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最強ギルドマスターの一週間建国記  作者: 井上みつる/乳酸菌/赤池宗


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ダークエルフの長老

ダークエルフの家は日本の長屋のような雰囲気の造りだった。


屋根はもちろん瓦では無いが、木製の柱と板を使って作られており、間取りも日本で言う所の共同トイレ、風呂付き一ルームアパートといった形に近い部屋が横並びに四つ並んでいる。


一部屋の広さは十二畳ほどで、家具などはあまり無かった。部屋の裏手にその長屋の住人達が使うキッチンらしきものがあった。


その四部屋を一セットにしていくつもダークエルフ式長屋が建ち並んでいる。


とりあえず、あのピラミッドから降りた俺達をダークエルフは崇め続けるので、長老の家で話をすることになった。


ちなみに、驚くことに長老の家も長屋の一角である。


「狭い家で申し訳ございませぬ。私が長老を致しております、カナンです」


そう言って、二十代ほどに見える背の高いダークエルフの女は俺に頭を下げた。黒く長い髪だ。今はローブも脱いでいて、ぴっちりと体のラインに合わせた革の服らしきものを着ている。


服の形から、何となくライダースーツを彷彿とさせた。エルフは細身の者ばかりだったが、カナンはそれなりに出るところが出ていて艶かしく感じてしまう。


だが、特筆すべき点はダークエルフの文化だ。なんと家に上がる前に靴を脱ぐ日本スタイルである。そして、カナンは正座して頭を下げている。


ダークエルフの里には日本の文化を感じるな。


俺はそんなことを思いながらカナンに対して口を開く。


「いや、気にするな。綺麗な良い部屋だぞ。俺はレンという。後ろにいるのが、俺の部下のサニー、ラグレイト、ソアラだ。後はエルフの国から連れてきたアリスキテラ、サハロセテリ、シェラハミラ、イツハルリアだ」


俺がそう紹介をすると、カナンは横目に皆を見て頭を下げた。


エルフの国の四人はかなり緊張した様子でカナンに頭を下げ返している。


やはり、アリスキテラが言うように、遥か昔にバラバラになった元同志の子孫同士が顔を合わせるというのは複雑な気持ちになるのだろう。


カナンはその四人の態度と表情を見てもさして気にすることなく、すぐに俺に顔を向けた。


「レン様は、神の代行者様であると従者の少年から聞いております。我々は、いずれまた降臨なさるであろう代行者様にお仕えするべく、日々研鑽を積んでまいりました」


そう言って、カナンは胸元から革の服の内側を弄り、長さ20センチほどの鞘に入った短刀を取りだした。


複雑な装飾の入った黒い鞘だ。その鞘から短刀を抜くと、そっと音も無く床に置いた。


柄は違うが、刀身は赤みがかった金色。オリハルコンの短刀だ。


その短刀を見て、エルフの国の四人は驚きの声をあげた。


エルフの国でオリハルコンを見た記憶はないが、オリハルコン製の装備を持っているということか。


「それは、英雄の証…」


アリスキテラが短刀を見てそう呟くと、カナンは頷いた。


「これは代々、ダークエルフの長が受け継ぐ一族の宝です。エルフの一族の元にも同じように代行者様に仕えた英雄の証があることでしょう」


カナンはそう言って一度話を切ると、俺の表情を見ながら口を開く。


「この証を一族の誇りとし、ダークエルフの民は代行者様に再度仕える為に、一族の者を世界中に旅立たせ、代行者様の手脚となる者や組織を作っています」


カナンはそう口にすると、顎を引いて俺を見上げた。


「故に、今の我々の力は、一国を凌ぐものと自負しておりますが、その力をもしも間違った形で使われてしまったら、大変な事態を招くことになる…そう危惧した我が一族の祖先は、代行者様が現れた際に、一つだけ確認をとることと厳命されました」


カナンがそう言うと同時に、長屋の外から妙な色の光が長屋の中に向かって漏れてきた。


その光を見て、サニーが眉間に皺を寄せてカナンを睨み、アリスキテラとサハロセテリは緊張感を滲ませて立ち上がった。


「無詠唱…! なんの魔術を…!?」


サハロセテリがそう口にすると、アリスキテラは奥歯を噛み締めて周囲に鋭い視線を向ける。


「そんな…これだけの数の者達が無詠唱で…我がエルフの民よりも魔術を極めているというの?」


漏れ出した光を見回しながらアリスキテラがそう呟き、その言葉を聞いたカナンは失笑と共にアリスキテラを見た。


「誰がエルフを世界最高の魔術士集団としたのか。この世界の民であろう? その力は我々のような代行者様の従者だった者達の子孫とは比べ物にならないほど脆弱である…そんな者達から見れば、それなりのレベルの魔術士を多く手勢に持つエルフの民が最も優れて見えただけの話…」


カナンはそう言って俺に視線を向けた。


この世界に来て、俺のメンバー以外が初めて使うステータス的な意味でのレベルという言葉。


まさに、元NPCキャラクターであった者の子孫ということか。


周囲の光も、魔術の発動前と待機状態に出る光だろう。属性別に色合いが違う為、様々な色の光が混ざって妙な色合いの光となっているのだ。


どの程度の威力の魔術かは分からないが、光を見ればその数は何となく分かりそうだが。


俺が胡座をかいて座ったまま辺りを見回していると、カナンは静かに顔を上げた。


「代行者レン様…我々はエルフの民と道は違えましたが、エルフの民の目を信じております。1400年使われなかった転移陣を使い、レン様をこの場へお連れしたのも、レン様を間違いなく代行者様であると判断した為」


カナンはそう言って一度目を伏せた。深く息を吸い、ゆっくりとその息を吐き出す。


そして、カナンは目を開けた。


「我々も信じております。レン様はこのような上位魔術程度、難なく防いでくださると…レン様、この代行者様を試すという無礼な儀式を、受けてくださいますでしょうか?」


カナンは、僅かに唇を震わせてそう口にした。


俺はそのカナンを見て、口の端を上げた。



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