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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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決勝戦2

「き、気をとりなおして、ローレル。前に出ろ」


俺がそう言うと、静かな舞台の上をローレルが進む。


それを確認した俺は予選を勝ち抜いた獣人達を振り返り、口を開いた。


「ローレルと戦いたい者二名、前に出ろ」


俺がそう口にすると、まずフウテンが前に出た。心なしか青い顔をしているフウテンは、俺を見て顎を引いた。


「私が死んだら、部下に選挙の手配をするように伝えてください…」


「いや、大丈夫だ。遺言なんか言うなよ、縁起が悪い」


フウテンの重い台詞に俺が笑いながらそう言うと、フウテンは渇いた笑い声を上げて頷いた。


「…負ける気はありません。ですが、一応ですよ…では」


フウテンはそう言ってローレルの方へ歩いていった。やっぱりソアラが怖かったんだな。


俺でも怖いから仕方ないが。


俺はそんなことを考えながらフウテンの背中から他の獣人達へと視線を動かした。


しかし、何故か誰も立候補してこない。


クウダイはラグレイトと戦いたがっていたから仕方が無いが、他の奴等は何故黙っているのか。


俺は獣人達を見回し、唯一視線が合った兎獣人の男を指差した。


肩幅が無い為に細く見えるが、普通に見たら充分に筋肉質な男だ。


「お前、ローレルとな」


俺がそう言うと、兎獣人は伸びをして前に出た。


「分かりました! 代行者様! もしも勝てたら俺も従者にしていただけますか!?」


兎獣人が愛想のいい雰囲気でそう言うと、急に壁際に立つ獣人達も背筋を伸ばしてこちらを見た。


俺は兎獣人に対して頷く。


「いいぞ。勝てなくても善戦出来たら従者にしてやろう」


俺がそう言うと、すっかり落ち着いていた闘技場がまた歓声に包まれた。


獣人の国から、新たなる従者が出る。


そんな叫び声も混じっている。


「よし! なら思い切りやってやりますか! 俺はリーチっていいます! 覚えておいてください!」


兎獣人はそう言ってローレルとフウテンの下まで走って行った。


二人が並んでローレルの前に立つと、ローレルは首を回して二人を見た。


「さあ、気楽にやろうや」


ローレルがそう言うと、二人は同じような笑みを浮かべて構えた。


「胸を借ります」


「思い切りいきますよ!」


二人の声を聞き、俺は口を開いた。


「始め!」


俺が開始の合図を発し、リーチが走る。


ローレルが右手を振って接近してきたリーチを捕まえようとするが、リーチはその手を掻い潜り、素早くローレルの膝を蹴って横に飛んだ。


「硬っ!? 体勢も崩れないんすか!?」


蹴った筈のリーチが悲鳴混じりの声を上げて蹴りつけた足を両手で摩った。


まあ、壁が出来る前衛として創ったからな。ローレルほど防御力の高いメンバーもいないだろう。


俺がそんなことを思いながら見ていると、今度はフウテンが自らの拳を打ち鳴らしてローレルに向かった。


「最強の戦士の力、お見せしよう!」


フウテンはそう怒鳴ると、ローレルに向かって見た目にそぐわぬ速さで飛び掛った。


ローレルの肩に掴みかかるようにしてローレルを地面に突き倒し、両手でローレルの右足を持って振り上げた。


軽々とローレルの身体が浮かび上がったと思ったら、そのまま勢いよく地面へと叩きつけられる。


衝撃で砂塵が舞う程の勢いで叩きつけたフウテンは、地面に倒れたローレルに向かって思い切り拳を振り下ろした。


砂塵でいまいち良く見えなかったが、フウテンの打ち下ろした拳で地面が波打ったと感じる程の衝撃が地面を走る。


「…ぐくっ!?」


だが、苦悶の声を発したのはローレルでは無くフウテンだった。


フウテンは殴った筈の拳をもう片方の手で押さえると、後ろに飛び退いて距離をとる。


「…馬鹿な! 何という硬さだ!」


フウテンの叫び声が響く中、ローレルはゆっくりと身体を起こして立ち上がった。


「硬いのが自慢でね」


ローレルは最低な台詞と共に肩を回すと、フウテンに向かって歩き出す。


「俺を忘れないでくださいよ!」


ローレルが無造作に歩いていくのを見て、リーチがそんなことを言いながらローレルの背後から飛び蹴りを放った。


どうやら、飛び蹴りが得意技らしい。


だが、鋭く、体重の乗ったリーチの飛び蹴りも、振り向くローレルの肩にあっさりと弾かれてしまった。


すぐに離れようとするリーチの首根っこをローレルは自然な動作で掴むと、身体を捻ってフウテンに向かって投げつける。


まるで投擲武器のように見事に横回転しながら飛来するリーチの身体をフウテンは上手く回避出来ずに巻き込まれた。


漫画のように二人揃って壁まで吹き飛び、壁にヒビを残して二人とも倒れ伏してしまった。


「勝者、ローレル」


俺は呆れ半分にそう言ってローレルの勝利を宣言する。


闘技場内に疎らな歓声が上がるには上がったが、それよりもローレルの戦いぶりに対する困惑の方が多いようだった。


安心しろ、獣人達よ。その困惑は正しい。


俺は獣人達の反応に納得しながら背後を振り返り、奥で待機している残りの獣人達とラグレイトを見た。


ラグレイトはウキウキしながら俺を見ている。


「残りの者、全員前に出ろ」


俺がそう言うと、ラグレイトは颯爽と、他の五名は神妙な面持ちで舞台の中央へ向かった。


俺はラグレイト達が準備出来たのを確認して、口を開いた。


「始め!」


開始の合図と共に、全員がその場から散るように動き出した。


ただ、ラグレイトだけは不敵に笑い、その場から動かなかった。





結果だけ言うなら、ラグレイトが勝った。


クウダイも含めた全員を一撃ずつでのノックアウト勝利である。


あまりの速さと力に、殆どの者が何も出来ずに終わった。


そんな中、クウダイだけがラグレイトの速度に反応することが出来た。


が、ラグレイトの拳に自分の拳を合わせるという真っ向勝負を選んでしまった為、一撃での終了となった。


「勝者、ラグレイト」


俺がそう宣言すると、闘技場は歓声に包まれる。


ラグレイトの闘いが逆に最もわかりやすく、ウケも良かったようだ。


全ての闘いがあっという間に終わり、舞台にいる獣人達も全員怪我も治し、俺はフウテンを見た。


戦士は舞台の上に列をなして居並び、フウテンの後ろに控えている。


観客席には獣人達がすし詰め状態といった様相で席を埋めている。


モンスターの大氾濫に対する援軍が大会中に来た為、獣人達の総数が大いに増えていた。


「フウテン」


「はい、分かっています」


俺がフウテンの名を呼ぶと、フウテンは居並ぶ獣人達を見回しながら、口を開く。


「ヒノモトの国の民達よ! 我が国は、神の代行者レン様の興された国、エインヘリアルを含む世界の国々と同盟を結ぶ! そして、空を通じて荷を運ぶ空輸産業にも参加することになった! 外の世界に出る者は、空輸の際に伝えればレン様の国にも行く事が出来るということである!」


フウテンがそう宣言すると、闘技場内には大歓声が響き渡った。


その大歓声の中、フウテンは舞台の上にいる戦士達を見回し、口を開いた。


「戦士達よ! 神の代行者様と従者様達の強さは肌で感じられたと思う! そこで、私はレン様に戦士達の定期的な派遣を願い出た! これより、毎年五千人の獣人の戦士をエインヘリアルに駐在させてもらい、その心身を鍛えさせてもらう!」


フウテンがそう言うと、今度は獣人の戦士達が感嘆の声を上げた。


これはフウテンがエインヘリアルの属国になろうとしたのを俺が止めたことによる折衷案だ。


これにより、我が国は殆ど元手の掛からない強靭な兵を五千人手に入れたと同じ状態となった。


素晴らしい成果である。


その騒然となった会場を満足げに見回していると、ラグレイトが首を傾げながら口を開いた。


「あれ? 我が主の御力はまだ見せていないんじゃないの?」


「…ん?」


ラグレイトの突然の一言に、舞台の戦士達が騒めき出した。


俺が眉を顰めながらラグレイトを振り返ると、悪戯っぽい笑みを浮かべたラグレイトがローレルとソアラを見ながら言葉を続けた。


「たまには、我が主に稽古をつけてもらいたいなぁ。ねぇ、ローレル?」


「いや、俺は別に…」


「わ、私も別に…」


ラグレイトの悪戯に、ローレルとソアラは焦ったように首を左右に振って拒否を示した。


だが、ラグレイトの提案を聞いたフウテンは目を輝かせて口を開く。


「お、おお! 神の代行者様とその従者様の模擬戦ですか! それは是非とも拝見したい!」


フウテンの無駄にデカい声によって、会場は怒号のような大歓声に包まれる。


えー…超メンドイ…。


俺は脱力感と共に笑うラグレイトを睨んだ。



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