緊急国際同盟会議に向けて
クレイビスに軽く挨拶をし、俺はスキンヘッドの男に目を向けた。
「初めて見る顔だな。俺はレンだ」
俺がそう言うと、ぼうっとしていたスキンヘッドの男は慌ててこちらに身体を向けて頭を下げた。
「こ、これはどうも…私はソマサと申します。一応、傭兵団の長をやっております」
「ふむ、傭兵団か…なかなか強そうだな」
俺がそう言うと、ソマサは顔を綻ばせる。
「いや、はは…ただ戦働きが長いだけです。此の度は是非とも轡を並べて戦いましょう」
ソマサはそう言って深く頭を下げた。
一国の王相手に轡を並べるも何も無いが、ソマサはこうやって権力を持つ相手の懐に入って来たのだろう。
何しろ、案外嫌な気分では無いからだ。
まあ、実際に並べるわけではないが。
俺は鷹揚に頷くと、ソマサから視線を外してクレイビスを見た。
「とりあえず、国際同盟会議をする前に多少の情報を集めておいたぞ」
「え!? もうですか!?」
俺の発言にクレイビスは驚愕して目を剥いた。
「開戦したんだから情報は集めないとな」
俺がそう言って笑うと、クレイビスは呆れた顔で俺を眺めた。
「エインヘリアルは西の端、インメンスタット帝国は東の端なのですが…」
クレイビスにそう言われて気が付いた。
そう言えば電話もラジオもネットも無いから、飛翔魔術が使えなかったら各国の情報を集めるのに数週間は掛かるのか。
俺がそう納得していると、クレイビスが少し焦れたようにそわそわしながら俺を見ていた。
「ああ、悪い悪い。それで集めた情報だが、レンブラント王国とインメンスタット帝国との国境でのやりとりだ。まずは帝国の言い分は王国側が停戦を申し出てきたから兵を引かせたら奇襲を受けたというもの。逆に王国側の言い分は停戦の為に国境まで引いた兵を帝国兵らしき者達が襲撃したというもの…まあ、似たようなことを言い合っているな」
俺がそう言うと、クレイビスもソマサも微妙な顔で頷いた。
どうやら、情報の量に不満らしい。
それを察した俺は笑みを浮かべて二人の顔を見る。
「後、どちらの国を襲ったのも二千に満たない黒い鎧の歩兵達だったようだ。歩きの割に襲撃までの間隔が短いから幾つか黒い鎧の部隊があるのかもしれないな。問題は、今の所王国も帝国も黒い鎧の歩兵を一人も倒せていないことか」
俺がそう言うと、二人は目を丸くしてこちらを見た。
「く、黒い鎧の兵団?」
「ちょ、ちょっと待ってください! それならば、王国と帝国を争わせようとする第三勢力の存在があるということでは…!」
クレイビスは驚愕と共にそう言ってきたが、俺は片手を上げてクレイビスの台詞を止めた。
「一応、こっちもずっと調査していたからな。深入りはしてないが、黒い鎧の歩兵達はインメンスタット帝国の首都から来たようだ。問題は、その兵団の所属は恐らくメルカルト教であるということだ」
「…まさか、噂に聞く聖人軍ですか?」
俺の話を聞き、思わずといった様子でソマサがそう尋ねてきた。
俺はソマサに軽く頷くと、腕を組んで話を続ける。
「帝都から王国へ進軍しているのが正式な聖人軍だろう。そちらは鋼の鎧の一団みたいだがな。だが、こちらの黒い鎧の一団も聖人軍とやけに似た特徴を備えている」
「特徴?」
俺の推測に、クレイビスが疑問符を上げた。
「ああ。まるで歩く死体の軍団、だ」
俺がそう答えると、クレイビスは顔を痙攣らせて呻いた。
「し、死体ですか…」
クレイビスのその呟きに頷き、俺は軽く頭を振って肩を竦めた。
「どちらにせよ、ここからは曖昧な情報ばかりになるからな。まずは先に緊急国際同盟会議を開くぞ。ソマサ団長も傭兵団代表として来るか?」
「わ、私ですか!? 国際同盟の噂は聞いておりますが…私なぞが出て良い会議では…」
厳つい顔をしたスキンヘッドの癖に、ソマサは怯えたような表情を浮かべて俺を見上げた。
俺はその様子を見て笑い、ソマサの肩を手で叩く。
「情報の提供者は多い方が良いからな。付いて来い」
俺がそう言うと、クレイビスは晴れやかな顔で頷いた。
「おお! ついに会議が行われるのですね!? 私も行きますよ!」
そう言って拳を振り上げるクレイビスに、俺は呆れながら口を開いた。
「行くのは良いが…仕事は良いのか? 別に無理なら国王自ら行かなくても良いんだぞ?」
俺がそう言うと、クレイビスは鼻息も荒く両手を広げる。
「何があろうと行きますとも! ユタは、ユタはいないか!? 」
クレイビスはそう言うと嬉しそうにユタを探し始めた。
そのクレイビスの下へ、兵の一人が何かの書類を持って走ってきた。
そして、クレイビスの前で跪き、恭しく書類をクレイビスの方へ掲げる。
その書類を受けとったクレイビスは、中身を読んで行く内に顔色を青くしていった。
「どうした?」
俺がそう尋ねると、クレイビスは唇を震わせてこちらを見る。
「ゆ、ユタが失踪致しました…」
「し、失踪!?」
クレイビスの言葉にソマサが驚嘆した。
俺は眉根を寄せてクレイビスを見る。
「…犯罪に巻き込まれたとかは無いよな?」
「いえ、此処は王城の中ですから。それに、年のいったユタよりも見目麗しい王女か誰かを普通なら狙うと思いますが…」
「まあ、そりゃそうか」
そんな会話をしていると、ユタの失踪を告げに来た兵が申し訳なさそうに口を開いた。
「陛下…ユタ様が居ない以上、陛下が国を離れるわけには…」
「な、何!?」
兵の進言を受けて、クレイビスは衝撃を受けて悲鳴のような声を上げた。
それでも諦めきれない様子のクレイビスを見て、兵は深く頭を下げて更に口を開く。
「陛下! ユタ様が居られない今! レンブラント王国は陛下の双肩に掛かっております! 何卒! 何卒! 陛下は王城に留まって頂き、国の采配を振るってくだされ!」
まさに魂の陳情といった風情でそう叫ぶ兵の頭を見下ろし、クレイビスは苦虫を噛み潰したような表情で唸った。
どうも兵の背後に何者かの影が見えなくも無いが、こちらとしても別にクレイビスが来ないといけないわけではない。
格は多少下がるかもしれないが、他の王族でも良いのだ。
「クレイビス王。今回は諦めよう。代わりにリアーナを連れて行くからな」
「な、なな、なんと!? ぐ、ぐぬぬぬぉぉおっ!」
人前であるというのに、クレイビスは奇怪な叫び声を上げながら地面に両手をついて項垂れた。
大丈夫か、この国。
社畜ダンジョンマスターが気付いたら史上最悪の魔王と呼ばれていました。。。
と、交互に更新致します。




