レンレンは国際同盟お試し会議を開きたい
「国際同盟の加盟国の代表を集めて会議をしよう」
俺がそう言うと、エレノアとサイノス、サニーの居残り組は頭を傾げた。
「会議ですか? しかし、まだ加盟を申請中の国も多く、人数が集まりきれないのではありませんか?」
俺の一言に、代表してエレノアがそう聞き返してきた。
俺はエレノアに頷くと、地図を広げた。ミレーニアが先導して作った大陸の地図だ。
オーストラリアとか四国のような長方形っぽい形状の大陸の中に、大まかな国境線と国の名前が書いてある。
「現在、国際同盟に参加出来るのは我が国とレンブラント王国、メーアス、エルフの国ラ・フィアーシュ、獣人の国ヒノモト…そして、小国のタキ、ソレアム、ナルサジェル王国の8か国か」
現在、大陸には10を超える小国がある。
街が一つか二つしかないような小規模な独立国から、メーアスが出来る際に共に歩むことを拒否した隣国など、各地に点在している。
大国とは比べものにならない小ささの為に大国に侵略されなかった国、特別な技術や情報を持っている為に生かされている国、そして、立地が良く、大国に攻められても防衛を果たしてきた国など、様々な国があるようだ。
その内、国際同盟の話を公表してすぐに動いたのはメーアスにほど近いソレアムとナルサジェル王国。次いで、レンブラント王国とガラン皇国の国境に挟まれる形で存在するタキの三国である。
恐るべきことに、タキはモンスターが巣食う山間部に国を持ち、過去、ガラン皇国とレンブラント王国に領土を明け渡すように言われたが、これを拒否。
両国と戦争状態になったこともある国だ。
小国といえど馬鹿に出来ないという話の代表例だろう。
後は参加を表明しているがまだリアーナの検査に引っかかっている国が五ヵ国。どれも奴隷の扱いなどで揉めている。
空輸産業に関してはどの国も肯定的だ。まあ、経済に余程疎い訳でないならば参加するだろうが。
「とりあえず、その八つの国に連絡して会議の話をしてみてくれ。ただ、今回は試しに代表を集めるという話だからな。別に国王や宰相とかじゃなくて良いぞ。先日リアーナと話した国際同盟の方針について話をするから、そういう話が少しは出来る人物でないと困るけどな」
俺がそう言うと、エレノアは頷いてから口を開いた。
「分かりました。しかし、ご主人様…以前は肩書きがある人物との会談を面倒がっておられたのに、最近は随分と慣れてきたようですね」
エレノアはそう言って少し不思議そうに俺の顔を見た。
そういえば、俺も昔はそうだった気がする。
それだけじゃなく、様々なことに前向きにというか、主導的になったようだ。
俺はエレノアの言葉に頭を捻り、唸った。
「大国と認められる国の王になったからじゃないか?」
俺がそう言うと、エレノアは成る程と頷く。
「神の代行者様であり、我々の主であり、一国の王ですからね。でも、私達からすれば我々の主であるご主人様が最も偉いのですが」
「ん? どういう意味だ?」
エレノアの言葉に俺が首を傾げると、エレノアは息を漏らすように笑って首を左右に振った。
「我々はいつ如何なる時も、ご主人様に付き従い、忠誠を誓い続けるということです」
エレノアはそう言って、サイノスやサニーの方向を見た。
「ねぇ? サイノス、サニ…」
エレノアが笑顔で二人の方向を見ると、二人が目を閉じて寝ている姿があった。
サイノスは胡座を掻いて腕を組んで寝ており、サニーは絨毯に大の字になって寝ている。
まあ、俺は眺めてたから知っていたが。丁度俺の肩書き嫌いについてエレノアが話し出してすぐに、二人とも眠る態勢を整え始めていたように思える。
寝つきの良い奴らだ。
エレノアは寝ている二人を見下ろし、溜め息を吐いてアイテムボックスから何かを取り出した。
女性の顔らしきデザインのされた巨大な鋼鉄製の箱のような物と、先が尖っている一メートルほどの高さの柱のような何かだ。
「…一つは分かるぞ。アイアンメイデンとかいう拷問器具だ。もう一つはなんだ?」
俺がそう尋ねると、エレノアが邪悪な笑みを浮かべて頷いた。
「ユダのゆりかごという物です。サイノスに是非にと思いまして…この上で寝れるものなら寝てもらいましょう」
そう言って、エレノアは愉しそうに笑った。
使い方までは怖くて聞けなかった。
「何故かお尻が痛いのですが、何か知りませんか? 殿」
怪訝な顔でサイノスにそう言われ、俺は首を左右に振った。
「いや、知らんな」
俺がそう言うと、サイノスは難しい顔で唸る。
「そうですか…そういえば、エレノアに凄く嫌そうな顔をされた気が…」
「エレノアは俺の代わりにジーアイ城を管理しているからな。多分付いていきたいのにいけないから、サイノス達に嫉妬しているんだろう」
「ああ、成る程! 流石は殿! 納得しました!」
俺の適当な解説をサイノスは何度も頷いて納得していた。
今、俺達はジーアイ城から出て、飛翔魔術で城下町へと向かっていた。
メンバーは俺とサイノス、サニーとイオだ。
俺は隣で胡座を掻いたまま飛行しているサイノスを眺める。
いや、しかし、さっきは本当に驚いた。
まさか、サイノスの尻が拷問器具に勝つとは。
レベルが最大のキャラクターにレベルの低いキャラクターが鉄の剣で攻撃しても一しかダメージを与えられない的なことかもしれない。
馬鹿みたいなこと考えてるな、俺。
「マスター。何で城下町に行くんですか?」
と、変な考察をしていると、イオが俺にそんな質問をしてきた。
イオは小さな身体を大きく見せようとしているのか、両手を広げて飛行している。
「ああ。もうダークエルフ達が続々と城下町に到着していると聞いてな。住む場所は大丈夫だろうが、暫くは働き口が無いんだよ」
俺がそう言うと、それまで黙っていたサニーがこちらを向いた。
「ダークエルフはマスターの部下にするんじゃなかった?」
サニーはそう言って首を傾げた。俺はそんなサニーに苦笑し、溜め息混じりに口を開いた。
「その予定なんだがな。学校、孤児院は無償だし、兵士の給料とかも払い始めたからな。かなり財政は厳しい。城下町は賑わっているし、各国から商人も旅人も冒険者も来ているが、その収入を計算に入れても厳しいんだ」
俺がそう説明すると、サニーは更に首を傾げた。
「別に、給料が無くてもマスターの部下にはなれる」
サニーがそう言うと、イオは眉根を寄せて小さなしわを作って唸り、サイノスはつぶらな瞳で俺を見ている。
なんだ、サイノス。その顔は。
俺はサイノスの顔に首を傾げながらサニーに対して返事をした。
「ダークエルフは約五千人来るらしい。更にはエルフと獣人も来るんだ。皆がジーアイ城とヴァル・ヴァルハラ城に住むなら問題無いが、それだと引き篭もりみたいだからな。警備や視察の為にも色んな街を見て回ってもらったりして欲しいんだよ。空輸が始まったらダークエルフとエルフから人手は貰うがな」
俺がそう言うと、サニーは曖昧に頷いた。さては分かっていないな。
俺がサニーを半眼で見ていると、イオが笑顔で補足説明を入れてくれた。
「つまり、マスターの部下ではあるけれど、有事以外では各街で生活してほしい…ってことですよね?」
イオはそう言って俺を振り返った。
俺は頷いて口を開く。
「そうだな。どうせなら他の国から人が来るような商売とかが良いが…」
俺はそう呟き、頭を悩ませた。
カジノとか凄い儲かりそうだが、竜騎士の国とか言われてるからなぁ。
何かあるかな。
俺はそんなことを考えながら、城下町に向かったのだった。




