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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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モンスターがパニック

飛翔魔術を発動し木々の上まで飛び上がると、空を黒く染める飛龍の群れの姿があった。


大きさは一体が10メートル程度だろうか。ゲームなら大型の飛龍である。


ラグレイトのようなドラゴンタイプでは無く、ワイバーンのようなプテラノドンに似た形状の竜種だ。


10メートル。つまり、三階建ての建物が空に群れを成して飛来しているのと同じ状況である。


ラグレイトもそうだが、改めて見ると良く空を飛べるものだと感心してしまう。


あれだけの大きさのものが襲いかかってきたら、それはそれは恐ろしいもの違いない。


まあ、俺はゲームで散々もっと巨大なモンスターを倒したから今更ではあるが。


「れ、レン様! そ、そろそろ攻撃を開始しませんか!?」


と、馬鹿でかいモンスターの考察をしていたら、切羽詰まった様子のシェラハミラにそんなことを言われた。


仕方ない。周りを気にしない空の上で、相手は言語を解する高位の竜種では無く中位のモンスターだ。


ならば、少しくらいは代行者の従者の血を引く者達に今世の代行者の力を見せるとしよう。


「俺が一発放つから、残ったのを頼むぞ」


俺がそう言うと、エルフ三名が大きな声で返事を返した。


さて、派手な魔術といえば、最上位の火系魔術、光系魔術が良い気がするが、どっちにするかな。


「…あ、爆炎が派手なのがあったか」


俺はふと良い魔術を思い出し、一言呟いてアイテムボックスから魔術刻印の施されたミスリルの杖を取り出した。


魔術の威力向上、範囲向上に特化した人気のある装備である。


俺は杖を構え、もう残り百メートルほどまで迫った飛龍達を見据えた。


「クリムゾン・エクスプロード」


俺が口の中でそう呟くと、ミスリルの杖が赤く染まり、周囲に数十にも及ぶ、ぼんやりと光る赤い球体が浮かび上がった。


そして、赤い球体は赤い軌跡を空中に残し、飛龍達に向かって拡散する。


次の瞬間、視界の全てを覆う程の爆炎が空に広がった。


真っ赤に染まる空と、瞬間的に膨張して辺りの大気を吹き飛ばす爆風。


その後すぐに恐ろしいまでの爆音が轟いた。


俺達の方は結界に守られているので問題ないが、飛龍達の真下にあった木々は一部が折れ曲がり、砕け、横倒しに倒されてしまっている。


そして、周辺の空一体に広がる黒煙が薄まっていく中、空にいたはずの飛龍の群れが完全に消失していることに気がついた。


「…おや?」


俺が首を傾げながら後ろを振り返ると、エルフ達は完全に動きを止めて固まっていた。


「悪い。ちょっと加減を間違えた」


俺がそう口にすると、カナンが一番に再起動を果たした。


「さ、ささ、流石はレン様…ま、まさか、ここまでの御力を…」


カナンが乾いた笑い声をあげてそう言うと、シェラハミラがまん丸に広げた目を俺に向けた。


「そ、想像を遥かに超えた魔術でした…ま、まさかこんな魔術が存在するなんて…」


二人がそんなことを言って俺を見る中、引き攣った顔のアリスキテラが信じられないものを見るような目で俺を見て、口を開いた。


「…加減を間違えた、というのは…全力でやってしまった、という…」


「いや、手加減が足りなかったという意味だ。威力だけなら装備を全て替えるし、魔術自体も今のより強い魔術があと5個はある。まあ、俺は魔法剣士だからな。本職のイオとかなら今の10倍くらいの魔術まで行使出来るぞ?」


俺がそう答えると、アリスキテラは白目を剥いて後方に倒れていった。


「あ、アリスキテラ様っ!? お、お気を確かに…! アリスキテラ様ぁあっ!!」


シェラハミラがイナバウアー中のアリスキテラを何とか支え、アリスキテラの意識を覚醒させようとアリスキテラの肩を揺さぶる。


その何ともいえないシュールな光景を見て、俺はエルフという種が中々面白い生態をしていると知れたような気になり嬉しくなった。


俺は気を取り直すと、カナンを見て口を開く。


「よし。仕方ないから地上の敵の討伐を手伝おうか。今度は最初からカナンとシェラハミラが一体ずつ倒そう」


「わ、分かりました!」


「あ、あの、アリスキテラ様が…」


俺の指示にカナンは即答したが、シェラハミラは意識を失ったアリスキテラを抱き抱えて眉根を寄せていた。


「仕方ない。アリスキテラは俺が預かるか。ほら」


俺はそう言ってシェラハミラの側に近づき、アリスキテラの細い腰を引き寄せて横抱きに抱えた。


何故かハッとした顔になるカナンとシェラハミラを連れて、俺達は木々の間を潜り抜けるように地上へと移動する。


木々の一本一本が驚くほど太く、不規則に並んでいるのに、モンスターはしっかりと木々を避けて進んでいるようだった。


確かに、これだけ太い木に体当たりしても跳ね返されるかもしれないが、これだけのモンスターがいて一体も木々に衝突しないのも不思議なものだ。


なにせ、木々の上から森の奥を見ると、三メートルはありそうなオーガと全長5メートルはありそうなキマイラの群れが所狭しと駆けているのが見える。


木々の間からなので正確には分からないが、百や二百ではきかないだろう。


その群れの正面にあたる場所で、ラグレイト達が立ち塞がっているが、獣人達の姿が見当たらない。


辺りを見渡すと、ラグレイト達の場所は避けるようにして木々の間で何かしている様子の獣人達の姿があった。


それにしても少数である。


この周辺の木々にも獣人達の住居らしきものは見受けられるのに、獣人達は明らかに一部の住居は見捨てる形をとっている。


恐らく、罠を張り巡らせ、遠距離から弓矢などで多少数を減らし、罠を抜けた少数を袋叩きにする戦法か。


「まあ、カナンとシェラハミラがいれば討ち漏らすことは無いよな?」


「へぁ!?」


「わ、私ですかしら!?」


俺が突然声をかけた為、二人は素っ頓狂な声をあげて狼狽した。


「正面ど真ん中はラグレイトとローレルで事足りる。左右をお前達に任せよう。ラグレイトやローレルがいる場所に達する前には処理してみせろ」


俺がそう言うと、二人は目を剥いて俺とモンスターの群れを見比べた。


「…は、はい! お任せください!」


やはり、先に覚悟を決めたのはカナンだった。それを見たシェラハミラも慌てて返事をする。


「わ、分かりましたわ! 頑張りましょう!」


二人がやる気になったところで、俺は迫り来るモンスターの方向に顔を向けた。


「よし。火は使うなよ。出来るなら風か水、土だ。一点集中で狙えるなら光と闇も良しとしよう。雷はダメだ」


俺がそう言うと、二人は頷いてそれぞれモンスターに向き直った。


木々の枝の上にスタンバイしている為、一方的な狙撃が出来るだろう。


ただ、討ち漏らしたモンスターをもう一度狙うのは難しい。


一応、俺も動けるようにしておくか。


俺はそう判断してアリスキテラを枝の上に降ろした。


アリスキテラは少々間の抜けた顔で失神していた。



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