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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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傭兵団集め

俺はリアーナを見て口を開いた。


「近場にいる傭兵団から当たるか。あと、シェリーとダン、アンリは一度飛翔魔術で《柔らかき銀の行軍》の団長、ソマサを連れて来てくれ」


俺がそう言うと、シェリーが申し訳無さそうに俺を見る。


「も、申し訳ありません。私はまだ一人でしか飛翔魔術が使えなくて…」


そう言うシェリーに、俺はマジックアイテムの一つを手渡した。


「これを使え。これでお前の場合は十人まで運ぶことが出来る」


俺がそう言ってシェリーに持たせた賢者の杖を指差すと、シェリーは笑顔で頷いた。


「後はこっちで傭兵団集めだな。人数は多ければ多いほどハスターを探しやすくなる。数で勝負だ」


皆を眺めながら俺がそう言うと、皆は返事を返す。


何とか攻略の糸口を見つけて満足していると、キーラがこちらを見て口を開いた。


「この近隣にて戦争の成り行きを見ている傭兵団の多くはこの街におります。私とアタラッテ様でしたら、三時間程で大半の傭兵団に話を伝えることが出来るでしょう」


「うぇっ!?」


キーラが軽い調子で提案を口にすると、アタラッテは珍妙な声を上げてキーラを見た。


先程の情報収集ではアタラッテもキーラに負けず劣らずの情報を集めてきていたが、流石に傭兵団に話を通すのは大変なのだろう。


斥候の能力と何も関係が無いしな。


「いや、皆で行っても良いぞ? アタラッテ」


俺がそう言ってアタラッテを見ると、アタラッテは眉間に皺を寄せてキーラを見つめ、次に俺を見た。


「や、やりますよ! キーラよりも沢山の傭兵団を集めてきます!」


「お、おお…そうか」


アタラッテの気合の入った宣言に、俺は戸惑いながらそう返した。


そして、二人は素早く店の外へ出て行く。


その背を見送り、俺はリアーナを見て口を開く。


「…珍しくキーラから勝負を仕掛けなかったか?」


俺がそう聞くと、リアーナは目を丸くして頷いた。


「そ、そうですね…それだけアタラッテ様の実力を認めているのでしょうか」


俺とリアーナがそんな会話をしていると、ブリュンヒルトもメルディアを見て口を開いた。


「アタラッテもあんなにムキになるなんてね」


「かなりキーラさんを意識してるわね」


どうやら、アタラッテも同じくキーラに対抗心を燃やしているようだ。


「まあ、二人が喧嘩にならなければ良いか」


俺はそう結論付けると、また飲み物を注文することにした。






三時間後。


キーラとアタラッテがゴツいおっさんの集団を連れてきて、酒場は殆どの席が埋まってしまった。


「…《砂の城》傭兵団のイザサ殿です。これで、集まって下さった傭兵団は全てになります」


キーラはそう言って、俺に頭を下げた。


見回すと、百に届きそうな厳つい男の顔が並んでいる。


そう、僅か三時間なのだ。


たったそれだけの時間で、キーラとアタラッテが集めた傭兵団は大小合わせて五十にも及んだ。


「…化け物か、二人とも」


俺は呆れ半分にそう言うと、アタラッテが悔しそうにキーラを睨んだ。


「…私は二十だけどね」


アタラッテがそう言うと、キーラは平然とした顔で頷いた。


「私も三十五ですので、然程変わりません」


「全然違うじゃねぇか」


そんな二人のやり取りを眺めて、俺は傭兵団の団長やら副団長やら護衛やらの顔を順番に見た。


まるでヤクザの会合だな。


そんな感想を抱きながら椅子から立ち上がり、俺は口を開く。


「諸君。精強なる傭兵団を取り仕切る貴殿らに、国際同盟から是非とも依頼したい仕事がある」


俺がそう言うと、静かな酒場の中で、一人の男が口を開いた。


短く黒い髪を上に上げた強面の男である。


「…貴方が、国際同盟の代表で?」


男がそう言うと他の男達も目つきを変えて俺を見る。


「そうだ。正確には代表の一人だがな」


俺がそう言うと、男は僅かに目を細めて顔を上げた。


「噂では、神の代行者が神の使徒という者に負けたと聞きましたが、それでも国際同盟という組織は機能するのですか?」


男はそう言って俺を見た。


中々に頭が良い男のようだ。余計なことに俺の懸念をはっきりと提示してくれた。


「…いや、相手は邪神と呼ばれる存在に対してだ。神の使徒を名乗る相手にはまだ会っていない」


俺がそう答えて男を真っ直ぐに見ると、男は首を傾げる。


俺の口にした邪神という言葉に、他の男達は騒然となったが、俺がもう一度口を開くと静かになった。


「…後、負けたわけじゃない。一時的に撤退しただけだ」


俺がそう言って口を笑みの形にしてみせると、男は静かに口の端を上げた。


「なるほど。噂では国際同盟には二つの大国と、ガラン皇国を潰したエインヘリアル、そしてエルフの国までも参加していると聞きます。インメンスタット帝国の一国を相手に全ての国が動くなら、我々の力は必要無いのでは?」


男が俺にそう尋ねると、周囲の男達もざわめき、顔を見合わせた。


まあ、普通ならばそう思うだろう。


「いや、問題は邪神の動向だ。残念ながら、邪神の行動如何によっては、俺やエルフの国の魔術士達は動き辛くなる。なので、国際同盟と帝国という構図が明確になる前に、邪神を倒してしまいたい」


俺がそう答えると、男は短く唸り、頷いた。


「…その邪神という存在には、勝てるのですか?」


「勝てる。事実、以前には一度勝利している」


男の質問に俺がそう答えると、感嘆の声が小さく響いた。


その声の中、男は椅子の背もたれに体を預けて顎を引いた。


「分かりました。依頼を受けましょう…あまりに危険そうなら辞退しますがね」


男がそう口にすると、他にも協力を申し出る者が現れだした。


そんな中、深緑色の髪の男が口を開いた。


「すみませんが、一ついいですか?」


「なんだ?」


俺が男の質問を許可すると、男は何処かのんびりした雰囲気で俺を見て、質問を口にした。


「仕事を受けたとして、我々は何をするのでしょう?」


「邪神探しだ」


「それ、危険じゃありません?」


男の質問に俺が答えると、男は軽い調子でそう聞き返す。


すると、辺りの男達の内の何人かが顔色を変えた。


俺は首を左右に振り、男を見る。


「探すだけなら危険はない。攻撃を加えようとしなければ大丈夫だ」


俺がそう答えると、男は考えるように黙り込み、暫くして顔を上げた。


「… 《鋼鉄の蜥蜴》傭兵団、依頼を受けます」


男はそう言って笑った。


断られるかと思っていた俺は、男の返答に思わず眉根を寄せる。


「俺の情報を鵜呑みにして良いのか?」


俺がそう尋ねると、男は軽い笑い声を上げて頷く。


「嘘を言っていないような気がしました。私は自分の勘を信じて動くもので。まあ、それでよく団員に怒られますがね」


男がそう言って笑うと、また何人もの傭兵団が依頼を受けると口にした。


残りは半数ほどだろうか。


悩んでいるような雰囲気の者が殆どである。


最後の一押しが必要か。


俺がそう思ったその時、酒場に新たに何者かが来店した。


ダンとシェリー、アンリである。


そして、その後ろには《柔らかき銀の行軍》の団長、ソマサの姿があった。


ソマサはダン達の前に立つと、俺を見て口を開く。


「《柔らかき銀の行軍》傭兵団も依頼を受けますぞ!」


ソマサがそう言うと、酒場の中がざわついた。


俺は大きく頷いて答える。


「頼む。《柔らかき銀の行軍》が参加してくれるなら心強い限りだ」


俺がそう返答すると、ソマサは男らしい笑みを浮かべて返事をした。


そのやり取りの後、残った傭兵団の面々は急に依頼を受けたいと騒ぎ出す。


どうやら、帝国から送られた書状のことで傭兵団はこの戦争に参加し辛くなっていたらしい。


帝国には味方したくないが、帝国と敵対すると潰される恐れがある。


帝国の書状一つにこれだけ多くの傭兵団が行動を制限されるというのは、腐っても大国の一つということか。


だが、歴史ある実力派傭兵団の《柔らかき銀の行軍》を含む過半数が国際同盟側になったお陰で、他の傭兵団も依頼を受けてくれた。


これで、後はハスターを見つけるだけである。



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