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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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シタマチの王

川の上流へ上ると、川幅が急に広くなり、ダムのように水を溜めている部分に辿り着いた。


その周辺には今までのような木々の下に樹木に寄り添うような形で作られた家ではなく、石造りの三階、四階建ての建物が立ち並んでいる。


その建物を囲むように並ぶ家に関しては、これまでと同じく樹木の下に家が建てられていた。


人の数は信じられないほど多い。


これまで通り過ぎてきた獣人族の町や村が全て田舎の集落だったのかと思うほど、シタマチに人が集中しているようだ。


それに、こちらに気づいて振り向く者を見ても、他の国の街と同じくらいの文化レベルや生活水準はありそうな様子である。


服はジャケットらしき上着まで着ており、靴も履いている。むしろ、何処の街でも見かけた浮浪者や孤児らしき者を見ないのだから、この街の方がヒト族の街よりも住みやすそうなくらいだ。


そんなことを思いながら俺がシタマチを観察していると、クウダイが奥にある四階建ての建物を指差した。


「あそこだ」


「あの下に降りれば良いのか?」


「ああ」


クウダイの案内を聞き、俺が返事をすると、カナンが俺達をその建物の前に降ろした。


周辺の獣人達も何事かとこちらに顔を見せている中、クウダイが目的の建物の入り口らしき両開き扉を自ら開けて屋内へ入っていった。


辺りの獣人達から好奇の視線に晒される中、暫く待っていると屋内からクウダイが顔を出した。


「会えるぞ」


「早いな」


俺は思わずクウダイの台詞にそう突っ込んでしまった。


一国の代表者だろうに、突然訪れてすぐに会えるとは思わなかった。


俺はそう思って仲間達を見たが、ハイエルフにダークエルフ、そして俺達…軽い予定ならキャンセルしてでも会うかもしれないな。


俺がそんなことを思っていると、クウダイは俺達について来るように言ってまた屋内に入っていった。


俺達は一度顔を見合わせると、クウダイの後を追って建物の中へ足を踏み入れた。


俺は建物の中に入り、内装を確認する。


建物の中は、何処か現代日本を思わせる作りだった。灰色の壁、木の板を敷き詰めた床、窓は横に長い長方形で、綺麗な透明なガラスがはめられている。


廊下はあまり余計な物が無く、絨毯も無い。


先を歩くクウダイに付いていくと、クウダイは時折こちらを振り向きながら廊下を進み、突き当たりで引き戸のある部屋に入った。


付いていくと、十人くらいが入れる部屋になっていた。


窓も無いその部屋に、カナンが顔を顰める。


「…なんだ、この部屋は。まさか、我々を騙して…」


「まあ、見てろ」


不信感を持ってクウダイを睨むカナンに、クウダイは部屋の入り口近くの壁にいき、手を当てた。


その壁には、エレベーターらしき表記が彫り込まれている。


「エレベーターか。魔術刻印か?」


俺がそう聞くと、クウダイは驚いたように振り返って俺を見た。


「知っているのか。驚くと思っていたんだがな」


クウダイはそう言って笑うと、壁に向かって何か呟いた。


すると、身体が持ち上がるふわりとした感覚が足下から上がってきた。


「な、なんだこれは!?」


「地面が動いてる…?」


「け、結界をお張り致しますわ。レン様、こちらへ」


「落ち着け、お前ら」


エレベーターに驚いたのか、とあるハイエルフ二人とダークエルフがエレベーター内でオロオロし始めた。


ラグレイト達を見ると、こちらは平然と立っていた。


「僕達は地下に行く時エレベーター使うからね」


「そうですね」


ラグレイトとソアラがそんな会話をすると、ローレルがエレベーターの壁に身体を預けて苦笑いを浮かべた。


「ま、旦那の居城は出したら反則でしょ。普通に考えるなら、エレベーターなんて他に無いんだから」


ローレルがそんな常識的な意見を言うと、エルフ達が驚愕した。


「やはり、代行者様の…」


「エルフの国にも導入しましょう…」


「魔術刻印を覚えて帰りますわ…」


エルフ達は何やらブツブツ呟いているが、俺達はエレベーターが目的の階に到着し、クウダイが扉を開けて外に出た為一緒に退室した。


扉を出てすぐに目の前に広がるのは、フロア全てをぶち抜いた一部屋だった。


壁には四方に窓が設置されており、室内は外から射し込む陽の光だけでかなり明るい。


内装はまるでオフィスのような作りだった。机を縦列に並べてあり、各机の前には獣人の女性が座って書類の処理に追われている。


本当に日本の事務所みたいな作りだが、座っている事務員らしき獣人は美しい女性ばかりに見えた。


そして、一番奥の明らかに他の机とは豪華さが違う机が一つあり、その席には巨体を窮屈そうに椅子に押し込んだ筋肉質な獣人が座っていた。


耳と、机の奥に見える尻尾を見る限り、虎の獣人の男のようだった。


虎の獣人は俺達を見て席を立つと、こちらに歩いてきた。


デカい。クウダイも大柄だが、この男も随分と大きい。2メートルは超えるだろう。スーツに似た服装をしているが、もはやプロレスラーにしか見えない。


男は朗らかな男らしい笑みを作り、俺達を見た。


「おお、よくぞいらっしゃいました。私はフウテンと申します。現代に現れた神の代行者様であられるとか…! 更にはエルフの王族とダークエルフの長の皆さん…? おや、エルフの方々の姿がお見えになりませんが」


フウテンと名乗る男は不思議そうに俺達を順番に見比べ、エルフ達の姿が無いことに気が付いた。


すると、クウダイは首を回して背後を確認し、口を開いた。


「ああ、エレベーターに置いてきてしまったか。悪いことをしたな」


そう言うと、クウダイは来た道を戻ってエレベーターに向かった。その様子を見ていたフウテンは喉を鳴らすように笑った。


「いや、すみません。クウダイは不器用でしてね。悪気は無いのですが、良く思ったことを口にして頑固な年寄りと喧嘩をしております。まあ、村の者はクウダイの誠実さを知っておるのでリュウキュウの村長としてはしっかり勤めを果たしていますが」


年寄りと喧嘩。想像に難く無いが、そうなるとエルフとは大いに敵対しそうだな。エルフは獣人からしたら超年寄りだし…いや、実年齢だけか?


俺がそんなことを思っていると、クウダイがアリスキテラ達を連れて現れた。


「すみません、レン様。魔術刻印に夢中になって…」


「ふん。ハイエルフの癖にあんな魔術刻印一つ解析出来ないとはな」


「カナンさんだって分からなかったんじゃないかしら?」


「ぬぐ…」


三人は何故かエレベーター一つに敗北感を受けながらこちらに歩いてきた。


「もう、恥ずかしいな。我が主の従者になるならちょっと珍しいものを見たくらいで動揺しないでよ」


エルフ達の反応を見てラグレイトが溜め息混じりにそう言うと、エルフ達は揃ってうな垂れた。


「まあ、いい。とりあえず自己紹介といこうか。俺はエインヘリアルの国王、レンだ。こっちのハイエルフがエルフの国の王族であるアリスキテラとシェラハミラ。そっちがダークエルフの長であるカナンだ。後は俺の直属の部下のラグレイト、ソアラ、ローレルだ」


俺がそう紹介すると、フウテンは頷いて口を開いた。


「改めて、フウテンです。獣人の国を取り纏めております。少し前までは国一番の戦士として剣を振っていたのですが、獣人の国の伝統である選挙という制度で代表に選ばれました。まあ、自分でも柄では無いと思いますが、選ばれたからには国の為に努力を惜しまない所存です」


そう言うと、フウテンは一度言葉を切って口を閉じ、俺達を順番に見ながら口を開いた。


「なので、神の代行者様の御来訪が我が国の利となる出来事であることを心より、望んでおりますよ」


そう言って、フウテンはまた笑った。


なるほど。神の代行者への忠誠心より、自らが育った国への愛国心か。


はっきり言うなら、この国に関しては俺も何もしなくて良い気がしていた。


この国はこの国だけで自立し、完成してしまっている。


さて、国際同盟と空輸…この二つは獣人の感情を動かすことが出来るのか。



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