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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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決勝戦

早々に予選が終わり、決勝戦が始まる。


間に昼休憩はとったとはいえ、まだ夕方にもなっていない。


「凄かったですわね、ソアラ様」


「本当にな。やはり、代行者様の従者ともなれば、魔術士であろうともあれだけ戦えねばならんのか」


「わ、私に出来るかしら…」


エルフ達は完全に観戦を楽しんでいる。ポップコーンでもあれば完璧だろう。


「ソアラが獣人達相手にあれだけやるとはな」


俺がそう言うと、ローレルが快活に笑った。


「ははは。旦那。ソアラはあれで結構努力家ですぜ? 料理から格闘術まで、何でも出来るようになろうとしてますから」


ローレルにそう言われ、俺は感嘆すると共に頭を捻った。


「凄いな。何を目指してるんだ、いったい」


俺がそう呟くと、ローレルは意味ありげな表情を浮かべて俺を見る。


「お嫁さんになりたいそうですぜ? 旦那」


「は?」


ローレルの台詞に、俺は思わず間の抜けた声を出してローレルを振り返った。


すると、ローレルは鎧を脱いで革の服を着込み、会場の中へ歩き出した。


「じゃ、頑張ってきますかね!」


そう言い残して走り去るローレルを眺め、俺は短く息を吐く。


これは、改めて結婚を意識せねばならない、気がする。


しかしこのままだと、嫁が二十人を超えてしまうのだが。


俺はそんなことを考えながら、決勝の舞台を見下ろした。


ソアラも含めて、予選突破者十名。


そして、相手をするのはラグレイトとローレル。


何かがおかしい。


俺は頭を捻りながらその構図を眺め、決勝の舞台まで降り立った。


ふわりと着地した俺を、十二人の獣人が一斉に見てくる。


俺はその殺気の籠った眼を見返して、口の端を上げた。


「さて、見事従者への挑戦権を得た戦士達、おめでとう。ところで、ソアラ。お前もラグレイトかローレルに挑戦する気か?」


俺がそう言ってソアラを見ると、ソアラは笑顔で首を傾げた。


「そうですね。どうしましょう?」


何も考えてないんかい。


俺はソアラの回答に肩透かしを食らって滑りこけそうになった。


なんて恐ろしい美女だ。この残念美女め。


俺がソアラの処遇に頭を悩ませていると、リンシャンが手を挙げて口を開いた。


「レン様、よろしいでしょうか」


「なんだ?」


俺がリンシャンに返事をすると、リンシャンは目を鋭く細めて顎を引いた。


「出来たら、私はソアラ様と戦いたく…」


リンシャンがそう口にすると、他に一人だけいた女の獣人が手を挙げた。


「私も私も!」


ちょっとバカそうなテンションのその女は、赤い髪に小さな耳をした細身の獣人だった。


尻尾を見てみると、丸い模様があり、豹の獣人であることが分かった。


「私、シタマチの戦士、タンヤオ! ソアラ様と戦わせてください!」


そう言って、タンヤオと名乗る女はその場から軽々と飛び上がり、リンシャンの隣に着地した。身軽で速そうな奴だな。


俺がそう思っていると、ソアラは頷いて俺を見た。


「では、私はこちらの二人と戦いましょうか。面白そうですし」


ソアラがそう言うと、リンシャンとタンヤオはその場で片膝をついて頭を下げた。


「ありがとうございます!」


どうやら、これで三人は決まりのようだ。ならば、先に三人に戦ってもらって残りは決めるとするか。


「よし。それでは、まずはソアラとリンシャンの対決を始めようか!」


俺がそう言うと、ソアラは俺に顔を向けて首を左右に振った。


「いいえ、二人同時で構いません。二対一で戦いましょう」


「え? いや、それは…」


ソアラの発言に俺が待ったを掛けようとすると、リンシャンが立ち上がって拳を握った。


「わ、私達二人を相手に勝つおつもりですか…」


リンシャンの小さな声に、俺は眉根を寄せる。折角、獣人達の自尊心を傷付けないように気を配っていたというのに。


俺がそんなことを考えていると、リンシャンは勢い良く顔を上げてソアラを見た。


「さ、流石は神の代行者様の従者、ソアラ様です! 回復魔術士であられるのに、その余裕! まさに、従者様に相応しい貫禄です!」


と、リンシャンは大興奮でソアラを褒めそやした。


おや。獣人達の自尊心を気にして多対一は止めておいたのに、どうやら俺の杞憂だったらしい。


俺がリンシャンに呆れた視線を送っていると、ラグレイトが笑いながら口を開いた。


「それじゃあ、僕は五人相手にしようか。そしたら丁度良いよね?」


ラグレイトはそう言ってローレルを見て笑った。


いや、何が丁度良いんだよ。どんな計算をしたんだ。


俺がそう思ってローレルを見たのだが、ローレルはさも当然のように頷いていた。


「うん、それが良い。俺が楽で良い。良い案じゃないの、ラグレイト」


ローレルがそう言うと、ラグレイトは得意げに胸を張った。


さては楽をしたいだけだな、ローレル。


結局、ソアラとローレルは二対一、ラグレイトは五対一で闘うこととなった。


初戦はソアラ対リンシャンとタンヤオ。


俺達は舞台の端に移動し、戦いを見守る。


まあ、これで三回の試合で全部終わると思えば良いか。


俺はそう頭を切り替えて、ソアラ達を見た。


息を吸い、口を開く。


「始め!」


俺が開始の合図を発すると、会場には今までで一番の歓声が響き渡った。


心なしか、ソアラの応援が多い気がした。


「行きます!」


開始の合図を聞いて、リンシャンが姿勢を低くして飛び出した。


ソアラの腰の位置程に頭が当たる程の低い姿勢だ。


ソアラに接近したリンシャンは、拳を突き出しながら自身も一気に前へ加速した。


一瞬で距離を潰すような飛び込みと、体重の乗った右ストレートだ。


だが、ソアラはその速度にも難なく反応してみせた。


前に出した足を軸に体を回転させながら、リンシャンの拳に片手を添えて受け流し、入れ替わるように後ろに立ったリンシャンの後頭部にハイキックを放った。


打撃もいけるんですか、ソアラさん。


俺がそう思った瞬間、リンシャンは前に倒れ込むようにして前方へ転がった。


その咄嗟の、しかし絶妙な回避によって、ソアラのハイキックは空を切った。


その隙を見て、タンヤオが一気に駆け出す。


地面を蹴ったと思ったら、気が付いたらソアラのすぐ傍まで迫っていた。


ラグレイトばりの移動速度である。


ハイキック後の、腰の上がったソアラに、タンヤオは走った格好から僅かに跳ね、空中で両足を揃えてソアラの腰に突っ込んだ。低空のドロップキックである。


流石に回避は間に合わず、ソアラは身体をくの字にして吹き飛び、地面を転がった。


おいおい、思い切り当たったぞ。


俺がヒヤリとする程の吹き飛び方をしたソアラは、地面に倒れた状態で動かなかった。


止めるか。


俺がそう思った矢先、倒れたままのソアラからくぐもった笑い声が響いてきた。


「ふ、ふふ…ふふふふふ…」


怖い。


え、魔王が目覚めたのか。


そんな馬鹿なことを考えてしまう程のプレッシャーをソアラから感じる。


闘技場の空気が冷え込んだような気分になっていると、音もなく、ソアラが立ち上がった。


俯き、髪が乱れた状態のソアラが、笑った気がした。


「…我が君の前で、蹴り飛ばされた…」


いつに無い低い声でソアラがそんなことを呟く。


気にしなくて良いのよ、ソアラちゃん。


凄く美しく吹き飛ばされたから大丈夫だよ、ソアラちゃん。


だから、明るく笑って、ソアラちゃん。


俺がそんなことを考えながら俯いたままのソアラに祈りを捧げていると、ソアラはそっと顔を上げた。


真顔である。ただ、口だけはニンマリと吊り上っているが。


ちゃうねん、ソアラちゃん。


そんな笑顔いらんねん。


めっさ怖いやん。


俺がそんなことを思いながら震えていると、ソアラは突如として走り出した。


何の予備動作も無い、突然のダッシュ。


そのうえ驚く程速かった。


急に走り出したソアラは、油断なく構えていた筈のリンシャンに一瞬で迫り、慌てて拳を振るうリンシャンの顔面を片手で鷲掴みにした。


拳を避ける為に前傾姿勢になっていたソアラは、リンシャンの顔面を掴んだまま腕を振るう。


まるで人形のように、ソアラに振り回されたリンシャンは、地面に背中から叩きつけられて失神した。


え、どこの超人緑肌男?


「こ、降参! 降参です!」


魔人ソアラの所業に恐怖したタンヤオがそう叫んだ。


だが、気がつけばタンヤオの背後に移動したソアラがタンヤオの頭を掴んでおり、タンヤオは空高く舞い上がった。


「しょ、勝者、ソアラ…」


タンヤオが地面に落下する音を聞きながら、俺がそう口にすると、ソアラは嘘のような晴れやかな笑顔で両手を上げた。


「やりました! 我が君!」


え? 殺りました?


そう聞き間違えそうな状況である。


先ほどまでの大歓声も静寂に変わってしまった。


もはや、闘技場を支配するのは恐怖である。


何故か、ラグレイトとローレルもソアラと目を合わせようとしなかった。



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