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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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カナンの内心はドッキドキ

神の代行者とその従者達。


我々はその従者の子孫として、神の代行者と従者の物語を語り継いできた。


曰く、その始まりは神々の世界から始まる。


その世界では、多くの神々とその従者達が常に戦い続けていた。


それはまさに闘争の歴史。


その地では、私達の祖先ですら勝ったり負けたりの繰り返しであったとのこと。


信じられない話である。


私の祖母は今の私でも勝てないほどの魔術士だった。


最上位魔術を二種類習得し、連続で放つことすら出来たという、驚異的な魔力を持つ。


こちらの世界のヒト族が使う魔術は最大のものでも最上位魔術には到達することは無いだろう。そのうえ、数人で詠唱して一度か二度発動するのが精々である。


それを考えれば、単独での無詠唱で最上位魔術を二度三度発動させることが出来た祖母は、異常といっても過言では無いレベルの魔術士だったということだ。


だが、その祖母も神の代行者の従者には及ばないとされている。


ダークエルフはエルフ達の国から出て、独自のやり方で神の代行者の話を伝え残していき、更にまた従者になれるように精一杯の努力をするようになった。


そのお陰で、世の情勢や各国の国力を知る為の手段を得て、魔物を交代で狩りながら魔術を習得していく今の修練方法も獲得したのだ。


一方で、神の代行者の御力で造られた国で安穏と暮らしたエルフ達は、徐々に衰退していっていると聞く。


このまま一千年もすれば、エルフの国はこの世界の民に全て奪われるかもしれない。


エルフの国は、神の代行者の遺した大切な我ら従者の子孫との繋がりである。


ならば、エルフ、ダークエルフ、獣人と別れてしまった我ら、それぞれの子孫達が力を合わせてエルフの国を守らなければならない。


長老としてダークエルフの一族を率いる私だからこそ、エルフや獣人と手を合わせる為に動かねばならないのだ。


だが、実際に存亡の危機に瀕したわけでも無いのに転移陣を使うことは出来ないし、人数が多く、五大国にも数えられているエルフの国の民にも、余所者の力を借りるというのは受け入れ辛いことかもしれない。


しかし、エルフの国の国力が弱った時にはもう遅いのだ。その時には、急激にその数を増やしているこの世界のヒト族に蹂躙されているかもしれない。


そうならない為に、私が動くべきなのだ。


そう思ってはいるが、結局中々動けないままでいた。


そんなある日、突如としてダークエルフの進む道は変わることになった。


新たなる神の代行者の降臨である。


最初は神殿を掃除する若い者が不審者を見つけて外に引っ張り出したのかと思ったが、神殿の入り口から出たところからこちらを見下ろすその存在は、何処か超然とした雰囲気を醸し出していた。


「…何者だ。ヒト族には見えないが、間違いなくハーフエルフでもないだろう?」


私が神殿の下からそう聞くと、見慣れぬその金髪の少年は、赤い眼で我々を見下ろした。


その赤い眼を見ただけで身動きがとれなくなりそうなほどの重圧を感じたが、我々をゆっくり眺めたその少年は、フッと人懐こい笑みを浮かべて口を開いた。


「ダークエルフの里か。やっぱりあれは転移陣だったわけだね」


少年のその言葉を聞き、彼がエルフの国から来たことを知った。あれを転移陣と知る者は我々のような従者の子孫か、もしくは実際に転移したものだけだ。


「…まさか、神の代行者、様?」


思わず、私の口から掠れた声でそんなセリフが出た。


ダークエルフの一族にとっての存在意義であり、最も恐ろしい瞬間をもたらす存在でもある、神の代行者。


いつか、また従者として仕えることを夢見てきた我らにとって、待ち望んだ唯一神とも言える存在だが、その存在から拒絶された時、只々自らを鍛え続けてきた我らダークエルフの歴史は全くの無駄になるのだ。


私は緊張感で心臓が潰れそうな思いだった。


だが、私のその気持ちを知らないその少年は明るい笑顔で私を見た。


「お前が長かな? 我が主はもう来られる。すぐにダークエルフを集めなよ」


少年はその外見に似合わない威圧感を放ち、そう言った。


「…皆を集めよ」


私がそう言うと慌てて近くの者が走っていく音が聞こえた。


来た。


来てしまった。


ついに、この運命の日が来たのだ。


必死に紡いだダークエルフの歴史は、意味があったのか。それとも全くの無駄だったのか。


瞬きすら出来ずにその時を待つ私の前に、待ち人は姿を現した。


黒い髪を揺らし、エルフと見紛うほど美しい青年だ。ハイエルフらしき者達もいるというのに、私はその青年から目を離せなかったのだ。


直感が告げている。


彼こそが我々の待ち望んだ主だと。


彼らに儀式の内容を話し、断られることを死ぬほど恐れながら返事を待った。


だが、私のそんな気持ちはただの杞憂であった。


彼は、自信に溢れた見惚れるような笑みを浮かべて了承し、私の住居に残った。


周囲には我が一族の誇る実力者二十名余り。


最上位魔術まで含める魔術が一斉に放たれることになる。


これは、この世界のヒト族の国と戦争をした時に使えば、間違いなく決定打になる威力、規模のものとなるだろう。


はっきり言って、この威力に耐えられる存在なんていないと頭の中では思っているのだ。


だが、我らの祖先を束ねていた神の代行者ならば。


そんな気持ちがどうしても消えない。一族の存在理由なのだから消える訳もない。


「…ふう」


私は深く深呼吸して周囲を見回した。


魔術を待機状態にして私の合図を待つ仲間達。彼らの目も、不安と期待に揺れている。


額から流れる汗の感触に、私も焦れてしまう。


さあ、もう一分経っただろう。


隣を見ると、数を数えていた者が頷くのが見えた。


私は意を決し、大きく息を吸い、口を開いた。


「放てっ!」


直後、火柱が渦を巻いて吹き上がり、氷と水が塊となって飛来し、地面から突き出た大木のような土の槍が住居を木っ端微塵に吹き飛ばす。


更には打ち消し合わないように放つ時をズラされた光の矢と天から炎の柱に落ちる雷が轟音とともに辺りを白く染める。


もはや、城でも小さな山でも跡形も無く消し飛ぶような爆発と衝撃である。


その恐ろしいまでの破壊が終わり、一部の魔術士が魔力を失い過ぎて腰を抜かす中、私はただただ濛々と立ちのぼる煙を見ていた。


「お、おお…!」


誰かがそんな声を出し、皆が目を凝らして煙をみた。


煙が徐々に減ってくると、薄っすらと人影が現れ、四人の姿を浮き彫りにしていった。


「だ、代行者様…!」


現れたのは、揺らぎさえない結界にその身を守るレン様と従者様の姿だった。


レン様は先程と同じ様に胡座を掻いて座ったまま、腕を組んで目を閉じられていた。


何という余裕か。


その周りの従者様達も笑いながら話しているようにも見受けられる。


これが、神々の世界を戦い抜いた本当の代行者とその従者の姿…!


私は胸に手を当てて、涙が出そうになるのを堪えた。


この方達の下にいけるならば、もう迷うことはあるまい。


我らダークエルフ一族が、1400年の時を経て、遂に明るい表舞台へと姿を出す時がきたのだ。


神の代行者様の新たなる従者として!



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