形になってきた国際同盟
この世界で唯一の味方であり、唯一の身内ともいえるギルドメンバー達が誇れるマスターになろうと始めた建国。
世界一の国の王となれば皆も喜ぶだろうと思っていたが、僅かな期間でここまでになったか。
そんなことを思い、俺は満足げに空中を飛んでいた。
「マスター、ご機嫌?」
飛翔魔術要員として連れてきたサニーにそう聞かれ、俺は笑って頷く。
「そうだな。色んなことが上手くいっているからな」
「そう」
俺の返事を聞いたサニーは、嬉しそうに目を細めてはにかんだ。
俺は嬉しそうなサニーの顔にほっこりすると、フウテンの顔を見た。
既にエルフの国は通過した後の為、残りの送迎は獣人だけである。
意気消沈した獣人達を眺めながら、俺はフウテンに語りかける。
「フウテン。今日は無理だが、良かったら今度獣人の国の周囲を囲うように城壁を作るぞ。問題無いか?」
俺がそう言うと、フウテンは顔を上げた。
「城壁、ですか?」
あまりピンときていない様子のフウテンに頷き、俺は口を開いた。
「城壁だ。その辺りの魔物では突破出来ないような頑丈なものを建てるぞ。空輸では戦闘の出来ない商人も来るんだ。こちらも飛翔魔術が使える者と護衛は派遣するが、安全性は高いほうが良いからな」
俺がそう言うと、フウテンは首肯した。
「なるほど。確かにそうですね。それに、城壁が出来れば国防に割かれる人数も減り、より多くの者がレン様の御国へ行くことが出来ますし」
俺の言葉に返答したフウテンの眼がギラリと鈍く光った気がしたが、俺は何も言わないでおいた。
どうせ数年は様々な雑務と調整に追われることだろう。可哀想に。
「さて、後はリンシャンの処遇だが」
俺がそう言うと、クウダイが顔を上げた。
「何卒、宜しく頼みます」
クウダイはそう言って頭を下げた。
なぜか、リンシャンはピアノを習う為に楽士のネストに弟子入りしたのだ。
ネストも初めての弟子に乗り気だった為、試しにジーアイ城に置いてきたが、果たしてどうなることか。
そんなことを考えながら、俺はクウダイを見て頷く。
「そうだな。やれるだけやってみたら良いさ。こうなったらエルフの国からも何人か楽士候補を募集してみるか」
俺がそう言って笑うと、獣人達が一斉にこっちを見た気がした。
と、そんな時、クウダイが険しい顔つきでこちらを見た。
「…レン様。俺をラグレイト殿の弟子にして貰えないだろうか」
「弟子に?」
俺が聞くと、クウダイは深く頷いた。
「俺の半分も生きていないかもしれないが、ラグレイト殿は既に俺が目標とする武人の境地に立っている。強さだけでなく、心が武に生きる者なのだ。俺は、その頂に立ちたい」
クウダイは低く静かな声で、だが、熱意の籠った言葉を口にした。
俺はその覚悟の決まった眼を見て、肩を竦める。
「ラグレイトが良いと言えば良いぞ。まあ、ラグレイト並みの者も多くいるからな。その中の誰かに弟子入りしたら良いだろう」
俺がそう言うと、クウダイは鼻息荒く返事をした。
「有難い。だが、俺はラグレイト殿に認めてもらうまで頭を下げ続けるつもりだ」
と、クウダイは宣言した。
ラグレイトに余程惚れ込んだのだろう。何故かは分からんが。
俺はクウダイに頷き返して返事とすると、獣人の国の方向を見た。
正直、エルフ、ダークエルフ、獣人が戦力として加わると、我が国は想定以上の躍進を遂げる事ができる。
そして、余裕があればしたかったあることに着手出来るかもしれない。
俺はこれからのことを想像し、一人、口の端を上げて笑った。
獣人達を送り届けた俺は、一度城下町にあるヴァルヴァルハラ城へと舞い戻った。
「おお! 殿! 如何ですかな、御調子は?」
「お帰りなさい、ボス」
「おう。調子は良いぞ。二人ともお疲れさん」
玉座の間に行くとカルタスとローザに挨拶をされ、俺は笑いながらそう返答して玉座に座った。
俺が玉座に座ったのを確認して、絨毯の脇に控えていたレンブラント王国の第5王女であるリアーナと、その従者のキーラがそっと前に出てきた。
「レン様、お帰りなさいませ。御元気そうで何よりですが、実は少々レン様にお聞きしたいことが…」
リアーナは長い金髪を揺らして笑顔を浮かべてそう口にしたが、何やら良くない予感がする。
なにせ、リアーナの目が笑っていない。
「…なんだ?」
俺がそう尋ねると、リアーナは顔を上げた。
「国際同盟と空輸産業、各国との交渉結果の報告、エインヘリアル内で起きている問題について…お時間をいただけますか?」
「……わかった」
お母さん、今日は残業です。
俺はそんな気分でリアーナの言葉に頷いて応えた。
執務室に移った俺とリアーナ、キーラの三人はテーブルを挟んだ一対のソファーに座り、キーラがテーブルに書類を広げる。
大量の書類に絶句していると、不意にリアーナが俺の隣に腰を下ろした。
「レン様、ちょっとだけよろしいですか?」
「いいけど、何がだ…」
リアーナの台詞に生返事を返すと、リアーナが急に抱きついてきた。
突然の抱擁に俺が停止していると、俺の胸の辺りに頭をつけたリアーナがグリグリと額を擦り付けてきた。
そして、何事もなかったように俺から離れ、対面のソファーに座る。
一連の流れに対し、キーラは特に反応も無く、リアーナまでゆったりと書類の確認に入っている。
え? 今のは白昼夢ですか?
「…何だ、今のは」
俺が端的にそう聞くと、リアーナがそっぽを向いて顔を背けた。
「元気を補充しただけです」
リアーナがそう告げると、キーラがタイミングを見計らったかのように書類をリアーナに渡した。
「姫様。こちらからお話をした方がよろしいかと」
「ありがとう、キーラ」
二人はそんなやりとりをして、ソファーに座り直し、真っ向から俺を見てくる。
恐らく、俺の反応が間違っているのだろう。
そう思わせるほど自然体だ。
騙されないけど。
リアーナの耳、真っ赤だし。
「それでは、まずは現在の国際同盟の加盟国について報告致します。ガラン皇国は保留として、エインヘリアル、レンブラント王国、メーアス、ラ・フィアーシュの四大国と獣人の国が加盟国となっております。既にエインヘリアル、レンブラント王国、メーアスが国際同盟の加盟を公表しておりますので、小国の多くが加盟を申請しているとのことです。尚、インメンスタット帝国はいまだ国内で意見が纏まっていないのか、保留にしてもらいたいとのこと」
早口に説明するリアーナ。
いやいや、なんでもうエルフと獣人の国は加盟したことになってるんだ。する予定だけど、早過ぎるだろう。
しかも、何気にエインヘリアルが大国の仲間入りしてるし。嬉しいけども。
俺が突っ込むべきかと思い、口を開こうとすると、またも狙い澄ましたかのような動きでキーラが書類をリアーナに手渡した。
「ありがとう、キーラ。次は、国際同盟の規約について…」
このまま押し通す気だな、お前ら。
後でイジメてやる。エロい感じに。




