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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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レンレン対ハスター

相手の左側に回り込むように走り出した俺に、ハスターは片手を地面と水平の高さに上げた。


手が俺の走る方向に合わせて動き、ハスターの顔も俺を視界に入れるように向きを変える。


だが、遅い。


「…『ディ・メント』」


低く嗄れた声で、かろうじて人の言葉として認識出来るような単語をハスターが発した。


直後、俺が立っていた場所を中心に、黒い光が空に向けて柱のように伸び、人の悲鳴のような音を出して広がった。


黒い光の柱は直径十メートルほどまで広がり、地鳴りと共に大地の表面を溶かした。


「いきなり範囲魔術かよ」


俺はハスターの行動に違和感を持ったが、一気にハスターに接近して剣を振った。


使う剣は獄炎のロングソード。対ボス用の攻撃力重視の一本である。


暗い赤のラインが入った刀身をハスターの首に向けて振ると、炎が刀身から溢れるように出現した。


ハスターは左手の手首で剣を受け、首への一撃は防いでみせた。


しかし、獄炎のロングソードはハスターの手首を一撃で斬り飛ばし、次いで獄炎のロングソードが追加効果を発動する。


発動した追加効果により、ハスターの足元から吹き上がる炎の竜巻。


ちょうどハスター一体が入る程度の炎の竜巻だが、その威力は絶大である。


唸りを上げるように燃え盛る炎の竜巻が上から徐々に消えていくと、片手を上げたハスターが姿を見せる。


現れたハスターは既に人としての形状では無かった。


顔の半分は溶けて無くなり、そこからは無数の触手が出て蠢いている。


「…『ペネトレイト』」


目が合った…かどうかは分からないが、ハスターは俺の方を向いて魔術を行使した。


二メートル近い巨大な黒い光の奔流が俺に向けて放たれる。


「よっ」


俺はその攻撃を剣の腹の部分で受け止め、三枚ある結界の一枚を使って完全に消滅させた。


俺が防御している間にハスターがこちらに向けて動き出しているが、地面を滑るような不思議な動きだ。


見れば、足はもう無く、代わりに太い触手が足の代わりに蠢いていた。


ハスターは無言で腕を振るような動作で触手を伸ばし、俺に向けて長く伸びた触手を振り下ろす。


俺は横に飛び退くようにしてその触手を回避した。


風を切る音と地響きが同時に鳴り、俺が立っていた大地には深い地割れのような切れ目が走っていた。


それを眺め、俺は口の端を上げる。


「…やはり、一対一なら何とかなるか。耐久力が高いから集中出来ないといつか攻撃を受ける羽目になるが」


俺はそう呟き、再び自分に向けて振るわれる触手を見た。


その触手を回避しながら、素早くハスターに向けて走り出す。





《シェリーの視点》


「あれか…」


オグマ様がそう口にすると、ブリュンヒルト様がこちらを見た。


「回避と時間稼ぎが最優先とのこと…正面は我々《白銀の風》が受け持ちましょう。リアーナ様達は側面や背後に位置するように常に動き続けてください」


ブリュンヒルト様がそう言うと、私の近くにいたリアーナ様が頷いて口を開いた。


「分かりました。こちらからも隙を見て攻撃致しますので、無理はしないようにして下さいね」


リアーナ様がそう返答すると、ブリュンヒルト様は返事をしてハスターの正面へ向かうように移動を開始する。


ハスターはゆるゆるとではあるが、レン様が戦う地へと向かおうとしている様に見える。


ブリュンヒルト様達は回り込む様にして移動しているが、今のところハスターがこちらに注意を払うような様子は無かった。


「…なんか、深淵の森の魔物の方が強そう」


私が思わずそう呟くと、お父さんが首を左右に振って盾を持ち直した。


「油断は大敵だ。こちらもハスターの背後に移動するぞ」


お父さんにそう言われ、私は杖を握り締めて頷いた。


「うん、そうだね」


「大丈夫です。前衛にはサイノス様に鍛えられたダンさんとアンリさんがいらっしゃいます」


と、リアーナ様がそう言ってお父さんに微笑みかけると、お父さんは咳払いをして視線を逸らした。


照れた様子でリアーナ様に頷くお父さんを見て、私は後でお母さんに報告すると決めた。




私達がハスターの背後、およそ百メートルほどの地点にまで移動した頃、反対側では《白銀の風》の皆が配置についていた。


「さあ、始まりますよ」


リアーナ様がそう呟き、私は自然とお父さんの背中を見た。


レン様から受け取った凄い鎧を着ているからか、いつもよりずっと頼もしく見える。


いや、そんなことを思っては可哀想だろうか。


私もお父さんも、普通ならば考えられないような魔物達と戦って鍛えたのだ。


これでサイノス様達を助けることが出来なかったら、面目が立たないだろう。


私が決意も新たに杖を構えたその時、ハスターの向こう側で白い光が見えた。


「動きましたね」


キーラさんが一言そう呟き、同時に、ハスターの周囲を光が煌めく。


白い光はハスターの腕を透過し、耳が痛くなりそうな高い音を立てた。


すると、破裂するようにしてハスターの左腕が弾け飛ぶ。


「おぉ!」


「凄い! 今の魔術は…!?」


お父さんとリアーナ様が歓声を上げる中、私も驚きで言葉も出なかった。


しかし、腕を喪ったハスターの肩からウネウネと長い紐状の何かが伸びていくのを見て、皆が絶句した。


「…気持ち悪い」


アンリがそう呟き、私も頷く。


と、ハスターは残った右手を《白銀の風》の方向へ向けた。


次の瞬間、黒い光の柱がハスターの向こう側に出現した。


「な、なにアレ!?」


ハスターが手を上げたと思ったら、殆ど時間差も無く黒い光の柱が現れたのだ。


あんなもの、避けられる訳がない。


「…だから回り込むように動けと指示されたのか」


「お父さん、そんなこと言ってる暇ないよ!?」


お父さんの独り言に、動揺した私は思わずそんなことを叫んでいた。


「いえ、流石は《白銀の風》というべきでしょう。皆様、回避されています」


私が慌てて動こうとしていると、キーラさんがそう言ってハスターの左側を指差した。


見ると、ハスターの左手を狙うように動く《白銀の風》の皆の姿があった。


流れるようにブリュンヒルト様がハスターの目を引き付け、オグマ様が後衛の二人を守るように移動している。


そして、アタラッテ様は投げナイフのような小さな刃物をハスターに投げつけながら走っていた。


ハスターは断続的に攻撃魔術を繰り出しているが、《白銀の風》の皆は全て余裕を持って回避しているように見える。


しかし、キーラさんは目を細めて口を開いた。


「…このままでは、いずれ攻撃を受けてしまいますね」


キーラさんがそう言うと、お父さんが無言で頷いた。


私はその言葉に慌てて声をあげる。


「じゃ、じゃあ早く何とかしないと…!」


私がそう言うと、リアーナ様が頷いてこちらを見た。


「そうですね。こちらからも攻撃をしましょう。完全に背後を取った時、出来るだけ速度のある魔術を行使します」


リアーナ様はそう言って、ハスターに目を向けた。


私はリアーナ様の言葉を受けて、ハスターの動きを必死に目で追う。


魔術を放つ速度は驚くほど速いが、身体の動きはそうでもない。


程なくして、私はハスターの背を目で捉えることが出来た。


「…いきます! 『ウォーターショット』!」


私がそう口にした瞬間、胸の前に構えていた杖の先から五個の水の球が射出された。


高速でハスター目掛け撃たれた水の球は、吸い込まれるように全弾ハスターの背を叩く。


威力は少ないが、私が教えてもらった魔術の中で最速の魔術である。


これで此方に意識を向けることが出来たら…。


私がそう思った直後、ハスターは身体の向きを僅かに変えて、腕の代わりに肩から生えた触手を振った。


まるで鞭のように振られた触手は、私の眼では反応することも出来ない速度で地面と水平に私に向かってくる。


「っ!」


私は目を瞑って息を呑むことしか出来ず、来たる衝撃に備えて体を硬くした。


次の瞬間、硬いものがぶつかり合うような激しい音が響き、私は身を竦める。


「『風よ! 集いて全てを吹き飛ばす力となれ! トルメンタ!』」


私が恐怖に固まる中、耳朶を打ったのは私の身体を砕く絶望の音では無く、リアーナ様の強く美しい声による魔術の詠唱だった。


他の音が聞こえなくなるほどの暴風にようやく目を開けると、私達の前で盾を構えてハスターを睨むお父さんの姿があった。


「お父さん!」


私が半ば悲鳴のような声でお父さんを呼ぶと、お父さんはこちらに横顔だけを見せて頷いた。


「良い一撃だった」


お父さんはそれだけ言うと、今度はリアーナ様に向けて振るわれた触手を盾で受ける。


身体を震わせるような轟音と、衝撃に大きく後退するお父さんの背中。


「だ、大丈夫なの!?」


私がそう声をあげると、お父さんは浅く頷いて口を開いた。


「ああ…裸で思い切り何人かの男に殴られた程度だ。問題無い」


「大問題だよ!」


お父さんの強がりに、私は思わず怒鳴ってしまう。


すると、キーラさんが頷いて私とリアーナ様の前に立った。


「レン様に言われた通り、魔術を放つ瞬間のみ足を止めて、それ以外の時は出来るだけ動き続けましょう。回避が難しい攻撃のみを防御して頂きます」


「は、はい!」


キーラさんのセリフを聞き、私はハスターの背面を目指して走り出した。


そうだ。私が動けなかったからお父さんが攻撃を防いでくれたのだ。


さあ、怖くても目を開けろ、私!


私には頼れるお父さんがいるんだから!



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