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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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開戦の報告

停戦が決まり、竜騎士の国エインヘリアル主導の元進められる国際同盟の為の調整に、レンブラント王国の宰相であるユタは必死に走り回っていた。


戦争が無ければ内政に集中出来る為、本当なら減衰した国力の回復に努めなければならない。


しかし、今は国際同盟の発足時からの加盟国の名を得る為に奔走している状態である。


大事なことは、奴隷の扱いや街の中の浮浪者、孤児への対応である。


これらは国際同盟の規約として全ての加盟国に強制されている為、まずこれをクリアしないと加盟国になれないのだ。


国王であるクレイビスはエインヘリアルの国王と良好な関係を築くことが出来ているが、場合によっては加盟出来ない可能性も高い。


そう考えるユタは、今日も全ての街から届く報告と、自らの手足となる兵達からもたらされる情報を比べ、何かしらの問題が無いか調べ続けていた。


勿論、ユタの仕事はそれだけでは無い為、事ある毎に呼びに来る秘書官に悲しい目を向けながら席を立つことになっている。


そして、その日もユタは書類作業に追われていた。


辺境にある領地を治める領主は力を持つ者が多い為、ユタからの指示に従わないことも少なく無い。


辺境は防衛の為に一部税が免除され、有事の際には王国より多少の予算も割かれる。


そんな背景から、辺境の領主は他の貴族よりも力を蓄えている。勿論、隣国との戦争が起きることを考えると安易に否定は出来ないのだが。


ユタは今現在、最も話を聞いてくれない東の辺境の領主に頭を悩ませていた。


書類では善処していると返答されているが、ユタの手の者からの報告では全く何もしていないとある。


ユタが独自に自分の領地を調査していることには気付いている筈なのだが、それでも同じ返答しか返さないのだ。


そのやりとりを二往復し、ユタは苛立ちながら新たに書類を作成していた。


ユタがインクの付いたペンの先を紙の上に乗せる正にその時、乱暴なノックと共にユタのいる執務室の扉が開かれた。


「ユタ様!」


秘書官では無く、兵士の太い声で名を呼ばれ、ユタは悲しそうに顔を上げた。


その手に持つペンの先は書きかけの書類を突き破っている。


「…何があった?」


ユタが疲れの滲む声でそう尋ねると、兵士は緊張した面持ちで背を伸ばして声を張り上げた。


「インメンスタット帝国が攻撃を仕掛けてきました! 見たことの無い軍ですが、帝国の旗を掲げて王国東部の拠点二つを落とし、街を焼き払いました! その軍はそのまま帝国の領土へ戻っております!」


「…東部の拠点を落とした? あの難攻不落の砦を?」


「は、はい!」


ユタが兵士の報告に確認をとると、兵士は引き攣った顔で返事をした。


ユタは頭を捻り、破れてしまった書類を丸め、四角いゴミ箱らしき箱に投げ捨てる。


「停戦に同意し、間を置いての奇襲。これは良いだろう。だが、攻撃を受けたという報告を待たずして既に拠点が落ちた、と? 挙句、あの拠点を利用せずに捨て置くのも解せんな」


ユタは小さな声でそう呟くと、観察するように兵士の顔を見た。


「それで、プレヴァン侯爵はどうすると?」


ユタがそう尋ねると、兵士は言いづらそうに視線をユタから外しながら口を開いた。


「は! プレヴァン侯爵は砦を落とされた翌日には兵を率いて出立されました! 行き先はインメンスタット帝国との国境です!」


兵士はそう報告し、背筋を伸ばして固まった。


ユタは兵士の報告に目を瞬かせると、自身の耳を小指で穿り、また兵士の顔を見た。


「すまん。良く聞こえなかった。プレヴァン侯爵は、何処に向かったと言った?」


「は、は! インメンスタット帝国との国境です!」


ユタからの質問に、兵士は戸惑いながらそう返事をした。


ユタは溜め息を吐いて両手の手のひらで顔を覆う。


「…プレヴァン侯爵…あの馬鹿者は…」


掠れるような声でユタの口から漏れたその言葉に、兵士はハッとなってユタの肩を見つめた。


ユタの肩は微かに震えており、兵士は悲しそうにユタを見つめる。


兵士が何か言おうと口を開いたその時、ユタは顔を覆っていた両手の手のひらを机に叩きつけた。


「もう嫌だ! あの馬鹿のことなんぞ知ったことか! 大体、陛下自ら指揮をとって踏ん張ったから帝国の逆襲をあの程度で抑えられたのだ! それをさも自分の手柄のように言いおってぇっ! あぁっ! 腹が立つ!」


ユタはストレスの限界を迎えたように喚き散らし、報告に来た兵士はユタのその行動と言動に唖然として固まった。


その兵士を睨むように見据え、ユタは暗い表情で口元だけを笑みの形にした。


「…どうせ、街も砦も攻略されてしまったから、今度はこちらから打って出るとか言ったんだろう? 攻略された砦に意味は無いとか言ってな」


ユタがそう言うと、兵士は驚愕に目を見開いて頷いた。


「そ、その通りです! まさに、ユタ様が仰った通りです!」


「ほらな! やっぱり! あの自信だけはある馬鹿ジジイの言いそうなことだ! ああ、腹が立つ! 東部が一番財政が潤っているのは長い間勝ち続けた先王様がいたからだというのに、先王様の子であるクレイビス様が王になった途端反抗的になりおって! クレイビス様が一つの戦場で将となられれば先王様にも引けは取らんわ! 複数の戦場が同時に起きていると陛下の頭では間に合わないが」


ユタは兵士のことなど気にもせずに不満をぶちまけた。


その様子を見ながら、兵士は頬を引きつらせて微妙な愛想笑いを浮かべている。


「陛下に進言してくるぞ! お前も付いて来い!」


「え!? これからですか!?」


ユタが席を立って国王の元へ行くと告げると、兵士は驚いて窓の外を見た。


外では暗い中、月が明るく輝いていた。


だが、ユタは気にせずに歩き出す。


「緊急事態だ! 私だけ働かされてなるものか!」


「な、何を進言なさるのですか?」


「国際同盟に助力を求めてもらう」


「え!? 国際同盟はまだ出来てないのでは…」


「殆ど出来ておる。緊急事態だ。私だけ働かされてなるものか。それにエインヘリアルとは国際同盟以前に同盟国だ。私にだけミスリルをくれないエインヘリアルの王にも働いて貰わねば…本当になんで私だけ…」


ユタはそう口にして、執務室から出て行ったのだった。



そろそろ主人公が登場します!

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