城下町に沢山いたぞ、ダークエルフ
城下町に到着した俺達がヴァル・ヴァルハラ城に向かうと、そこには既にダークエルフ達が百や二百ではきかない程の大人数で居座っており、城の周囲を歩き回っていた。
忙しなく動き回りながら、短剣で芝を刈り、白い布で壁や窓を磨き、城門から城下町にかかる橋の上を箒で掃いたりもしている。
そして、一人が俺に気がついて声を上げた。
「あ、れ、レン様!?」
「えっ!?」
「代行者様が…っ!?」
一気に騒然となるヴァル・ヴァルハラ城周辺。そして、俺の周囲に集まるダークエルフ達。
ダークエルフなだけあって、皆が美人揃いだが、並んでいるのを見るとハッキリとそれぞれの個性が分かる。
目が吊り目の者から垂れ目な者。肌がかなり暗い色合いの者から、肌色に近い明るさの者。耳が長い者から短い者。
そして、見た目が幼い者から艶やかな大人の雰囲気の者まで、様々である。
だが、不思議と女しかいない。
ダークエルフもエルフも男女が同じくらいの比率でいたような気がするが。
俺はそんなことを思いながら、集まってきたダークエルフ達を眺めて口を開いた。
「おはよう。よく集まってくれたな、歓迎するぞ」
俺がそう言うと、ダークエルフ達は一斉にその場で跪き、頭を下げた。
ダークエルフ達は、ダークエルフの里で見たような茶色のローブ姿では無く、カナンが着ていたような黒い革の服を着込んでいた。
中々格好は良いと思うのだが、皆が一様にそんな姿で並ばれると、山の中に集まるバイク集団のような様相になってしまう。
俺がそんなことを考えていると、城の方からカナンが走ってくるのが見えた。
風のように走ってきたカナンは、俺の前まで来て素早く跪いた。
「お帰りなさいませ、レン様! お待ちしておりました!」
カナンはそう言うと顔を上げて俺を見た。
「我々ダークエルフを従者に加えていただき、誠にありがとうございます! つきましては、どんな汚れ仕事でも致しますので何なりとお申し付けください!」
カナンがそう言うと、ダークエルフの者達も俺を見上げて深く頷いた。
いや、そんなに気合を入れなくても大丈夫なんだけど。
「その忠誠を嬉しく思うぞ…取りあえず、今度お前達の住む家を準備するから、暫くはこの城に住んでいろ。俺の部下のメイドに聞いて、城の管理と街の警護も頼む」
俺がそう言うと、皆は頭を下げたまま大きな声で返事をした。
玉座の間に行くと、カルタスとローザが俺を出迎え、大量に玉座の間に入ってきたダークエルフ達に目を僅かに開いた。
「おお。その者達が新たに殿の配下に加わった者達ですかな」
カルタスがそう口にすると、皆がカルタスとローザに頭を下げ、カナンが代表して口を開いた。
「はっ! これから、我々は絶対の忠誠を持ってレン様にお仕えさせていただきます!」
カナンがそう挨拶をすると、カルタスが快活に笑いながら頷いた。
「そうか! はっはっはっは! ならば我らは同志よ! ワシはカルタス。こっちがローザだ。二人でこの城を預かっている」
「よろしくね。私は斥候組だから城にいない時もあるけど」
カルタスは挨拶をしながらローザも紹介し、紹介されたローザはカナンに気さくにそれだけ言って笑った。
フランクな対応をした二人だったが、何故かカナン達は緊張感を滲ませて顎を引いていた。
「ご、ご城主を任されるほどの方でしたか。いや、こちらこそ宜しくお願い致します。私はダークエルフ族の長、カナンと申します」
カナンがそう言って二人に頭を下げると、他のダークエルフ達も同時に頭を下げた。
顔合わせは問題無さそうだ。
俺は皆の様子に安心すると、玉座に座って肘置きに肘を置いた。
「さて、カナン達には先に伝えておくが、ダークエルフの皆はもう中々の実力があると思っている。その為、飛翔魔術が得意な者は空輸産業が始まったら空輸の手伝いをして欲しい。そして、斥候と戦闘が得意な者は諸外国にて情報収集を頼む。やり方は短い期間の交代制でも良いし、長い期間掛けても構わない。頼めるか?」
俺がそう言うと、カナン達は階段下で絨毯の上に跪き、頷いた。
「はっ! お任せください! 皆で話し合い、計画を練ります!」
「よし」
カナンの返事を聞き、俺はアイテムボックスからとある装備を取り出した。
新しいキャラクターを作った際に装備させるレベル上げ用の各種アクセサリーと防具だ。
魔力向上の指輪や身体能力向上のバングル、速度向上の靴や魔力、体力自動回復スキル付与のネックレスなど、様々なマジックアイテムを取り出した。
数は最初の方に大量生産した物から、強いボスを倒せるようになってから大量生産した物まで、およそ千点に及ぶアイテム数だ。
作った時期でアイテムの効果に差はあるが、それでも十二分に能力を高めてくれるだろう。
「これらを国の外で働く者に貸し出そう。交代する際に装備も引き継げば良い」
俺がそう言うと、ダークエルフ達は唖然とした顔で俺と、玉座の横に山盛りになっているマジックアイテムを見比べた。
「ああ。後は鎧や盾、サークレット、手甲などもあるからな。全て特殊効果が付いた良品ばかりだ。安心して使ってくれ」
俺がそう言うと、カナンが掠れた声を出した。
「あ、あの…つまり、それ全部がマジックアイテムということで…?」
「そうだ。魔力、身体能力向上から体力回復まで色々あるからな。話し合って決めろよ?」
カナンの質問に俺がそう答えると、カナンは目を丸くして固まってしまった。
独り占めはいかんぞ?
まあ、そんなことはしないだろうが。
「後は、まだ実力が低い者はエインヘリアル内に留まり、魔物を狩ったりしながら実力をつけてもらおう。狩った魔物の素材は必要だから捨てるなよ?」
俺がそう念押しすると、放心状態だったカナンはハッとしたように背筋を伸ばした。
「は、はい!」
カナンの返事を聞き、俺は頷いてから苦笑する。
「本当ならすぐにでも空輸に取り掛かりたいが、今はまだ国際同盟の方が中途半端だからな。暫くは別の仕事をしてもらおうか」
俺がそう言うと、カナンは首肯して俺を見上げた。
さて、ここでカナン達に頼みたいことは金を稼げて、近隣諸国にエインヘリアルを宣伝出来るようなことなのだが…果たして何かあるだろうか。
祭りとか催し物はまた準備や宣伝する期間も必要だから駄目だし、手っ取り早く魔術を使ったショーなんてのも駄目だ。
やっぱり、カジノがいいか?
既存の仕事はもうそれで食べている人がいるからな。仕事を奪う訳にもいかん。
俺がそんなことを考えながら悩んでいると、カナンが怪訝な顔を浮かべた。
悩んでばかりもいられないか。
「カナン。今日から暫くは、来るべき日に向けて皆には特訓を受けてもらう」
「と、特訓ですか。どのような特訓でしょうか?」
カナンは俺の苦し紛れの指示に返事を返すと、俺を見上げてそう聞き返してきた。
俺はカナンの目を真正面から見据えて、少しでも威厳があるように低い声で答える。
「お前達には冒険者になってもらう」
俺がそう言うと、皆はお互いの顔を見合わせながら首を捻った。
そんな中、代表のカナンは難しい表情で顔を上げた。
「冒険者、ですか? それはヒト族の者達がやっている仕事の一つの冒険者のことですか? 様々な国に根付くならず者と記憶していますが…」
カナンはそんな偏見混じりのコメントをして俺の返事を待った。
俺はゆっくりと首を左右に振ると、眉間に皺を寄せて口を開いた。
「冒険者もピンキリだ。良い者もいるし悪い者もいる。それに、検証の結果、一人で特訓したり誰かと模擬戦をするよりも、魔物を狩り続けた方が強くなれることがわかったからな。実力を高めつつ、冒険者という一つの身分を持て。色々と便利だぞ」
俺がそう告げると、カナンは腑に落ちた感じは見せなかったが、神妙な面持ちで頭を下げて返事をした。
「分かりました。それでは、今日より冒険者として暫くは実力を高めたいと思います」
次回
ダークエルフの群れ
襲われる魔物達




