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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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国際同盟と空輸産業

国際同盟についてリアーナが語ったことは大まかには三つ。


国際同盟の加盟国同士、出来る限りの協力をすること。


国際同盟の盟主は、毎年開く予定の各国の代表を集めた代表会議にて決定すること。


国際同盟の加盟国は奴隷に対して一定水準の衣食住を保証し、守らなければならない。


と、いったものが大原則である。


奴隷に関しては、奴隷ありきの経済状況である国も多く、奴隷解放宣言は現状不可能であると言われた。


残念。


「さて、次に空輸産業ですが」


俺が国際同盟についての報告を頭の中で整理していると、リアーナが次の話に突入した。


早いよ、リアーナちゃん。


「噂では、エルフの方々がエインヘリアルに移住して来られるとか…」


「いや、派遣だ。毎年一万人がこちらで働き、毎年試験をして千人が入れ替わる予定だ。ある程度以上の水準に達した場合は半数を入れ替えてエルフ達の実力を引き上げる」


俺がそう言うと、リアーナは眼を丸くした。


「エルフが、い、一万人…エルフの国は何十万人国民がおられるのでしょう?」


「二万五千とか言ってたかな」


リアーナの問い掛けに俺がそう答えると、リアーナは動きを止めた。


そして、眉を顰める。


「…二万五千人の内、一万人を他国へ? 国が崩壊する恐れがありますが…」


リアーナは難しい表情でそう言った。


うん。俺もそう思う。


「とりあえず、国の運営は問題無いらしい。だから、後々はエルフの国の国民を増やす方向で考えて、今は一万人がエインヘリアルに来るということで問題無い」


俺がそう言うと、リアーナは曖昧に頷いてから口を開いた。


「…それでは話を戻します。とりあえず、一万人のエルフの方が来られたら、空輸の方をお手伝いしてもらおうかと思いますがどうでしょう? 先の戦争にて我が国の国民になった奴隷の中にいる魔力の高い方々でも、中々飛翔魔術を行使出来る人材はいませんでしたので」


リアーナはそう言って、俺を見上げた。


ふむ。リアーナにはマジックアイテムでどうにかするとは言ってなかったか。


だが、予想外にもエルフ達の手を借りれることが出来たし、忠誠心の高いエルフ達に任せた方が無難か。


俺はそう思い、リアーナを見た。


「ダークエルフはエインヘリアルに全員移住するんだが、ダークエルフ達の方が実力が高い。だから、空輸はダークエルフメインで手伝ってもらうことにしよう」


俺がそう言うと、リアーナは眼を瞬かせた。


「ダークエルフの方は何人いらっしゃるんですか?」


「約五千人だ」


「…充分ですね」


恐らく、袂を分かったエルフ達に対する対抗心からだろうが、結果としてダークエルフ達が実力を高めていて良かったと言える。


元グラード村の住人のダンやそこそこの魔術士だったシェリーの成長具合を見るに、この世界でもモンスターを狩ることによるレベルアップはあると思って良いだろう。


ただ、明確にレベルアップという概念があるのかは分からないが。


後は、エルフ達の成長実験である。


果たして、俺たちと同じ魔術やスキルの習得は可能なのか。特に、取得したら常時発動するようになるパッシブスキルについては重要だ。


これらの検証を行いつつ、エルフ達の繁栄にも手を貸さなくてはならない。


国については他の国から多少人材を融通してもらおう。リアーナのように。


俺がそんなことを考えながらリアーナを見ると、リアーナは頷いて次の資料を手にとった。


いや、そういう意味で見たわけでは無いが。


「次は各国との交渉の結果です。とりあえず、国際同盟と空輸の支店、関税については殆どの国と話はつきそうです。しかし、インメンスタット帝国に関しては全てにおいて芳しくない状況です」


リアーナの報告に、俺は首を傾げて書類を見た。


既に三回の交渉の場を得ているが、全て良い返事はもらえていないようだ。


だが、最初の一回目の交渉を終えた際の報告書には、話し合い、調整すれば承諾を得られる可能性が高い、と書いてある。


「最初の交渉から一歩も進んでいないということか?」


俺がそう尋ねると、リアーナは俺が手にしている書類を一瞥し、俺を見た。


「いえ、最初の交渉からでしたら、むしろ後退しています」


「後退? 何故だ」


俺が眉根を寄せてそう聞くと、リアーナは難しい顔をして俺を見上げた。


「…何故か、交渉の者が変わったのです。他国との交渉を担当してきた国政の重鎮から、調整役という名目で若い女性に変わりました。それからは、どうも時間を引き延ばすように細かい部分の話ばかりをしています。ですので、本筋の部分は結局…」


リアーナは困惑しながら、そして申し訳なさそうにそう口にした。


時間。この単語が俺の頭に残った。


「…インメンスタットが時間を稼いで、なんの得がある? 何をする為の時間だ?」


俺がそう聞くと、リアーナは黙ったまま首を左右に振った。


仕方ない。一つ一つ潰していくしかないか。


「まだ、レンブラント王国に対抗する為の戦力を集めて領土を取り合う気か?」


「…国際同盟にレンブラント王国が加盟したことと、同盟国は他の加盟国から援助を受ける話はもう伝えてあります。レンブラント王国と一対一でもギリギリだったインメンスタット帝国が、エインヘリアルやメーアスの援助を受けたレンブラント王国と真っ向からやり合うようなことは考え辛いですね」


「ならば、わざと交渉を難航させて、より良い条件が提示されるのを待っているとか?」


「それは無いでしょう。既にもう多くの国が国際同盟に入ると知っている筈です。軋轢が生まれるようなことは出来ないし、させないと分かっていると思います」


「後は…確か、インメンスタットは国の運営に影響を与えるような宗教が広がっているといっていたか」


「宗教、ですか?」


俺の台詞に、リアーナは首を傾げて俺の言った単語を反芻した。


俺は腕を組んでリアーナの反応を見る。


どうやら、宗教が国を動かすような感覚は薄いようだ。


「例えば、教祖の言葉一つで国の方向性が決まるような影響力のある宗教があれば、インメンスタット帝国の不可解な対応も理解出来るんじゃないか?」


俺がそう言うと、側で聞いていたキーラが思わずといった雰囲気で口を開いた。


「しかし、それこそインメンスタットにも、その宗教にも利がありません。他の国との繋がりが強化されれば、更に宗教を大きく広めることが出来るのではありませんか?」


キーラがそう言うと、リアーナも頷いて俺に顔を向けた。


「他の国の宗教と宗教戦争になりそうだから国交断絶したとか?」


「他の宗教と?」


「それは…」


俺が口にした答えに、二人は何故か揃って俺を見た。


「なんだ?」


俺が首を傾げてそう聞くと、二人は至極真面目な表情で顔を見合わせた。


そして、リアーナが俺を見て口を開く。


「神の代行者と英雄…ただの神話でしかなかったその伝説が、神の代行者様の降臨により、現実のものとなった…」


リアーナがそう呟くと、キーラが後を引き継ぐように言葉を続けた。


「神の代行者様は人々を導く存在と伝えられています。そして、レン様は国を興し、他の国々を纏め、更には皆の生活を豊かにし、戦争をも無くそうとされています」


キーラにそう言われ、俺は乾いた笑い声を上げて首を左右に振った。


「俺は教祖じゃないぞ」


俺は笑いながらそう言ったのだが、二人は曖昧な顔で笑うのみだった。


まさか、宗教戦争の相手は俺か?



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