フウテンの情報
獣人の国を見て、俺はフウテンに同盟の話を持ち出すか考えた。
こちらのメリットは確かにある。
獣人の国の戦力やモンスターを狩って得る資源などは同盟や空輸で大いに喜ばれるものだろう。
他の小国も同盟に入りたがる一要因に成り得る。
しかし、獣人の側からすると、今の生活になんら不満が無ければ、隣国の脅威なども無ければ、同盟や空輸というものに何も魅力を感じないのではないか。
俺が悩んでいると、フウテンとクウダイは揃って顔を見合わせ、俺の顔を見た。
「どうされましたか?」
「何か気になることでもあったか?」
二人にそう聞かれ、俺は曖昧に笑って顔を上げた。
場所は先程の部屋の角地に移動しており、一人用の椅子に並んで座っている状況である。
「いや…良かったら獣人の国のことについて聞かせてくれ。名前はヒノモトだったな?」
俺がそう言うと、フウテンは一瞬目を瞬かせたが、すぐに頷いて口を開いた。
「ええ、そうですよ。この地には客人などまず来ませんからね。そんな質問が来るとは思いませんでしたよ」
そう言って、フウテンは獣人の国について語った。
獣人の国は、なんと最初から土地の開発だけはされていたらしく、フウテン達の曽祖父の代でようやくリュウキュウまでの集落が出来上がったらしい。
その為、リュウキュウが最も人数が少なく、最も若い者の割合が多いらしい。
常にモンスターの脅威に晒される獣人の国は、川を中心に左右に少しずつ国土を広げており、安全な川の近辺には老人と女子供が住んでいる。
反対に、危険な、川辺から離れた地には若く強い者達が住んでいる。
木々の下に住居をくっ付けて建てているのは、その方がモンスターに住居を破壊され辛いらしい。
獣人達は様々な技能を持っており、鍛冶や服飾、大工、調理など、生活に必要な物に関しては問題が無いらしい。
強いて言うならば、塩があまり無いとのこと。
「なるほどな。ところで、この街の名前はどうしてシタマチなんだ?」
俺がそう聞くと、フウテンは唸りながら首を傾げた。
「街の名前、ですか…さて、どうして…ああ、そういえば、長老の一人が獣人族の歴史について詳しかったですね」
フウテンはそう言ってクウダイの方を向くと、口を開いた。
「長老のナンソウを呼んできてくれ」
フウテンがそう言うと、クウダイは頷いて立ち上がった。長老のナンソウとやらを迎えに行くクウダイの背中を見送り、フウテンは苦笑しながら俺を見る。
「いや、申し訳ない限りです。本来なら私が一番詳しくて然るべきところですが、どうも獣人はその日暮らしな性格がありまして…男は特にその気が強いですね」
フウテンはそう言って笑った。俺はフロアを見回し、事務仕事らしき仕事をしている女獣人達を眺めた。
「それで、事務仕事をするのは女の仕事か?」
俺がそう聞くと、フウテンは笑いながら首を左右に振った。
「いやいや、彼女らは皆、私の嫁です。獣人族は優れた者の血を残す為に、一夫多妻を認めていますからね」
「全員? あの美人な獣人達が皆お前の嫁か?」
俺がそう言ってフウテンを見ると、フウテンは気恥ずかしそうに頷いた。
「いや、嫁が沢山いると羨ましがられますがね。これはこれで大変ですよ」
「ふぅん、凄いじゃないか」
俺が感心してフウテンにそう言うと、ラグレイトが呆れたように俺を見た。
「いや、主は百人以上愛人がいるじゃないの」
ラグレイトがそう言うと、ソアラが妖艶に微笑んで頷いた。
「そうですよ。ちゃんと、皆に子供を授けてくださいね? 」
「はっはっは。旦那も大変だ」
ソアラの衝撃的な発言にローレルが笑いながらそんなことを言った。
すると、話を聞いたフウテンが目を丸くする。
「ひゃ、百人ですか…やはり、神の代行者様ともなると桁がちがいますね」
俺のハーレム事情を聞いたフウテンは愕然とした顔でそう口にした。
対して、エルフ達の反応が危険極まりない。
「なんと、レン様のご寵愛を…!?」
「サニー様はレン様の愛人と聞きましたが…」
「サニー様がいけるなら最低でもハイエルフは…」
何故か俺の関与しないところで俺の愛人が増えようとしている。
いや、待て。
俺は自ら愛人を増やそうと行動したことは無いのだ。
気付いたら愛人が増えて…いかん。これは炎上する。
この世界にインターネットは無いが、あれば間違いなく炎上する内容だったに違い無い。
俺が見えない批難の声に恐怖していると、長老を迎えに行ったはずのクウダイが帰ってきた。
しかし、クウダイは一人であった。
「ん? ナンソウはどうした?」
フウテンがクウダイにそう尋ねると、クウダイは無表情に椅子に座るフウテンを見下ろし、口を開いた。
「魔物の襲撃だ。ワイバーンが目に入るだけでも二百はいる。後はオーガとキマイラの群れだ」
クウダイがそう告げると、フウテンは眉間に皺を作り、柔和な表情を崩した。
「…普段なら共に行動することの無い魔物達か。これは更に後方に何か強大な魔物がいるな」
フウテンはそう言うと、席を立って俺を見た。
「レン殿、本当に申し訳ありませんが、魔物の襲撃に備えなくてはなりません。お話は後日またお願いします」
フウテンはそう言ってエレベーターの方へ向かっていった。
この国の重要地点に俺達を残していくのは自信のなせるわざか?
モンスターもそれなりの敵と数だが、フウテン達は焦る様子も無かった。
「どうするの、我が主」
俺が考察していると、ラグレイトが端的にそう聞いてきた。俺が視線を向けると、ラグレイトは窓の外を指さしてこちらを見ていた。
窓の外を見ると、遠くの方からこちらに向かって飛んでくる飛龍らしき影が目に入った。
木々の隙間から僅かに見える程度の為、数は分からないが、場合によっては危険な事態だろうか。
まあ、恩を売って損はあるまい。
「そうだな。モンスター退治を手伝ってやろうか」
俺がそう言うと、ラグレイトはガッツポーズをとって頷いた。
そして、エルフ達の目に暗い炎が浮かび上がる。
「…良い機会だ。魔術の真髄を見せてくれる…」
「魔術士も戦えるってところを見せないといけないわね」
「わ、私も微力ながら協力致しますわ」
皆やる気に溢れているようだ。
獣人の国に二次災害が起きないように見張っておかないといけないな。




