の方へ触手の先が向く。


走れ。


逃げろ。


私の本能がそんな悲鳴を上げた。


身体が自然と動き出す。


しかし、それよりも速く、私に向いた十を超える触手の先から黒い光の奔流が迸った。


「ひっ」


思わず息を呑んだ私の目の前で、視界の全てを覆った黒い光に立ちふさがるように、黒い革の鎧を纏った人影が現れた。


「レン様!?」


私が叫ぶ中、レン様は片手を黒い光に向けて伸ばし、結界を張った。


薄い膜のような結界が瞬く間に視界いっぱいに広がる。


一瞬で結界を張ることには驚きを禁じ得ないが、即席で張った結界であのハスターの多段魔術を防ぐことが出来るのか。


しかし、逃げる間もなく黒い光は結界と衝突し、激しい明滅と耳が痛くなるような破壊音を発生させた。


数秒もの間轟音が鳴り響き、最後には何かが破裂したような音を発して辺りを白く染めた。


結果、私の不安を嘲笑うかのように、レン様の結界はハスターの魔術を防ぎきっていた。


レン様は苦笑しながら私に横顔を見せる。


「危なかった。結界が二つまで突破されたな」


レン様は唖然とする私にそう言うと、ハスターに向かって走り出した。


まさか、今の一瞬で三つ以上の結界を張ったのか?


「…は、はは。住む世界が違う…」


私はレン様の後ろ姿を見ながらそう呟く。


上半身を失い、体の半分以上が無数の触手となったハスターは、複雑怪奇な動きで触手を振るい、幾多の魔術を行使し始めていた。


二つ、三つの魔術が同時に放たれ、上下左右問わず触手が高速で振られる。


誰があんなものと戦えるというのか。


レン様はその猛攻を、剣一本で受け流し、避け、更には反撃まで加えている。


私を含め、全ての者がレン様とハスターの一騎打ちに目を奪われていた。



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