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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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魔物を操る魔物

上から観察していると分かるが、ラグレイトの強さはかなり突出している。


広範囲を同時に攻撃する手段は無いが、スキルを使わずとも素の身体能力でモンスターを圧倒出来るのだ。


サイノスが最強装備を整えて互角。スキルを駆使すれば優勢といったところか。


殴る、蹴る、投げるといった武器に頼らない戦法で十分に強い。


やはり、近接戦闘職最強の一角である。


そして、ローレルは育てた俺が驚く程バランスが良い。


ギルドメンバーが充実していない初期に創ったということもあり、一人で何でもこなせる器用さがある。


もちろん斥候は無理だが、一対一で強く、自らを回復したり補助スキルを使って強化したりも出来る。


そのうえ、そこそこの敵を同時に相手に出来るスキルも持っている。


仲間がいれば基本的に壁役をしながらモンスターを一身に集め、後方から援護されながら範囲攻撃を自ら行う。


それだけで十分に戦える戦法になるのだ。


後はソアラだが、殴り合いのような物理戦はからっきし弱い。


回復用にステータスを極振りしている為、完全な後方支援の為のキャラクターとなった。


ただ、回復の為に上げた聖力のお陰で、二つの聖属性の攻撃魔術を使える。これがソアラの最大の攻撃手段だ。


問題は、おそらくこの世界で放てば、ビリアーズの城くらいなら廃墟に出来る威力があることくらいか。


つまり、使い勝手が悪い。


ラグレイトとローレルとソアラ。この三人パーティーは中々強いが、やはりこれだけのモンスターの群れが相手になると微妙な編成といえるだろう。


と、俺がそんな感想を抱きながら眼下の戦場を観察していると、一人の人影が視界に入った。


クウダイである。


クウダイは巨大なキマイラを相手に正面から殴りかかり、瞬く間に一体を仕留めてしまった。


「おお。やるじゃないか」


俺がそう言うと、カナンがハッとした顔になって辺りを見回した。


「ら、ラグレイト殿とローレル殿の戦闘に目を奪われてしまっていました! わ、私達も援護します!」


カナンがそう言うと、シェラハミラが慌てて頷いた。


「そうですわ! 私共も良い所をお見せしませんと!」


二人はそう言うと、枝の上から身を乗り出して地上を確認し、少し離れた位置に狙いを定めた。


左右の奥である。離れた位置は流石にラグレイト達もカバー出来ていないので、絶好の狙い目ともいえる。


「インテリペリ!」


「アクアフラッド!」


カナンとシェラハミラがそれぞれ魔術を発動し、少し離れたモンスターを狙撃し始めた。


シェラハミラは一撃とはいかないが、カナンは何とか一撃でモンスターを戦闘不能にしてみせた。


これで何とか獣人の国へモンスターが侵入することは無いだろう。


そう思い、俺は枝の上から遠くを観察しようと顔を上げた。


すると、顔を上げた状態での目線の高さに、何か妙な影を捉えた。


立ち並ぶ木々の中の一本だけが、上部で大きく広がっている。


良く見れば、それは青黒い鱗を鈍く光らせた巨大な蛇の胴体であることが分かった。


樹木を締め付けるようにして絡みつき、太い枝の上で鎌首をもたげるようにして地上に顔を向けるその姿は、何処かで見た記憶があった。


左右に大きく裂けた口の上には、丸く赤い目玉が十個近くあるように見える。


頭には鋭く尖った灰色の角が幾つも生えており、背中にかけて黒い髪のようなものもあった。


「うわ、めっちゃ嫌な奴じゃないか…最悪だ」


モンスター名にまで思い当たった俺がそう呟くと、カナンとシェラハミラが顔を上げてこちらを見た。


「どうされたのですか?」


カナンが訝しげにそう尋ねてくると、シェラハミラは不思議そうに俺を見ながら首を捻った。


「とても順調に魔物の討伐が出来ていると…いえ、順調過ぎるといえば順調過ぎて異常な事態ですが」


二人がそんなことを言って俺の様子に首を傾げる中、俺は眉根を寄せて溜め息を吐いた。


「…あれを見てみろ」


俺がそう言って木の上にいる巨大な蛇のモンスターを指差すと、二人は顔を上げて、揃って息を呑んだ。


「な、なんですか、あの馬鹿でかい蛇は!?」


「ま、魔物ですの!?」


二人が嫌悪感の混じった悲鳴を上げ、俺を振り返った。


どうやら、この世界では長生きなエルフですら知らないくらい珍しいようだ。


「あれはアポピス…神に仇なす者であり、破壊と混沌を司る邪神の一席を担う者でもある」


俺がそう口にすると、二人の顔は真っ青に染まった。


「じゃ、邪神…!?」


「そ、そんな恐ろしい存在が…こんな場所に!?」


二人はそう言うと、アポピスに目を奪われたまま固まった。


俺は、シェラハミラが口にした言葉が気になって顎を指で撫でながら頭を巡らせた。


アポピスはゲーム中のダンジョンボスの一体だ。後半のボスであり、期間限定イベントで、大討伐というイベントをやった際にモンスターを操る者として登場したこともある。


アポピスの素材は闇属性耐性が最初から付いている装備を造れる為、多くのプレイヤーが狙うボスの一つでもある。


アポピスの防具を作り、属性耐性の魔術刻印を施すと、最強の対闇属性防具を作れるのだ。


問題は後半のボスの為、結構強いことだ。最上位のドラゴンと肩を並べる強さと言っても過言ではない。


しかし、そんなゲームのボスキャラが、何故この世界に現れたのか?


この世界は調べれば調べるほど、ゲームの世界とは別物だと分かる。


いや、この世界にはゲームの痕跡だけならばある。


弱くなっていたオーク亜種。


神の代行者を名乗ったゲームのプレイヤーらしき存在と、ギルドメンバーらしき従者達。


魔術の形態に、魔術刻印。


ゲームとは似て非なる世界に違いは無い。が、ゲームの影響を受けたような部分は確かにある。


そして、今回のアポピスだ。


あれは、完全にゲームから抜け出した存在だろう。


俺と同じように、モンスターの一部もこの世界に転移してきたのか。


もしそうならば、俺達ならば対処出来るが、この世界の者達ではただ嬲り殺されるだけである。


いや、俺達がたまたま同じ世界に存在するお陰で、この世界はゲームのモンスターに蹂躙されずに済むかもしれないが…。


「…それにしても、なんでアポピスなんだ」


俺は不意に思考の坩堝から抜け出し、誤魔化すようにそう呟いた。


俺の言葉を聞いた二人はびくりと肩を震わせ、深刻そうな面持ちで俺を見た。


「や、やはり、かなり危険な存在なのですか…」


「れ、レン様ですら危ない相手ならば、私が身を盾として一撃でも多く防いで見せます!」


二人は青い顔のままそう口にすると、俺の返答を待った。


俺は腕を組んで唸ると、アポピスを遠目に眺めながら背筋を震わせた。


やはりダメだ。


この世界に来て、更にダメになった気がする。


「…俺は蛇が嫌いなんだよ」


俺がそう口にすると、カナンとシェラハミラは石になったように動きを止めてしまった。


仕方ないじゃないか。


蛇とゴキブリが世界一嫌いなんだから。



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