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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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ハスター君は何処だね

約六十近い傭兵団が、円を広げるように街の周囲を歩いていく。


理由を知らない行商人や冒険者達は、街道を歩きながら周囲を不思議そうに眺めていた。


「オークだ! オークが出たぞ!」


「やれやれぇっ!」


「今だぁ!」


「お、助かったぜ、《黒き獣》の!」


街道から外れた場所を捜索している傭兵団の方では断続的にモンスターも現れるが、その周囲にも複数の傭兵団がいる為、殆どの場合モンスターが瞬殺されて終わっている。


「そっちにゴブリンの群れだ!」


「うひょー! もらいっ!」


「矢を射るぞ! 避けろ!」


「ぎゃあ!」


流石に戦争で稼いできた傭兵団である。危なげなくモンスターを狩りながら、着実に捜索を続けていた。


まあ、たまにはミスもあるようだが。


「おい! あれそうじゃないか!?」


「違う! 紛らわしい格好した商人だ!」


「あっちにオーク亜種が群れでいるらしいぞ!」


「マジかよ、どこか狩れないか!? 手伝うぞ!」


すぐ近くの傭兵団の連中からそんなやり取りが聞こえてきた。


「俺がいこう」


俄かに騒がしくなる気配に、俺はそう口にして現場へ向かう。


近場で一番喧騒が響いている地点へ辿り着くと、そこにはいくつも傭兵団が集まっており、二十近くいるオーク亜種の群れと戦いを繰り広げていた。


「退け! 魔術を放つぞ!」


俺がそう叫ぶと、手前の傭兵団から順番に左右へ分かれていく。


「フレイムベイン」


俺が炎系魔術を詠唱すると、炎の帯が空を滑るようにオーク達のもとへ走った。


そして、帯に触れたオーク達が一瞬で焼け死んでいく。


その光景を見て呆気にとられる者、恐怖に悲鳴をあげる者、歓声をあげる者など、傭兵団の者達から様々な反応が返ってきた。


「あ、ありがとうございます!」


「ああ」


俺は二十歳ほどに見える青年からされたお礼に返事を返し、また移動を始めた。


俺達は三つのパーティーに別れ、傭兵団の後を追う形で捜索に加わっている。


俺とリアーナ、キーラのパーティー。


ダンとシェリー、アンリにマリナを加えたパーティー。


そして、マリナを抜いた白銀の風パーティー。


この三つのパーティーで、傭兵団を守りつつ移動していた。


思ったよりも傭兵団の動きも良く、まだ一体も見つかってはいないが、確実に探索は進んでいる筈だ。


気が付けば日が暮れてきて、傭兵団は夜営の準備を開始する。


俺達も一度集まり、街から少し離れた場所にて夜営をすることにした。


今や東部は帝国の一部ということもあり、人がいない場所を選んだのだ。


メンバーがメンバーなので、二人ずつ交代で起きて警戒にあたれば問題は無いだろう。


「聖人軍の動きはどうだろうな」


俺が焚き火に棒を突っ込みながらそう口にすると、リアーナが唸り声をあげた。


「…本来の帝国軍と合流してかなりの大軍になっていますから、通常ならば行軍速度は遅くなっている筈です。ただ、聖人軍だけが先行しているなら…もうかなり深く入り込んでいるかもしれませんね」


リアーナはそう言って表情を曇らせた。


何となく、俺も炎を見つめながら沈黙する。


俺としてはギルドメンバーが動けないという事実にプレッシャーを感じていたが、リアーナ達は邪神ではなく、俺と共に戦うということに重圧を感じて緊張しているようだった。


「…まあ、大丈夫だ。なんとかする」


俺がそう言うと、リアーナは黙って頷き、微笑みを浮かべた。






陽が昇りつつも、まだ暗い青が空の大部分に残る中、俺達の夜営地点に馬に乗る男が駆けてきた。


「レン様! レン様はおられるか!?」


茶色の馬に乗ってそう叫んだのは、鉄の鎧を着た男である。


見たことのある顔では無いが、何処かの傭兵団の者だろう。


すぐ近くまで来て馬を降り、辺りを見回す男を見て、キーラが男に歩み寄った。


「レン様はこちらにおられますが、如何用でしょうか?」


キーラがそう尋ねると、男はキーラを見て、キーラ越しに俺を確認し口を開く。


「じゃ、邪神らしきものを二体発見致しました! 今は我が傭兵団も含め、離れた位置から複数の傭兵団にて監視しております!」


「…そうか。すぐに向かおう」


男の報告を受けて空気が張り詰めるのを感じながら、俺は返事を返した。


「二体…!」


「まさか同時とは…」


ブリュンヒルトとメルディアがそんな呟きを漏らす中、オグマが俺に目を向けた。


「…予定通りにパーティーを分けますかな?」


「いや、ハスターが二体なら一体は俺が倒す。だから、残りの一体が俺の方へ来ないように注意を引きつけてくれ」


「こちらは防御に徹する、でしたな」


「ああ。威力は無くて良いから、無詠唱魔術で遠距離から攻撃しながら接近されないように気をつけろ。ハスターも魔術を使うが、基本は手の平の向く先に真っ直ぐ放つ雷撃だ。相手の背中に回り込むように動いていれば魔術は回避出来る」


「あ、私のミスリルの盾は…」


「受けることは出来るが、大部分の威力を削いでも尚かなりの体力を削られる筈だ。盾で受けるのは最後の手段にしておけ」


俺は皆に邪神との戦い方を復習させ、現場へと向かった。


向かったのは東部領内の北側である。


奥にはもう山の麓が見える草原エリアだ。


腰の高さほどある深い緑の草原の中、ハスターはいた。


傷だらけの古びた鎧を着た、銀髪の男だ。


目は下方に向けられ、不確かな足取りで人から離れるように歩いている。


そして、だらしなく開かれた口から短いタコの足のようなものが幾つも出入りしていた。


「…あれが…」


誰かがそう呟く。


俺は無言で頷くと、馬に乗った男を見た。


「もう一体は?」


「ここから一、二分ほどのところです!」


男は俺の質問に簡潔にそう答えた。


「近いな。じゃあ、そいつの相手を皆に頼むとするか。此処から離れるように引きつけてくれ」


「はい!」


俺が指示を出すと皆が返事を返し、もう一体のハスターがいる場所へ移動を開始する。


「ご武運を…」


「お気をつけ下さい」


リアーナとキーラはそう言って離れて行った。


「…私も頑張ります! レン様に負けないように!」


「必ず時間を稼いで見せますので、安心してください」


「…頑張ります」


シェリー、ダン、アンリはそう言って離れて行った。


「さぁ、やってやりましょう」


「冒険者の力を見せてあげないとね」


「アタシに任せといてよ」


「怪我はしないように気をつけて下さいね」


「…行って参ります」


そして、白銀の風もそう言って、ハスターと相対する為に去って行った。


遠巻きに、幾つかの傭兵団が観客のように周りを囲んでいる。


俺はハスターを眺め、剣を構えた。


「…さて、ゲームの時とは違うのか。それともゲームと同じなのか」


俺がそう呟いて剣の刃先をハスターへ向けると、ゆっくりとハスターは俺の方を向いた。


俺が無詠唱で結界を三枚張ると、こちらを敵と認識したハスターが目を見開く。


直後、ハスターの口から一メートル近くある無数の触手が伸びて蠢き出し、見開かれた目が黄色く染まった。


「ゲームなら攻撃した相手を敵と認識する筈だが…まあ良い。やるとするか」


俺はそう口にして、一気に駆け出した。



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