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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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ダークエルフの儀式に向けて

カナンから…いや、千数百年前にこの世界に転移していた同じゲームのプレイヤーからの挑戦状だ。


間違いなく、この世界で今まで見た全ての者達の中で最強の集団から魔術を撃たれる。


何という酷い試験だろうか。考えた奴は脳筋に違いない。


普通ならゲームの世界の常識クイズとかにするのが文明人というものである。


だが、それでも、俺はその試験を面白いと思った。


おかしいぞ。理知的であり慎重であることを信条とする俺が、少年漫画の熱血主人公のようなワクワク感に笑みすら浮かべている。


確かに、ゲームのキャラクター並みの強さがあるダークエルフの集団を味方に加えられるならば、それは計り知れないほどの戦力になる。


この大陸中に軍事拠点を置くことも可能だろう。


懸念すべきはダークエルフの魔術に、俺が耐えられるかどうか、だ。


もしも、俺のギルドメンバー…例えば、妖精族で魔導王のイオと同等の魔術士が、五人同時に最大級の魔術を俺に放つと、結界を張っている俺でも耐えられない。


だが、今のままでなくて良いのならば何とかなる。


俺は静かに返答を待つカナンを見て口を開いた。


「その試験を受ける条件がある」


俺がそう言うと、カナンは深く頷いた。


「勿論です。我々は一つ一つの属性に特化することで、初代様から全ての魔術を引き継ぎ続けています。その魔術を無傷で受けきることは例え代行者様であっても難しいでしょう。なれば、代行者様も持てる力を発揮してもらえれば、と」


つまり、ギルドメンバーの力も借りて良いということか。


問題は、魔術の規模だな。


最上位ならば厳しいが、上位ならば今いるメンバーで十分耐えられる。


全ては元プレイヤーだった過去の代行者のレベル次第か。


俺はそこまで考えて顔を上げると、カナンに目を向けた。


「伝わっているか分からないが、魔術のレベルは上位魔術か? 」


俺がそう言うと、カナンは首を左右に振って口を開いた。


「火と水、土は最上位魔術と呼ばれる魔術です。雷、風、氷、光、闇の魔術は上位魔術までとなっています」


カナンがそう言うと、アリスキテラが息を呑んで顔を引きつらせた。


「…皆、私と同等の魔術士ということなのかしら? じ、自信を失いそう…」


アリスキテラが蚊の鳴くような声でそう呟くと、カナンは眉根を寄せてアリスキテラを見た。


「その若さで最上位の魔術を? ダークエルフの中でも最上位の魔術を使えるのは10人程度なのだが…伝えに聞くハイエルフとは思うが、それでもまだ100から150歳の間ほどだろう?」


カナンがそう言うと、アリスキテラは乾いた笑い声を洩らしてカナンから視線を逸らした。


「…とっくに700歳を越えました」


アリスキテラがそう口にすると、カナンは目を剥いて驚愕した。


「…ハイエルフとはそこまで違うのか。純粋なダークエルフは400年ほど生きるが、100歳頃にはもう貴女よりもずっと歳上に見えるだろう」


カナンがそう言うと、アリスキテラは意気消沈したように肩を落としたまま頷いた。


「老化が止まるならもう少し大人に近い外見で止まって欲しかったわ…」


アリスキテラはそう呟くと自嘲気味に嗤った。


思いも寄らぬタイミングでアリスキテラのコンプレックスが発覚したが、問題はそこでは無い。


ゲーム内では、どの種族を選んでも好きな職業で遊べるように、各種族の差というものは少ない。


精々言うならば、個性としてエルフや妖精族は魔術が得意といった程度だろうか。最強のキャラクターを作ろうと思えば確かに馬鹿に出来ない差が生じるが、例え魔術適性が最悪なドワーフであっても頑張れば最上位の魔術を使えるのだ。


つまり、エルフとダークエルフにそこまでの違いは無い。強いて言うならば、エルフは弓適性が高く、ダークエルフは魔術適性が高いが、極める人以外には誤差の範囲だ。


なにせ、俺が育てたキャラクターは外見のバランス重視で作っているが、最強クラスのギルドになっている。


と、いうことは…俺が実験中だったものの幾つかに答えが出る可能性が高い。


これは意地でもダークエルフを味方に引き入れねばならない。


反則技を使用しても、だ。


「カナン。対魔術結界は使えるか?」


俺が唐突にそう質問すると、カナンは不思議そうな顔をしつつ頷いた。


「は、はい。一人前のダークエルフならば皆一枚の結界を張れます。上位魔術を一度防げる者も中にはいますが…」


困惑するカナンに、俺は微笑みながら言葉を発した。


「よし、儀式を受けるとしようか」


俺はそう言って、腕を組んだ。


俺の言葉を聞き、エルフの国の四人は不安そうな顔を浮かべ、カナンは表情を引き締めた。


「し、しかし…いくらレン様といえど、同じ代行者様の従者達の魔術を受けては…」


「古代の代行者様と英雄達の魔術は今とは段違いと聞きます。レン様の従者達の皆様を呼んでくるべきではないでしょうか」


俺を心配するそんな声が掛けられるが、俺は肩を竦めて皆を見た。


「大丈夫だ。ダメなら次は部下を200人くらい連れてくる」


俺はそう言って笑うと、カナンに対して口を開いた。


「今からこの場でやるのか? 長屋はどうする?」


俺がそう尋ねると、カナンはフッと息を漏らすように笑って頷いた。


「レン様が良いのでしたら、早速お願い致します。長屋など全くお気にせずに」


カナンはそう言うと立ち上がった。


「私は公平を期す為に外で待つが、エルフ達はどうする?」


カナンがそう聞くと、アリスキテラ達は一様に厳しい目でカナンを見返した。


「せめて、我々がレン様の盾となります。私ならば最上位魔術も二つ…いいえ、三つは耐えてみせます」


アリスキテラがそう言うと、サハロセテリとシェラハミラが頷く。


「私達は最上位魔術を一つ防げるかどうかでしょうが、命に代えても一つは止めてみせます」


3人のハイエルフの言葉を聞き、唯一のエルフであるイツハルリアは歯を食いしばって自らの膝を握りしめた。


「わ、私はなんとか上位魔術だけでも…ぐぬぬ、不甲斐ない…」


何故か悔しがるイツハルリアに笑いながら、俺は皆を見た。


「お前達も外に出てろ。結界は範囲を広げたほうが弱まるからな」


俺がそう言うと、四人は驚愕して立ち上がった。


「い、いけません! そんな危険な…!」


「レン様の身が無事ならば、我々は…!」


そんなことを言ってくるハイエルフに俺は微笑む。


「大丈夫だ。ラグレイトはどうする? お前は魔術士じゃないからな」


俺がそう聞くと、ラグレイトはムッとしたように俺を見た。


「僕くらいは良いでしょ? 本気になれば結界無しでも5回は最上位魔術に耐えられるよ」


ラグレイトはそう言って胸を張った。流石は龍人。耐久力は一番である。


そんなラグレイトの台詞は、体力が無いエルフ達にも驚嘆すべき内容だったようだ。全員がギョッとしていたが、俺は気にせずにエルフ達全員に片手を振る。


「それじゃあ、俺達だけ残るからお前達は出ててくれ。そうだな。全員が出て一分後に儀式を始めてくれ」


俺がそう言うと、色々と何か言っていたが、最終的にはエルフ達は全員長屋から出て引き戸を閉めていった。


室内に俺とサニー、ソアラとラグレイトの四人になったのを確認して、俺は笑みを浮かべた。


「四方結界を張るぞ」


「やっぱりね。ズルじゃない? 我が主」


俺が一言作戦を告げると、ラグレイトが苦笑しながらそんなことを言ってきた。


その言葉に、ソアラが首を振る。


「いいえ、恐らくそれが本当の答えでしょう。我が君にしか出来ない手段ですから」


ソアラはそう言って微笑を浮かべると、サニーは不服そうに口を尖らせた。


「私とソアラが結界を張ってもいけると思うけど」


サニーがそう言うと、ソアラとラグレイトは困ったように笑いながら俺を見た。


俺は肩を竦めてアイテムボックスから四方結界の為のアイテムを取り出した。


青龍、白虎、朱雀、玄武のミスリル像である。


これを各方角に設置すると、5分間魔術を完全に遮断する結界を使うことができる。


本来ならこれはギルド対抗戦で勝敗を決する自陣のフラッグを守る為か、攻められている側が通路などの逃げられない場所で魔術士を封殺する為のアイテムだが、今回の儀式には最高の代物だろう。


「さて、北はどっちだ?」


「え?」


「…どっちでしょう?」


「転移してきたから分からない」


サニーの言葉を合図にしたように、世界に光が満ちた。



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