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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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ディグニティの奮闘

「つまり、街ごとで囲う方が都合が良いのね?」


私がそう確認を取ると、獣人の国の王、虎獣人のフウテンは強く頷いた。


「そうですね。国全部を囲うと、一つの壁を突破されれば国全体が危機に晒されます。しかし、街ごとならば、一つの壁を突破されても一つの街だけで済みます」


フウテンはそう言って私を見た。


「まあ、時間稼ぎにはなるわね。でも、国全体を囲うと行き来は便利だし防衛にも一点集中で向かえるわよ?」


私がそう尋ねると、フウテンは苦々しい顔で首を左右に振った。


「私は邪神という存在を見ることは叶いませんでしたが、邪神との戦いを見ることが出来たクウダイとリンシャンという二人の戦士が言うには、その一体がまた現れたなら、獣人の国の滅亡の危機だということです」


フウテンはそう呟くと、短く息を吐いた。


「クウダイもリンシャンも、この国で上位に位置する立派な戦士です。その二人がそこまで言う魔物が存在するならば、犠牲は最初から出るものとして考えた方が良いでしょう。口惜しい話ですが、その時は時間を稼ぎながら、レン様のお作りいただいた国際同盟に援軍を要請致します」


そう言ってフウテンは顎を引くと、両手を膝の上で握り締めた。


口惜しいという言葉に偽りは無く、本当なら自分達の手で何とかしたいという気持ちが透けて見えそうな態度だった。


私は感心しながらフウテンを眺め、頷いた。


「仕方ないわね。特別サービスよ。両方でいきましょう」


私がそう言うと、フウテンは目を丸くして顔を上げた。


虎のお耳も相まって厳つい顔の作りなのに可愛い感じになったフウテンに、私は微笑む。


だって、自分の主義を曲げてでも国の存亡の為に頭を悩ませ、選択をすることが出来るなんて、良い男じゃない。


まあ、自分がしたいようにして皆を引っ張っていき、必ず結果を出してみせるボスには勝てないけど。


「街を囲う壁と、国を囲う壁の両方を作るわよ。川の上には壁付きの橋を通すわ。それだけで空から以外は攻められることはないでしょうね。空を攻撃する武器とかはボスにまた聞いてみなさい。許可が出たら飛龍くらいは一撃で殺せるバリスタか何か作ってあげるから」


私がそう言って片方の目を瞑ってみせると、フウテンは眉間に皺を寄せて深く頭を下げた。


「本当にありがとうございます。何卒、宜しくお願いします、ディグニティ様」


フウテンはそう言ってしばらく頭を下げたまま動かなかった。


ま、真面目ねぇ…やり辛いわ。


とりあえず、自分自ら仕事の量を増やしちゃったし、ミラとカムリに怒られに戻ろうかしら。


まあ、怒りつつもやってくれるから大好きだけど。





「だー! 橋一つにそこまでやるか!?」


「うっるさいわね! 装飾は大事なのよ! 様式美よ!」


「いいけど、早く決めてよ。私は素材の錬金なんだから」


とりあえずシタマチから手をつけることになったんだけど、カムリの頑固親父が私のデザインに文句を言ってきてケンカになっちゃったわ。


だからカムリは嫌いなのよ。


そりゃ、頑丈で橋としての機能が満たされる橋ならば問題は無いけど、面白くないわ。


門には凝る癖に何で橋はダメなのか分からない。


「今日中に街を囲う壁は作っちまうんだろ!? 凝り過ぎたら終わらないだろうが!」


「嘘つき! 絶対に終わるわよ! いいから試しに作ってみなさい! 私のデザインに感動して失禁するわよ!?」


「しねぇよ!」


「どうでも良いから早くしてよー」


ぎゃあぎゃあ怒鳴るカムリのレベルに合わせて私のレベルまで下がってしまう。


私達がカムリのせいで低レベルなやり取りを余儀無くされている中、他の生産職の皆はどんどん壁だけ作ってくれているというのに。


それにしても、大量の学校を建てたからだろうか。皆の建設速度が恐ろしく上がっている。


まあ、もう構造もデザインも決まった物をどんどん量産するだけになったからだろうが。


「…あぁ、もう分かった、分かった! じゃあ首都のシモネタだけその橋にしてやる! ゴテゴテしたのは好きじゃねぇがな!」


「シタマチでしょうが!」


「はぁ…じゃあ、カムリ。橋用意するよ?」


全く、カムリの髭面親父ったら!






昼になり、ぎゃあぎゃあと文句ばかり言っていたカムリもようやく働き出し、もうシタマチ周辺は壁で囲み終わった。


「な、なんと…もうこのような立派な壁が…」


と、フウテンが私の元へ来てそんなことを呟いた。


本来ならもう二つ目の街が終わっている予定だったとは言わないでおこう。カムリが聞いたら鬼の首をとったように騒ぎ出すに違いない。


「3日はかかるわねー。全部で…」


私がそう告げると、フウテンは目を剥いた。


「み、3日ですか…そんなことが可能とは…」


「まあ、いいわ。とりあえず、何か用があったんでしょう?」


驚いているフウテンに私がそう聞くと、フウテンはハッとしたような顔になって顔を上げた。


「そうでした。皆さんに昼食を食べて頂こうかと思いまして…」


「昼食? へぇ、どんなのかしら?」


フウテンの言葉に私は少し興味を引かれてそう尋ねた。まさか、モンスターの姿焼きとかだろうか。


私がそんなことを考えていると、フウテンは思い出すように斜め上を見ながら口を開く。


「確か、鮭のムニエルと山菜を使ったサラダ、ピラフなどだったと思いますが」


「は?」


筋肉ムキムキの巨体虎獣人が見た目にそぐわない料理名を口にした為、私は思わず変な声を出してしまった。


ムニエル? ピラフ?


聞き間違いかと思う内容だった。


「…って、ちょっと待って? その聞いたことの無い料理なのに、妙に懐かしい響きのそれって…」


私がそう聞くと、フウテンは首を傾げながら私を見た。


「料理名ですか? ずっとこの地に伝わる伝統料理ですが…ああ! もしや、神の代行者様の伝えられた料理なのかもしれませんね! レン様なら何か…」


「料理を見せて頂戴! 場合によっては私だけでも一度ボスの所に戻るから!」


ああ! もしかしたら、ボスがずっと口にしていた料理なのかもしれない!


なんとかして今すぐボスの下へ行きたいけど、距離があり過ぎる!


ボスが喜ぶ顔が見たいのに!


私は慌てて走っていくフウテンの背中を見ながら、その場でウロウロと歩き回っていた。


もどかしいったらありゃしない!



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