エルフと獣人をジーアイ城へ
全ての試合を終えた俺は獣人達を見回し、口を開いた。
「これにて獣人の国ヒノモトと、我が国エインヘリアルは同盟国同士となった。ついては、行きたい者は我が国に一度連れていってやろうと思うが、行きたい者はいるか?」
俺がそう言うと、獣人達から驚きの声が上がる。
「な、なんと…な、何日ほど掛かる距離でしょうか? 何とか片道1カ月以内なら…」
と、フウテンが真っ先にそんなことを言い出した。二カ月も国を留守にするつもりか、国王。
「飛翔魔術だから3日で往復出来るぞ。だが、とりあえず五十人だけだ。他に来たい者はまた次回にしてもらおう」
俺がそう言うと、周囲から感嘆の声が響く。
選抜はフウテンに任せるか。
俺はそう思ってラグレイト達の元へ向かった。
ラグレイトはローレルと一緒に地面に座っており、その傍にはソアラやアリスキテラ、カナン、シェラハミラが立ってこちらを見ている。
「帰るの?」
「ああ。ドラゴンになって獣人を運んでくれるか?」
俺がそう言うと、ラグレイトは顔を顰めて天を仰ぎ見た。
「えー! もうボロボロなんですけどー!」
文句を言ってくるラグレイトに笑いながら、俺はソアラを見る。
「怪我は回復したんだろ?」
「はい、全快していますよ」
俺の質問にソアラが即答した。ラグレイトは恨めしそうにソアラを見てから俺に視線を移した。
「エルフ達も連れて行くんでしょ? それならエルフ達にも飛翔魔術使わせたら?」
ラグレイトがそう言うと、アリスキテラがシェラハミラを見た。シェラハミラはアリスキテラの視線を受けて恐縮しながら顔を上げる。
「あ…集団飛翔魔術を余裕を持って使えるのはアリスキテラ様くらいで…他の魔術士だと自分が飛ぶのが精一杯といった…」
シェラハミラがそう言うと、カナンが口の端を上げて胸を張った。
「ダークエルフは十人は集団飛翔魔術を行使出来ます。残りも何とかなる者ばかりなので、少々時間は掛かりますが、最低限必要な者は各地に残し、残りは皆でエインヘリアルに移動させて頂きます」
「よし。それなら獣人だけ俺達が運べばエルフ達は自分達でどうにかなるか」
俺がそう言うと、アリスキテラが頷いた。
「何とか致します」
決意の見える顔でアリスキテラがそう言うと、カナンが得意げにアリスキテラを見た。
「こちらが何人かエルフを運んでやろうか?」
カナンがそんな提案をすると、アリスキテラが目を細めて責めるような目をカナンに向けた。
「いりません。エルフはエルフで何とかします」
アリスキテラが口を尖らせてそう返すと、カナンは鼻を鳴らして笑った。
さて、何とか移動できるかな。
フウテンやクウダイ、リンシャンらを含む大空を舞った獣人達は、皆何故かテンションが急上昇した。
空を飛ぶことに憧れでもあったのだろうか。
空の旅は、ダークエルフの里、エルフの国の順番で巡り、今回だけはサハロセテリ達、ハイエルフも連れてエインヘリアルに帰還した。
ダークエルフの里では長のカナンが脳をやられているのか、置き手紙を残して全員でエインヘリアルに来るといって百人で空を飛んできた。
そして、エルフの国は国王のサハロセテリが馬鹿なのか、国の運営をする筈のハイエルフ全員と飛翔魔術が使える魔術士、合わせて二百人ほどで飛んできた。
合計350名の客人だが、今回はジーアイ城へ招待することになった。
ジーアイ城に向かう深淵の森の上空では明らかに異常な数の飛龍達が現れたが、俺の姿を見て離れていった。
ギルドメンバーがテイムした飛龍達だろう。もうかなりの数になっていたが。
その飛龍達を見た獣人達がかなり驚いていたが、その後登場した体長30メートル級のアースドラゴンにはエルフ達まで驚愕していた。
深淵の森の主であるイシュムガルドだ。イシュムガルドは獣人やエルフ達を眺め、翼を大きく広げながら口を開いた。
「何用でこの地に…む? 我が主の仕える御方ではないか。新たなる配下を連れてこられたか」
イシュムガルドは腹に響く低音の声でそう口にした。
「同盟国となるエルフの国と獣人の国の者達だ。ダークエルフ達は配下となるが」
俺がそう答えると、イシュムガルドは喉を鳴らして笑った。エルフや獣人の者達を見回し、最後に俺を見る。
「この地を武力で制圧する御力がありながら、本当に同盟のみを広げるおつもりか」
「国の運営は面倒だからな」
俺がそう呟くと、イシュムガルドは声を出して笑った。
「面白い答えだ。そうだ、我が城が完成したぞ。目を見張るほどの城だ。我が主の仕える御方には感謝に堪えぬ」
「そうか。今度見に行くとしよう」
イシュムガルドの言葉にそう返事を返すと、イシュムガルドは宜しく頼むと言い残して森の中へ姿を消した。
その光景に、アリスキテラが愕然とした顔で俺を見た。
「あ、あのドラゴンは…レン様の部下にあたる方ですか?」
アリスキテラにそう言われ、俺は首を傾げる。
「いや、俺の直属の部下ではないな。俺の部下の部下だ。例えばカナンが俺の直接の部下になるならば、カナンの部下にあたるな」
俺がそう言うと、エルフや獣人の者達から驚愕の声が響き渡った。
「ど、ドラゴンがそんな扱い…」
「それもあんな巨大なドラゴンだぞ…」
「ドラゴン初めて見たのに…」
何故か呆れと悲哀の声が混じっていたが、中々ドラゴンの登場は好評だった。
深淵の森を攻略した冒険者はまずイシュムガルドの城に辿り着くようにしている。
冒険者の、というか、冒険者パーティー白銀の風の面々が驚く様が楽しみである。
俺はそんなくだらない事を考えながら、ジーアイ城の城門前に降り立った。
その巨大な城門と、奥に見える巨大な城に、エルフと獣人達は目を丸くして見上げていた。
茫然自失とした様子の面々を前に、俺が城門に顔を向けると、城門の奥から執事服に身を包んだ魔族のディオンと、背の高いメイド長プラウディア、そして皆似たような外見のメイド部隊十人が列を成して俺たちを出迎えた。
「…お帰りなさいませ、ご主人様」
「…お帰りなさいませ、マイロード」
ディオンとプラウディアは心底嫌そうな顔でそう言うと、深く頭を下げた。それに合わせてメイド部隊も頭を下げる。
ディオンとプラウディアは客人の前で俺に毒舌を吐けないことを悔しがっているのだろう。
ざまあみろ。
俺は城門をくぐり抜け、未だに茫然とする者が多くいる中でエルフと獣人達を振り返った。
「ようこそ、我が城へ。このジーアイ城は我が国の民すら来れない特別な場所だ。是非楽しんでいってくれ」
俺はそう言って皆を見回した。
なんか、テーマパークに連れて来たみたいな締め方をしてしまった気がする。
まあ、間違いではないか。




